選択の先に-08
リッカがフル・ダイブ・グランテに、駿足と灼熱のアイコンを装填。
『Run Quickly.』『Fire Active.』
燃え盛る炎を顕現させた大剣を持つにはあまりにも早すぎるスピードで駆け抜けたリッカが、グレイフル・バルの左方翼へと切りかかり、今その付け根から切り落とす。
続けて彩斗がフル・ダイブ・アバルトに、技術と打撃のアイコンをそれぞれ装填。
『Attack Technic.』『Attack Exciting.』
装甲に展開されるスラスター制御によって空中を舞う彩斗の体。それを阻もうと放たれる熱線を避けながら、彼女は下方から高く飛び上がり、その双剣を持つ右腕を、突き出した。
顎にアッパーを叩き込まれる形となったグレイフル・バル。ついでに食らえと言わんばかり左腕による顎への打撃を受けた敵は、数歩後ずさりながら、血を吐き出す。
トドメを刺すには、絶好の機会だ。
二人は自分たちのリングに、アイコンを次々とかざしていく。
『Savior』『Flame』『Frieze』『Technic』『Speed』
『Fifth Progressive Last Action.』
『Daemon』『Flame』『Frieze』『Technic』『Speed』
『Fifth Progressive Last Action.』
リッカと彩斗の右足と両足に集中していく、光と闇をイメージさせるそれぞれの光。
その威力を内包したまま、二者は強く地面を蹴りつけて――
今、まさにマリアが銃弾を撃ち込んで、肉質軟化デバフのかかっていた顔面へと、叩き込む!
寸での所で、口から放たれた熱線。しかしそれをかき消しながら突き出される二人のキックが顔面に叩き込み、その反動を利用して空中で一回転した二者は、今一度空中で姿勢制御、続けて腹部を、続けて翼を、続けて――と、グレイフル・バルの全身へ満遍なくキックを次々に叩き込んでいき。
今二者が、ほぼ同時に地面へ着地し、スリップしながら互いの拳を軽く当て合った瞬間。
グレイフル・バルは、体内の熱エネルギーが膨張するように爆発して、散っていく。
その姿を見届けた後――彩斗は自分の頭を、強く殴りつけた。
「ど、どうした彩斗」
「いや、落ち着いたらちょっと暴走しかけただけさ。でも大丈夫」
変身を解除した彩斗に続き、リッカも変身を解除する。
互いにニヤリとした笑みを浮かべ合って、手と手で叩き合って、パチンと音を鳴らす。
それだけで、何だかゲーマーであった時に戻った感覚がして、二者はとても嬉しかった。
「彩斗、これからも暴走しそうになったら、オレの事を思い出せ。オレは絶対、お前の事を止められる」
「ああ。……ならばもし、次に君が弱音を吐いたら、今度は私が君を鼓舞しよう」
約束だ、と手を握り合った二者を遠目で見ていた四人が、今リッカの元へと駆け出した。
リッカの体へと抱きつき押し倒した上で、涙を流しながら騒ぐのは勿論、マリアとリリナだ。
「ホント、アンタはばかっ! あんだけ傷ついてたのに結局こっち来ちゃって、その上美味しい所全部持ってくとか、アンタのそういう所が……っ」
「そういう所が?」
「……嫌いじゃないっ」
「何だよソレ」
泣きぐずるマリアの頭を撫でながら、今度はリリナの言葉を聞く。
「私だって、本当に心配したんだから……っ、馬鹿、リッカ君の、馬鹿……っ」
「ゴメン、リリナ。……後、ちょっと前から名前で呼んでるけど、大丈夫かな?」
「むしろそっちの方が嬉しいからいい……っ!」
「良かった。流れに身を任せて呼んだから、もし拒否られたらイヤだなとは思ってたんだ」
二人の体を抱き寄せながら、リッカはまだ、言えていなかった言葉を口にする。
「……二人の気持ちはとっても嬉しいし、オレも二人の事が、好きだ」
二人は、決して返事はしないけれど、しかしそれは、拒絶の意味を有していないという事は、リッカにも分かっていた。
「でもオレは、二人とこのFDPって世界だけじゃなくて、現実の世界でも、もっと一緒に遊びたい。一緒に居たい。そう思えたんだ。
――だから、元の世界に帰る為に、戦いたい。
オレが、オレ自身が望んだ願いを、二人にも理解してほしいと思ったんだ」
笑顔で述べた彼の願いに。
二人は、笑顔を浮かべて、ただリッカの体を、それぞれの全力で抱きしめるという、言葉の無い返答をした。
それだけで十分だった。
それだけで――リッカはこれからも、戦えると思えたのだ。
「……ホントに、色々手のかかる子達だねぇ……皆」
「でも、そういう子の方が、エリも好きでしょう?」
「違いないね……っ」
クク、と笑いながら、そんな会話をする二者を見据えるエリとカーラ。
体を起こしたリッカは、二人にもお礼の言葉を述べる為、立ち上がる。
「二人にも、迷惑かけてゴメン」
「ふひ、いいよいいよ。……私も、迷惑いっぱいかけたしね……これ位はお互い様だよ」
僅かに空白の時間は空いたけれど、リッカの両腕を取るマリアとリリナの姿を見据え、エリは、リッカへ一つ、問う。
「どっちか、選ぶの?」
その言葉に、リッカは顎を少しだけ引いて、唇を締めた。
「ンー、デモイーんじゃないデスかぁ? もっとモーット、いっぱいジカンツカってー、そのウエでキメれば」
「……ああ、そうするつもりだ。エリの言葉通り、いつか自分の気持ちを正直に伝えられるように、時間をかけて、その想いを言葉にする」
そう決められたのならば、それでいいだろう。
エリとカーラもリッカへと抱きついて、ただ彼の頭を撫でながら、涙を流し、言葉を投げた。
「オカエリ、リッカ」
「おかえり、リッカ君」
「うん……ただいま」