選択の先に-07
彼――リッカは、彩斗へと視線を向けると同時にモンスターを顎で示す。
グルグルと唸っているだけで、今は攻撃に入ってこない。
恐らく攻撃を与え続け、怒り状態となると、攻撃の威力やパターンは増えるものの、こちらが率先して攻撃しない限り、敵も攻撃を控えるようになるのだと考えたリッカは、彩斗と共に距離を取る。
「リッカ、君はもう、大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないさ。心に負った傷が、そんな簡単に癒せたら、どんな物語だって速攻ハッピーエンドだ」
であるならば、と声を挟もうとした彩斗へ、リッカは不敵に笑いかけた。
その笑みは、心に傷を負い、ただ塞ぎ込んだ者の出来る笑みじゃない。
「ツクモを失った。第二の母さんを、FDPを失った。その悲しみは、何時までもオレの中に、残り続けるだろう。それは、永遠にオレを苦しめるだろう。
けど、オレは気付いたんだ。いや、気付かされたんだ。
例え傷ついても、その傷を背負ったまま、戦う事は出来る。
オレが大切に思う誰かを、オレの意志で、オレの為に守る事が出来るんだ。
――オレは、オレの為に、自分勝手に生きる。
マリアもリリナも、エリもカーラも彩斗もミサトさんも、オレの手が届く範囲にいる人たちは、オレが守る。
オレが守りたいから、守るんだって、そう決めた」
頬に、涙の痕が。
彼はどれだけ涙して、どれだけ悩んで、この決定を決めたのだろう。
心に負った傷と向き合い、涙を流し、それでも、大切な人を守りたいと、そうする事が自分自身の望みだと、そう彼は選択できたのだ。
たった十六歳の少年が。
――命を懸けて守りたいと願う者となり得ている。
「彩斗、行くぞ。アイツは、今のところオレとお前がやるしかない」
「私は、先ほどマリアを傷つけた。暴走して、力を抑えきれなかった。だから」
「オレは彩斗を信じる。――彩斗ならきっと、そうした力に溺れる事無く、戦う事が出来るって」
「だが」
「大丈夫だ。――もし彩斗が暴走したって、今度はオレが止めてやるさ」
「……そこまで堂々と言い切られてしまったら。リッカよりは大人である私は、その挑戦を受けなければならないじゃないかっ!」
リッカと彩斗は、同時にリングを装着する。
それぞれ右手に光と闇のアイコンを構え、それをリングへとかざす前に、リッカが近づくマリアとリリナに、声をかける。
「ゴメンな、マリア、リリナ。でも、オレはお前たちに、守られてばっかりは、嫌なんだ」
「……ホントに、馬鹿なんだから、アンタは」
「うん……後で、めいっぱい、怒ってあげないとですよ、マリアさん……っ」
二人は、涙を瞳にため込みながら、しかしそれでも、事態が事態ゆえに、それぞれの武器を構えて、背後に立つ。
これから先は、リッカと彩斗の戦いだ。
エリとカーラも、笑いながら二人の援護をしようと準備している。
だから。
「行くぞ彩斗――ッ!」
「――ああっ!」
二人同時に、リングへとアイコンを、かざす。
『Full Dive Progressive・ON』
「フルダイブ・プログレッシブ――オン!」
「――ハイパー大変身っ!」
同時に、敵対行動と認識した龍――グレイフル・バルが、首を僅かに俯かせた後、口から放出した熱線。
リッカと彩斗は、避けなかった。
ただ、二者に展開される装甲。
『Progressive Advent Savior.』
『Progressive Advent Daemon.』
リッカの持つフル・ダイブ・グランテが地面へと突き立てられた瞬間、放たれた衝撃波によって、熱線がかき消され。
それに更なる怒りを覚えたか、続けてもう一射、熱線が放たれるも、今度は彩斗の握る双剣――フル・ダイブ・アバルトの二振りから放たれた衝撃波が、かき消した。
ニヤリと、リッカ――プログレッシブ・セイヴァーが笑みを浮かべ。
グッとサムズアップをした彩斗――プログレッシブ・デーモン。
二者はそれぞれの獲物を握り締めながら、突撃。
スピードで劣るリッカは真正面から行動を開始。
振るわれる翼の風圧は、リリナの付与する風圧無効によってかき消しながら、今上方から叩き込まれようとしていた尻尾を、フル・ダイブ・グランテの大剣で防ぎながら、リッカの肩を踏み台にして飛び上がった彩斗。
彼女はそのまま体を捻らせ、フル・ダイブ・アバルトの双剣を構えたまま、回転させた。
切り刻まれるように、尻尾に傷を負ったグレイフル・バルが絶叫を放ちながら、エリが叫ぶ。
「多分そいつ、尻尾切断出来るよっ!」
『了、解!』
回転切りを止め、尻尾へと着地した彩斗が双剣の一振りを尻尾へと突き刺すと同時に、リッカが跳ねる。
リッカが彩斗の突き刺した双剣へと強く蹴りつけ、さらにフル・ダイブ・グランテを大きく振りかぶった、一撃を叩き込む。
切断される尻尾。その上で、僅かに体を軽くしたグレイフル・バルに対し、マリアとカーラが動く。
「カーラ、アタシらで止めるよ!」
「ハイ!」
二者は風圧無効の恩恵が受けられるならばと、プログレッシブ・フリーズへと変身。そしてマリアが正確にグレイフル・バルの眼球に向けて銃弾を叩き込んでいき、カーラがその全身に撃ち込まれるように空中へ顕現させたアイスレイジ。
アイスレイジの攻撃を当てられ、少しずつ移動速度デバフが蓄積。
さらにはマリアの放つ銃弾が同一地点に全て着弾した結果、肉質軟化デバフも付与、さらにプログレッシブ・フリーズの効果で、僅かながらに氷結効果も付与されている。
「――リッカ君、彩斗さんっ!」
リリナが、最後のMPを用いて風圧無効を付与。
付与から数分は効果が持続する故、その間に彼らならば倒しきれると踏んだリリナは、それまで変身していたプログレッシブ・スピード状態からリングを外して変身を解除。再度装着した上で、変身はしない。
リリナの優しい声によって放たれる歌。
その歌を聞き届けたリッカと彩斗は、軽く言葉を交わし合う。
「行けるか、彩斗」
『大丈夫さ――何せ私は、元々最強を拝命していた女だぞ?』
「ハハッ――オレもだッ!」