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陰謀捜査-09

「では次の質問なのですが、雨宮律君は天才ゲーマー・リッカとして名を馳せ、現在はFDP問題の解決に尽力してくれていると大々的に宣伝しておりますね。多くのファンからお声などが届いているのではないでしょうか?」


「ええ、本当にあの子は幸せ者ですね。多くのファンから『リッカ、皆を救ってくれ』といったお言葉を頂いております」



『海藤雄一と九十九さんが連絡を取れたとして、彼はどこからその情報を』


『それは自分も分かりかねます。しかし彼だからこそ知り得る内容があるんでしょうな』


『信用していいのですか?』


『勿論全面的に信用しているわけではありませんが』



 と、そこで自分は、言葉を発しながら次の文章を入力し、見せる。



「天才ゲーマー・リッカとしての彼は本当に輝かしい戦歴の持ち主ですから、世のe-sportsゲーマーが彼を応援する気持ちは分かります。ですが反してお父様である将さんを批判するお声もあるのではないでしょうか」



『ある程度信用たる男であると信じています。


 何せ自分も、律君と一緒にFDPへ乗り込んでいますからね』



彼の目が見開き、思わず口を大きく開けて驚きそうだったから、自分が手に掴んだカップを落とし、ガシャンと割れる音を奏でさせた。



「ああ、申し訳ありません。どうにもやはり久々の取材は緊張しますね」


「い……いえ」



 カップの落とした音を聞いてか、秘書の人がノックと共に『大丈夫でしたでしょうか?』と声をかけてくれた。


 将は秘書に「お茶を溢してしまったから掃除を頼めるかな」とだけ声をかけ、掃除が終わるまでの間、自分はメモを将へと見せた。



『本当です。そしてログインをする為のコクーンも私のカバンに』



 メモを受け取りながら、自分の手に持つカバンに視線をやる将。金色の、蜂の様な外観をした腕に巻き付ける機械が目に映ったのか、コクリと小さく頷いた。



「大変お待たせいたしました」


「いえいえ、申し訳ありませんカップも割っちゃって……」


「安物ですから気になさらないで下さい」



 秘書の人が再び退室し、足音が遠のいた事を確認した上で、再び席に腰かけ、キィボード入力をしていく将だが、彼の表情は暗い。



『ではFDPの問題は解決したという事なのですか? 一度ログインをしてしまったら、クリアまでログアウトが出来ないと言うお話でしたが』


『いいえ。自分は少し奇跡的な出来事が重なりまくった結果、ログアウトが出来ただけです。海藤雄一曰く「同じ方法は無理」だそうです』


『では最近、九十九さんの記事が更新されていなかった理由は』


『ええ。昨日ご説明した内容は嘘です。ごめんなさい』



 悩むように、表情を青くしていく将だが、そうなる事を予想して自分はここまで自分の素性を明かしたのだ。このまま押し切らせてもらう。



「では取材を続けます。批判はやはりあったのでしょうか」


「え、あの……」


「ああ、先ほどの質問についてです。息子さんである律君が天才ゲーマー・リッカとしてFDPに救出へ向かい、批判があったという話も聞いていますがどうでしょう、というね」


「あ、ああ……批判ですね。も、勿論ありましたが、私としては息子の自主性、そして息子自身の力を信じ、送り届ける覚悟をしました。批判は幾らでも私が背負いましょう」



『海藤雄一はゲームの攻略に全力を費やしています。そして何より、律君やテストプレイヤー達、自分の様な律君と共にFDPへ突入した者の命を助けるために』



「自主性を信じ、とのことですが、まだ律君は子供です。自主性は大人が宥め、そして時に危険な行為を止めるのが親というものではないか、と私も思っちゃうのですが」


「いや、その……も、勿論大人としてそうであるべき、であるとは、思いますが」



 混乱してきてるな、よしよし。自分もちょっと混乱しそうですが、この辺は長く記者として培ってきた経験がある。そう易々と書いてる内容と書かれている内容、そして口に出す言葉や出された言葉を許容できないお粗末はしないさ。



『一旦取材はやめませんか?』


『申し訳ありません、盗聴があるという前提で動きたい。先ほどのカップが割れた音で少し動揺している、という体でそのまま進めて下さい』



「あ……あー、ごめんなさい。先ほどのカップでちょっと心臓バクバクしてまして。あの音って怖いですよね」


「割っちゃってすみませんでしたホント。少し深呼吸なさったらどうです?」


「はは、そうします」



 その間は取材を止めなければいけないが、しかし深呼吸している最中にキィタッチ音が聞こえていい筈がない。彼は深呼吸しながら考えをまとめるようにしたが、しかし自分はスマホの文章で追撃を。



『そして実際、私にはヤクザが寄越されたり、FDP開発に外務省や経産省、総務省が絡んでいるという実情を知り、FDPの事前データ削除に動く可能性も否定できません。


 息子さんを助けるために、ご協力をお願いしたいのです。何か知っていることがあれば、教えて下されば幸いです』



「わ、私は――っ」



 声を上げそうになる将だが、再びカップを割るわけにもいかず、今度はスマホを机に落とし、ガンと高い音を鳴らす。


その音でビクリと震えた彼へ自分は笑いかけながら「失礼ながら、雨宮さんの体調が悪いように見えますが」と言葉にする。



「取材はまた今度という事で、止めておきましょうか?」


「え……」


「いや、体調悪いのに取材を受けて頂けるなんて、記者冥利に尽きますね」



 スマホを拾いながらメモ用紙を切り取って、渡す。



『律君を救うために力を借りたい。体調不良で会社を抜けて、裏手にある個人経営の喫茶店へ来てください』



 そう書かれたメモを渡した後、将と目を合わせて「では私はこれで失礼します。お大事になさってください」とだけ言い残し、退室。


 そのまま秘書の人に挨拶をした後「どうやら雨宮社長、体調悪そうなんです」とだけ伝えておき、自分はエレベーターに乗って本社を出る。


すぐにスマホを取り出して富山氏に電話。



「もしもし、SHO本社近くにある個人経営の喫茶店、そこに盗聴器などがある可能性は」


『いきなりなんです? ――無いです。調べてあります』



 恐らくグレイズ・コーポレーションの社長室にいるからか、具体的に何がどう無いのか、等は口にすることなく、富山氏が返答をしてくれる。自分もこれ以上はどうかと思ったので「ありがとう」とだけ礼を言って、そのまま喫茶店へ。



小ぢんまりとした、薄暗い照明の喫茶店に入り、ウインナーコーヒーを頼んで席へ腰かけ、一応雨宮将にSMSで住所だけを送信。


そうして二十分が経過する頃――雨宮将は、随分と慌てた様子で店へと訪れ、奥の席に座っていた自分へと会釈をする。



「お……お待たせしました」


「いえ。あ、ちなみにこの店に盗聴器などはありません。声だけ控えて下さればOKです」



 店内は自分たちの他に新聞を広げた初老の男性が一人と、店主である男の二人しかいない。そんな中自分らが訪れたので、今の店内には四人いる事になるが、気にする事も無いだろう。



「……協力と言っても、私は何も情報を持ち得ていませんよ」


「ええ、先ほどのやり取りで、それは分かりました」



 そもそも、本来する必要も無かった取材の内容を『FDPに突入したリッカの話題』にしたのも、彼を動揺させる為の理由に過ぎない。


文章でのやり取りと口頭でのやり取りが、まるっきり異なる内容の二人である場合は彼の動揺も引き出せなかっただろうが、同じようなやり取りをするからこそ、思考が回しにくくなり動揺しやすい。


その中で彼はきっぱりと「自分は何も」と言い切った。言葉にした。文章ではなく、言葉で。


ならば、そこに隠し事はあっても偽りは無いだろう。

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