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選択の時-09

FDP内では家の建築は一日で終了する。大型モンスターなどの襲来などによって建設の中断や遅れが発生する場合もあるが、バスラ農村の場合は立地の関係上大型モンスターの襲来はほとんど無いに等しく、群れからはぐれたり生息域から外れた小型モンスターなどは住民によって討伐されることが多く、建設自体は早々に終わりを告げた。


日本風の平屋をイメージしているのか、一階建てではあるが十分な広さを有した木造住宅に、リッカとマリア、リリナの三人が生活をする事になった。


その話を聞いて、彩斗はリッカだけを宅内に残したまま、マリアとリリナを外に呼びつけた。



「一言、相談だけは欲しかった」



 彼女は決して怒りはしなかったが、けれどそうして不満を口にした。マリアもリリナも、彼女の言葉を理解しているからこそ、反論はしない。



「私個人としては君たちの気持ちを尊重したい。けれど、これだけは理解してほしい。君たちの実力だけじゃ、リッカの穴埋めをする事は不可能だ」



 リッカの実力は、何も有するアイテム――例えばアイコン等による力量だけではない。


優れた状況判断能力、そしてエリ程ではないが潤沢なゲーム知識における思考、さらにはゲーム中の挙動などから装備品などの有利不利等を理解する識別能力、これらが総合的に高い故に、彼は天才ゲーマーと名乗るに相応しい実力を有するのだ。


確かにマリアも、彼と同等程度の実力を有している事を否定しないし、リリナが持つ歌姫ジョブとしての力も今後の攻略に不可欠な要素であることも間違いない。


だが、二人が如何に成長しようとも、それがリッカがいない事によって出来た穴を埋め合わせることは不可能だ。


 せいぜい半分を埋めることが出来れば御の字、程度のものとなるだろう。



「ごめん、確かに相談とか、事前に報告はするべきだったと思う」


「ごめんなさい」


「いいさ。海藤雄一に比べれば、二人はまだ可愛いものだ」



 二人の反省自体は分かっている。だから頭を撫でるだけして、一言「今後は気を付けてくれ」とだけ注意をする。



「確かに彼にとっては、一時の休息も必要だろう」


「リッカは、もう戦わせたくない。だって、アイツ絶対、これからも無茶しでかすよ? なのにそれを放っておくなんてことは出来ない」


「無茶をしなければ生き残れない時もある。だが無茶と無謀は違うんだ。わかるかい?」


「でもそんなの、ただの言葉遊びです」



 彩斗の言い分に、マリアは少し首を傾げたが、しかしリリナは違った。真っすぐ彩斗の目を見て、反論する。



「無茶だって無謀だって、時には人を殺します。そして今、このFDPって世界じゃ、無茶も無謀も大差はありません。それを分かってない彩斗さんじゃないでしょう?」


「精神的にも、些末な所で違えば受け取り方も異なるさ」


「なら今のリッカ君に、その些末な違いが理解できると思いますか? 彼はきっと、無謀の事を無茶と言い張ってしまう。どれだけ休んだって、これまで受けてきた傷があまりに大きすぎるんです。癒せる事なんかない」



 彩斗の言葉は確かに正しいとリリナも理解している。


 無茶と無謀は違う。無茶は時として、それが分かっていたとしてもしなければならない事もあろう。


だが、無謀は違う。無謀は何も考えずにただ突っ走るだけの者だ。これも時にそうであった方が良い事もあるが、しかし今はそうではない。


今のリッカがどちらであるか、それは無茶であろう。無策ではない。無謀でもない。


 ただ自分の命を顧みずに、自分の命を感情に入れず、ずっと無茶を仕出かしている。この状況では、確かにリリナの言う事も正しい。



「だから休息が必要だと言ったんだ。休息を経て、そうした傷を癒せれば、無茶を自覚し、自制することも出来る筈さ」



 問題は、そうした休息によってリッカが回復するかどうか、それにかかっている。


彼の心に出来た傷は、あまりに深すぎる。それを理解できているからこそ、マリアもリリナも、彼をそこまで過保護にし、救おうとする。


それを否定する事は出来ないし、出来るとすれば、愛する者を失う怖さを知らぬ者だけだ。


少なくとも、彩斗にそんな事は出来ない。



「私も、ミサトを失う事を考えたら、彼女を家の中に閉じ込めて、安全を確保する方法だけを模索するかもしれない」



 彩斗の言葉に、マリアもリリナも、ただ耳を傾ける。



「だがね、そうしているだけでは解決しないんだ。心の傷が出来たからって、ただ安穏としているだけじゃ、それは回復などしない。


 時間が解決することもあるなんて言うけれど、あんなのは嘘っぱちさ。その時間をどう使うか、出来た時間によって、何をするのか。結局はそこなんだ。呆然と時間経過を過ごしているだけで解決するなんて事は無いのさ」


「……リッカにこれ以上、何しろってのよ。このFDPで、戦う事を止めさせて、その上でアイツに何をしろっての?」


「出来た時間で精いっぱい考える事さ。自分の心に出来た傷と、向き合う事さ」



 彩斗自身、残酷な事を言ったと思う。


だが、リッカの力量は今後のFDP攻略を必ずと言っていい程、必要なものだ。


そして彼の安全なども鑑みれば、彼が持ち得ている光のアイコンを別の者に渡すなども、出来るならば避けたい。


だからこそ、彩斗は祈っている。



「彼が心の底からゲーマーであれば、きっと心の傷と折り合いをつけて、どこかで奮いあがってくれると、私は信じてる」



 それまでを守るのが私の仕事だ。


そう言い切った彩斗の言葉に。



マリアも、リリナも、頷きはしない。


結局二人は――リッカを、戦わせたくないという気持ちが強すぎて、彼女の言葉に頷けないのだ。

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