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選択の先に-06

 今、MP回復薬が底を尽きた。



「エリさん、カーラさん、MP回復薬って」


「ゴメン! 私らもう無いっ」



 端的なエリの返事を受け、マリアと彩斗にも視線を向けるが、しかしMP消費を行わない武器を選択している二者がMP回復薬を持っている筈もない。


婚姻システムでアイテムの共有化がなされているリッカのポーチにあった、補助用のMP回復薬も底をついている。


リリナはギリ、と歯を鳴らしながらリングを一度外し、変身を解除。すぐに再装着はするが、変身はしない。



「皆さん、風圧無効もう付与出来ません! 歌でバックアップします!」


「て事は……っ!」



 全員が、現在変身しているフォームから急遽、プログレッシブ・テクニックへとチェンジを行う。


敵の放つ翼からの風圧は、一時的にこちらの動作をストップさせる。そして場合によっては動きを止めている間のダメージが致命傷となり死に至るケースもあり得なくはない。


プログレッシブ・テクニックの場合、この風圧による動作ストップを緩和させる事が出来る。もし敵の攻撃を完全に避け切る事が出来ずとも、致命傷を避けたりする事も出来る場合が多い。



――問題はタンク役、つまり前衛で相手の攻撃を引き付ける役目を担っている、彩斗だ。



彼女の場合は一番危険な立場だ。その状況の彼女が身動きの選択肢を狭められるという事は、死の可能性を高めさせてしまうという事に他ならない。



「――仕方ないッ!」



 あまりこの状況で危険な賭けに出たくはないが、しかし状況が状況故致し方なしと、彩斗は闇のアイコンを取り出した。



「闇のアイコンを使う! 初使用なので何か問題がある可能性もあるから、皆気を付けてくれ!」



 とは言っても気を付けるべきは自分か――そう思いながら、今まさに振り切られた尻尾を避けながら、アイコンをリングへと、かざした。



『Full・Dive・Progressive・ON』


「――超変身!」



 機械音声が放たれると同時に叫んだ掛け声。


闇のアイコンが溶け出し、彩斗の全身に装甲として展開される。


リッカの持つ光のアイコンのような右腕だけを覆うタイプではなく、今着込んでいる鎧と同じく、漆黒の鎧としての装備を身にまとい、その上で刀身がソード程に伸びる、ツインソードを握り締めた。



全身からあふれ出る、漆黒の靄。それが周囲に蔓延する瘴気よりも色濃く見えて、全員が思わず、息を呑んだ。



圧倒的な殺気。



それが今の彩斗から感じ取れたのだ。



『Progressive Advent Daemon.』



 変身を終えた彩斗――プログレッシブ・デーモンは、二振りの刃を乱雑に、振るった。


振るった際の衝撃波だけで、敵モンスターは一瞬怯みを見せ、その隙を見逃さないと言わんばかりに地を蹴ったプログレッシブ・デーモンが、左手に握る刃を翼へ、右手に持った刃を顔面に向けて、振るった。


たったそれだけの攻撃だ。


だが圧倒的な破壊力を以て、剣劇によって地面へ倒れたモンスターは悶え、彩斗も着地した。



「凄い……っ、破壊力だけなら、リッカのセイヴァーにも劣ってない……!」



 マリアの放った感想は、しかし彩斗には届いていない。



突如、彼女がまとう鎧の眼部バイザーが、朱色に光り出し、ガクンと彼女が項垂れる。



何事かと思いながらも、マリアがイヤな予感を感じ取り、全員の前面に出てウェポンガンを構えた。


そしてそれが、確かに正解だった。


項垂れさせた顔を持ち上げたプログレッシブ・デーモンは、その右手を高く振り上げる。


瞬間、彼女の周辺から漆黒の靄が生み出され、そして靄から複数体、ミライガ等の雑魚モンスターを顕現させた。


それだけならばリッカのプログレッシブ・セイヴァーと同様の行動だ。しかし、それらは一斉にマリアたちへ襲い掛かったのだ。



「ちょ――彩斗! 何やってんのさ!」



 対処を開始するマリアたち。しかし続けてゆっくりとではあるが、デーモンはこちらに向けて歩みだし、その双剣を構えた。



「チッ! ――意識を闇のアイコンに乗っ取られて、暴走してやがるっ!」



 思いもよらなかった副作用にマリアは軽く舌打ちをしながら、近付いてくる二体のミライガを撃ち倒した後、背後にいたエリへ「皆をお願い!」と叫んだ後――デーモンへと駆けた。



「無茶だよマリアっ」



 エリの叫び声。しかしマリアはプログレッシブ・スピードにフォームチェンジをすると同時に、自身のウェポンガンに技術のアイコンを装填した。



疾く駆け出すマリアの動きに、デーモンは決して視線を動かす事は無い。


一瞬の内にデーモンの背後に回っていたマリアが、三発の銃弾を放つ。


それらは三方向へ無軌道な動きで、しかしデーモンの死角へと向かう様に放たれたが、視線を動かす事もなく、一瞬の内に振るった三劇の刃が銃弾を全て弾き落とした。



 だが、それはマリアの読み通り。



弾丸を叩き落す為に刃を振るった結果、今の彼女は身体ががら空きだ!



「行っけ――ッ!」



 プログレッシブ・スピード特有の高速移動で彼女の腹部にタックルしたマリアは、彼女の両腕を乱雑に掴んだ後、リングを無理矢理、その右手の指から抜き放った。


 変身が解除される彩斗。


 だが問題はマリアの腹部に出来た傷。


 リングを外そうとした結果、自由となった彩斗の左手に握られていた剣が、刺し込まれていたのだ。



「マ――マリア!」


「っ……ゥ! 彩斗、馬鹿……っ、呑まれやがって……!」


「なんて事だ……ゴメン、本当に」


「前っ!」



 今、デーモンの攻撃から立ち直った敵モンスターが怒り狂う様に咆哮を放ち、続けて口元から熱を放出した光景が目に入った。


リリナの警告を促す声に、彩斗は急ぎプログレッシブ・スピードへと変身を開始、マリアの身体を抱き寄せた上で、地面を蹴った。


縦薙ぎに振り切られる熱線。しかし今度は、その後にもう一射、横薙ぎに放たれたのだ。


寸での所で辛うじて避ける事に成功した面々だったが、しかしここにきてモーションに変化が現れるとは、と嘆いた。



 ――その時。



「さっきまでと一緒で、首の動きと薙ぎ払いは同じ角度だ! だから二撃放たれようが、首の動きを見ていれば避けれるッ!」



 声が聞こえた。


少年の声で、彼はマリアの元へと駆け寄ると、回復薬を彼女の傷口に塗りつけ、その後軽く拭き取った。



「リリナ! MP回復薬は買い足してある!」


「え、あ……ほ、ホントだ」



 急ぎ変身を解除したリリナが、共有されているアイテムポーチにいつの間にか入っていたMP回復薬を飲み、その後風圧無効と、マリアへ治癒をかけた。


すると傷の痛みから解放されたように彼女が目を開け、ボロボロと、涙を流す。



「……ホント、なんでアンタは……来るなっつってんのに、来ちゃうのよ……っ。



 リッカ……っ!」

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