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陰謀捜査-05

「九十九さん」


「え、あ、はい」


「着きました。九十九さんの名前で予約してありますので、フロントにお声かけ下さい」



 首都から外れた、埼玉県の地方にあるビジネスホテル。あの経営者の顔を前面に押し出した奴である。



「一人部屋なので女の子を連れ込んだりとか止めて下さいね」


「自分にそんな事が出来ると思っておられるんですか?(怒)」


「……すみません。では明日もお迎えに上がりますので。あ、コレ着替えです」


「すみまそん。ではお休みなさい」



 去っていく彼女の車を見届けた後、フロントに声をかけて部屋に向かう。


こじんまりとした、ザ・ビジネスホテルと言った風貌の部屋だが、個人的にこうした部屋は嫌いじゃない。


何にせよ、まずは盗聴器などが仕掛けられていないかどうかだけ確認した後に、ドアや窓を施錠、カーテンもかけて、シャワーを軽く浴びた後、手帳を広げる。


手渡されていたスマホに直接電話番号を入力する形で、一人の男が持つ携帯電話に、発信。



『誰だ』



 ドスの効いた男の声が聞こえた、一秒ほど時間を空けた後に、合言葉を述べる。



「ショタっ子と年上お姉さんの組み合わせは最良」


『ショタっ子とロリっ子の組み合わせは蛮勇』



 そう返答できたという事は、現在彼は一人だと言っても良いだろう。



「もすもす、そちらは円次郎氏ですな」


『かく言うそちらは九十九氏ですな』



 本日、自分らに対して交渉を持ち掛けてきたヤクザ、遠山円次郎氏の携帯電話だ。



「今大丈夫ですのん?」


『大丈夫でなければ先ほどのような合言葉は難しいのでして』



 マジでヤクザボイスのまま放たれるキモオタ文言は脳と耳が可笑しくなるけれど、しかしそれは既に慣れたものである。



「仕事の話なんだけど、構わないかな?」



 トーンと用語を失くし、仕事モード。


こうなると円次郎氏も仕事モードに入る。



『今日の事か』


「ああ、そっちにも迷惑をかける事になって済まなかった」


『気にすんな。こっちも商売だが、商売だからこそ、引く時は引くさ』



 で、と言葉にしてから、一秒ほど時間をおいて、彼は煙草に火を付けたのか『ふぅ』と息を吐いたような音が出た。



『今日の事なんだが、オフレコにするからよ、幾つか聞きてぇ』


「信用していいのか?」


『まぁ、ヤクザもんを信用していいわきゃねぇ、なんつーのが常識なのは百も承知さ。けどこっちも、なるべく多く情報を握っときてェのは間違いないし、オレが知ってる情報は、流せるだけ流すと約束しよう』


「そっちこそ、自分を信用していいのか?」


『そっちに有利な条件として、あの姉さんに関する事は喋らなくて構わねェよ。九十九氏の事だから、その辺は盗聴も含めて警戒してるだろうしな』



 悪くない条件かもしれないが、一応伺っておかねばならない事がある。



「今日の交渉、例えば自分がそっちを謀ったって言ったら、怒るか?」


『いや』



 サラリと言ってのける彼が『そうだと思ったよ』と続けた。



『情報を得てる得てないはともかくとして、あそこを切り抜ける算段であるだろうとは思ってたからな。金や他の要求がなけりゃ、あれで手打ちにしねェと、それはそれで状況が悪化しかねないと判断した。勿論部下には言ってねェがな』


「親父には?」


『一応報告してある。アンタの名前を聞いた時、少し嬉しそうな顔してたって事だけは教えといてやる』


「三鷹の親父、元気にしてるか」


『ああ。今度顔見せに来いよ』


「そうするよ――まぁお察しの通りだ。あの時壊したICレコーダーには証拠が入ってなかった。が」


『オレらにカマかける程度には調べてたって事だな』



 円次郎氏も、正直どこまで話していいかと言った様子の声で唸った後『今何時だったか』と声をあげる。



『あぁ、二十時過ぎだな――外、出られるかい?』


「問題ないが、どこで落ち合う。ちなみに今自分は埼玉の東松山なんだけど」


『東松山か。丁度いい、あの店で落ち合おう。あそこならオレを追う奴も、そっちを付け狙う奴もいねぇだろ』


「なら先に入っているぞ」


『ああ』



 スーツはそのまま、フロントに食事をしてくると伝えた上でカギを渡し、そのまま電車に乗り込んで向かうのは地方の飲み屋街で、自分が入った店は――



「お帰りなさいお兄ちゃんっ!」


「ただいまですぞミナ氏ーっ!」


「ツクモお兄ちゃん最近ずーっと来てくれなくて、ミナ寂しかったのですっ。もしかしてーエンジローお兄ちゃんも来るのです!?」


「来ますぞ来ますぞー。あ、奥の席空いてますかな?」


「はい空いてますっ、お兄ちゃん一名様、お後一名様お帰りですーっ」



 妹カフェ&バー・シアタープリンセス。自分と円次郎氏のお気に入りで、店主は先ほど接客してくれたミナちゃん。何度か自分の取材にも応じてくれた歴戦の妹(二十七歳)である。


昼はカフェ、夜は居酒屋として経営している事もあって、パンピーの客からオタクまでが押し寄せるし、こうした店には珍しく個室もある。(妹と戯れる時間が減るので、個室はあまり人気が無いけれど)


ミナちゃんは元々サブカル系のフリーライターから、このシアタープリンセスの経営にジョブチェンジした事もあり、ネットメディアを使った宣伝などを駆使し、この店を五年以上切り盛りしている。



「ミナ氏」


「はーいっ、なんですお兄ちゃんっ」


「お兄ちゃん同士でちょっと大人なお話するので、周りの個室には他のお兄さんを近付けないでくれると助かるのですが」


「ふふ、わかりましたですお兄ちゃんっ! ――今度は何のヤマを追っかけてるのです?」


「言えないのでござる」


「わーっ、大人の香りがするのですーっ」



 通された奥の個室へとやってきて、彼女が見ている前で盗聴器などが無いかを探す。ちなみにミナちゃんも大っぴらには探さないが、しかし電源タップや椅子の下、机の足元等、見つけにくい所を軽く探してくれた。



「じゃあゆっくりしていってくださいですお兄ちゃんっ! エンジローお兄ちゃんも来たら案内しますでーすっ!」


「ありがとうございますですぞミナ氏」



 最後に軽くハイタッチをした上で別れ、スーツの上着を脱いでしばらく待つ。


そうしていると入店音と共にミナ氏の声と、円次郎氏の声が聞こえてきた。



「九十九氏ーっ!」


「円次郎氏ーっ!」



 今日会った時とは正反対な態度で自分らも手を振りながら会釈し「いつもの」とだけ注文をしてから、届いた『妹ぱぅわー充電はーと愛しのお兄ちゃんへ手作りソーダフロート』と『そんなに飲んだら酔っちゃうケド、介抱は妹にお任せっ! 魔王ロック』。


円次郎氏が脱いだコートをハンガーにかけ、ネクタイが緩められた事を確認してから、本題に入る。

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