九十九任三郎-02
社長室を飛び出していく富山氏を見届けて、自分は時系列整理に戻る。
「何にせよ、海藤雄一はその後人体の量子化移動技術を確立させ、ゲーム開発を完了した。コレが四か月程前と仮定し、その際にテストログインを敢行するが、弾かれた上に垢BANされてザマァ状態、と」
「随分フランクな考え方するね!?」
「自分、昔はかなり堅物でしたが、こっちの方が性に合ってるんすわ」
「堅物?」
「前はアニメやゲームじゃなくて、政治のコラム記事書いてたんすわ。それもガッチガチ理想形の、左翼的思想家ってよく言われましたわぁ」
と、話がズレた。今は時系列についてまとめなければ。
「垢BANされた海藤雄一は、何かエラーが起こっている可能性を鑑みて調査をするが、そこで称号データにエラーが発生、そこからネズミ算式にエラーが続出、正直ゲームが何故動いてるのか分からんレベルにまで甚大なエラーが発生した、と」
「そこで私に直訴を行ったけど、私も色んな所から突っつかれてもう発売を延期したり中止するのは無理だと跳ねのけたんだよね」
「そこで『安全を確保できない』と言われてるのに、どうしてそのまま跳ねのけちゃったんすわぁ?」
「だって、言うてゲームのエラーじゃない。安全を確保できないって言葉だけじゃ、まぁデータが消えるとか位だと思うじゃないか。だから詫びのレアアイテムでもあげれば、ユーザーの不満も軽減できるかなぁって」
今は反省してるよ? と言葉にする岩治を、しかし責める事は出来ない。
確かに既存のゲーム概念だけを考えれば、ゲームという娯楽において人命が脅かされると誰が考えよう。
人体の量子化移動と言えばSFチックで非常に恐ろしいと思う人間もいるかもしれないが、それこそ正常性バイアスの働きやすい人間という種が、元々【ゲーム】という先入観を持っている娯楽に対して危険という考えを結びつける人が、どれだけいるのかという話でもある。
「そしてそれは、社長だけじゃなくて、恐らく各関係省庁の閣僚も同様に考えたわけですな」
「まぁ、確かに私も思い返す限りで、海藤雄一と関係省庁のお役人が話しているって聞いた事ないし、もしかしたらそういう話し合いなんかは無くて、圧力だけがあったのかもしれないね」
さらに加えてしまうと、海藤雄一本人に『強くゲームの開発延期をしようとする気が無かった』事も理由の一つだ。
元々彼は、このFDPというゲーム内のNPC達が自我を、感情を有してしまった結果、この世界を延命させる方法を探していた。だから役人や岩田を強く刺激せず、あくまで穏便に開発期間の延期を求めたわけだ。
何せ本当に人々へ与える影響が大きいと分かってしまえば、開発の延期どころか『人命優先』によってゲームデータの削除を命じられる可能性すらあり得るから。
「結果彼は失踪し、トモシビ内に引きこもった」
「ただ、富山君の調べだと、海藤雄一へ支援してる団体がありそうなんだよ。経済産業省や総務省だけかと思ったんだけど、どうにも公安も絡んでるっぽい?」
「ハムが? ……いや、違うのか? どっちの公安です?」
【ハム】とは公安警察の隠語で、公の字がハとムの文字で構成されていることからこう呼ばれている。
「ど、どっちの公安って?」
「公安というだけだと幾つか考えられるんですわぁ。日本の治安維持に関して動いていて基本的には極秘裏に動くハム――つまり公安警察と、他にも警察内部の調査を行う公安委員会、法務省の外局で国際テロとかの未然防止を目的に調査を行う調査庁とかもありますが、今回動きそうなのだとハムと公安調査庁の方だと思うんすわぁ」
「あー、どっち、なんだろう。私も分からないけど、その場合だと公安警察の方じゃないの? 公安調査庁が動くような案件じゃないと思うんだけど」
「いえ、十分あり得ますわぁ。だってホラ、そもそもこのゲームの開発資金援助で中国国営IT企業【アーフェイ】やロシア国営IT企業である【マシロフ】が動いてるじゃないですか。
それに加えて今現状は受けてないっすけど、人道支援目的でこの二社が支援金を投げ銭しようとしてるじゃないっすわぁ」
「投げ銭ってそんな実況配信者みたいな……いや、でも両方とも日本支部ある企業だし」
「それに加えて外務省まで動いている。つまりそれだけ国際的な注目も高く、しかも今回主題になっている技術が物質の量子化運動だ。今後のテロとかを未然に防ぐという調査庁の動きとも矛盾はしませんわぁ」
キナ臭い香りまでしてきたが、色んな所で色んな思惑が動きすぎてて気持ちが悪くなってくる。
何にせよ、今から自分がしなければならない事は最低一つ。
海藤雄一の言う「現段階でのFDPゲームデータ削除へ動こうとする者」の調査と、可能であれば排除。(物理的な意味合いは持ってないっすわぁ。あくまでその思想を排除するってだけっすわぁ)
これを何より優先しなければ、未だゲーム内で攻略に勤しむリッカ氏達が危ない状況だ。
次に、現段階では必須でこそないが、将来的に動かなければならない事が一つ。
それがFDPというゲーム世界の削除そのものを止める事。だがこれがなかなかに難しい。
ゲーム世界内に芽生えた意思を殺さぬためにゲームデータの削除はしません、というのは、世論も相まって非常に反発が起こりえるだろう。
既に経営もままならぬ筈のグレイズ・コーポレーションに、そうした反発を払いのけてまでFDP世界を継続させる資金があるとも思えない。
しかも現段階でFDPの削除に動く人間がいるという事は、人命の救出作業が終わった後にデータ削除の強行に動く者も必ず出てくる。
ゲームから無事に脱出を果たし、害を被る者がいないのであれば、データの命よりも今後の被害を抑える事が先決だ、とする思考を否定できまい。
「コレは……なかなかに難儀な事になりそうっすわぁ……」
しかし泣き言ばっかりも言っていられない。
まずはFDPの開発事業に関わった者と、現在の問題解決に動いている者を照らし合わせ、共通している人物を調べる事としよう。
そうした者が現段階でゲームデータの削除に動いている可能性があり、その者達を何とか懐柔できれば、後の救出完了後にもある程度FDPのデータを保持する事を認めてくれる場合もあり得る。




