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九十九任三郎-08

 クククと笑う将が、今秘書の入れていた茶を飲み干し、席を外した彼女の代わりに、今度は備え付けられたコーヒーメーカーを起動。



「建前で言うのならば『無茶をするな息子よ』と言いたいところですが、本音は『よく言った、お父さんは鼻が高いぞ』といった所ですかね」


「ですが、実の父親としてはどうなんでしょうかね」


「私はゲームに詳しくない。知ろうとも思わない。何が面白いのか、どう楽しめばいいのかも理解できない。


 しかし、人々は何時だって本物を求めるもの。かつて律は天才ゲーマー・リッカとして人々の心を動かしたでしょう? であるならば、奴は本物であったのだろうし、その本物である奴にクリアできないゲームは無いでしょう」


「命の危険性についてを問うているんです」


「クリアできれば良いのでしょう? であれば、律がクリアできると信じているから見送り、奴を広告塔にして、我が社のイメージアップに利用した、という所ですかね。あの子と仲良くしていた九十九さんは、あまり気持ちよくないかもしれませんが」


「……正直な所、ええ、あまり気持ちよくはないですね」


「ですがコレが私の本音です。非人間的であるかもしれないが、私はゲームに詳しくないからこそ、息子を信用した。それに人命も懸かっている。私の息子が人命救助の一端を担う事が出来るのならば、父としてこれ以上誇らしいことも無いでしょう?」



 長らくこの男と付き合ってきた自分だが、この男は正直、嘘と本音を見抜くことが難しい。


この男も、長く社長として社会の荒波に揉まれ続けてきた男だ。


 だからこそ、こうした答弁の中にも「嘘と本音」を混ぜて、どこが本音でどこが嘘かを判別出来ないようにしているのだろう、とは思う。



――ならば少し、動揺させるのも一つの手か。



「では次の質問をよろしいでしょうか?」


「ええ、まだ時間はそれなりにありますから、ごゆるりと」


「この情報は真偽がまだハッキリとしていないのですが……今後の犠牲者を出さない為に、FDPのゲームデータそのものを現段階で削除し、早々に問題解決を図ろうとする者がいる、という噂があるのですよ」



 言葉を止め、目を可能な限り動かさず、雨宮将だけを観察する。


彼は一度ピタリと動きを止めた後、コーヒーカップを僅かに傾けさせながら、しかし音を立てずに机へ置いた上で「ほう」と相槌を打つ。



「それは、どこから?」


「申し訳ありません。守秘義務がありますからね、情報の出所はお伝え出来ないのですが、こうした噂はご存じでしたか?」


「いいえ知りませんでした」



 少々食い気味、かつ早口で返答をした。


 ……これが「知らないからこそ動揺した」と考えるべきか「九十九という一記者が知っていることに驚いたから動揺した」と考えるべきか、それとも「動揺したという演技」と考えるべきなのか。


何にせよ、アクションがこれまでと違うのだ。


つまり、突っつく必要はある。



「私もこの情報をどこまで信じていいのか疑問でして、だからこそこうして緘口令が敷かれている現状でも、無理矢理取材をさせて頂いているんですよ。なにせ律君も危険ですからね、これが事実ならば」


「ええ、そうですね。それが事実ならば大変な事だ。私もそれは是非、真偽を知りたいなぁ……情報の出所も含めて」



 僅かに視線が泳いだ事、そして真偽のハッキリとしない内容に動揺し、出所を気にする口振りから、グレー寄りの黒と仮定。



「私の伺いたい事は以上です。お忙しい中お時間を頂きありがとうございました。もし今回の内容を記事として掲載する場合は、一度ご連絡と内容精査をお願いした上での掲載となりますので、その際にはまたお時間を頂く可能性がございます、ご了承をお願いいたします」


「いえ、それよりも先ほどの事も気になりますので、また是非お話をしましょう。取材、頑張ってください」


「ありがとうございます」



 立ち上がりながら将と握手した後、部屋のドア近くで今一度お辞儀をし、退室。


エレベーターで一階まで降り、受付のお姉さんに入館証を返却した。最後までこの人自分にビビってるなぁ……。


 スマホを取り出し、ここまでの録音を停止。ちなみに、ICレコーダーはまだ録音中のままだ。


 通話発信、相手は富山氏。



「もしもし、今どちらですのん?」


『終わりましたか?』


「ええ、そちらに合流しますんで、場所を」


『いえ、少々建て込んでおりまして、貴方は是非そのまま人通りの多い所に』



 鉄パイプの音が聞こえた。通話が切られ、富山氏が切ったのか、それとも何かハプニングでスマホが壊れたのかは分からない。


しかし何にせよ、彼女は『人通りの多い所に』と言った。つまり『人通りの少ない所で何かあった』と考えるべきだろう。


 スマホの地図アプリを起動、その上で現状の駅近オフィス街周りに人通りの少ない場所、そして富山氏の性格上、どう言った移動をしていそうかを考える。



(富山氏は恐らく、ここから一番近いコインパーキングに向かった筈だ。コインパーキングであれば領収書も出るから、金にがめつい富山氏でも駐車料金がどれだけかさもうが、領収書と共に交通費を請求できる。つまり高い安いを考える必要は無い。


 そこから彼女が車から降りて時間を潰す可能性――十分にあり得る。そして自分が合流した後の事を考え、なるべく人目の付かない場所に移動すると考えれば、大手チェーンのコーヒーショップやファミレスに行くとは考えづらい、つまり……個人でやっている喫茶店等々)



この辺りの立地もある程度は理解している。そうした取材で使う喫茶店も知っている。その上で地図アプリで検索した一番近いコインパーキングを割り出し、さらにそこから一番近い個人の喫茶店を頭の中で思い浮かべる。


一軒、ある。その近くの人通りが少ない場所は――と再び地図アプリを見て、人通りが少ない、というより裏道のような場所があると調べ終わる。



急ぎ、走り出す。


来るなと言われていようが、この肉体は二次元幼女を守る為に鍛えたのだ。


 女性を守るために行かなければ恥となる。



――言うとすれば、富山氏は二次元幼女じゃない事っすかね。

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