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選択の時-05

「ねぇ、リリナ。アタシはどうしたらいいと思う?」


「マリアさんがどうしたいか、と思いますよ」


「アタシは……」



 最後に、FDPとした会話を思い出す。


あの子を癒して欲しい。


そう言われて、マリアは返事をする事も出来なかった。


けれど、彼女の想いは確かなもので、そして彼女の言葉が正しいと考える自分もいる。



「アタシは……リッカに、これ以上頑張って欲しくない。


 だってアイツは、これまでの人生で多くの物を失ってきた。


リッカママを失って心に傷を負って、ゲーマーって地位を捨てて普通の生活に進んだハズなのに、アイツはこのゲームに挑んだ。


アタシらに頭を下げてまでして挑んだ先で、リッカママにそっくりな、あの人と同じ精神を持つFDPに出会い、FDPを、二人目のママを失って……信用できる大人二人まで、失ったんだ。


アイツが何したってのよ。アイツ、何時でも誰かの為にって頑張って来たんだ。その想いをいつも裏切られてきた。アタシにはそれが我慢できない。


アイツは――アイツ自身の幸せを、選択する時が来たんじゃないかって、アタシはそう思う」


「その為にマリアさんが、リッカ君の為にしてあげたい事は、なんですか?」


「……わかんない。アタシ、今までそんな事、考えても思いつかなかったから」



 マリアは他人との付き合い方が不器用な子だ。


けれどそれは、そうした経験が少ないだけで、彼女は元から人間と言う存在を毛嫌いしているわけではない。


何も知らないだけ。


リリナも同様だ。


人間を嫌っているわけではない。けれど今まで、自分なりに他人との接触を避けて来た女だ。


だから知らない。どうすれば、リッカの傷を癒せるか。


リッカにこれ以上、暴走してほしくないという想いを伝えられるのか。



「なら、もうリッカ君に、戦わなくていいって、言ってあげませんか?」


「……え?」


「今のリッカ君は、色んな事に傷つきすぎて、もう自分自身、どうすればいいのか、見失っている状況なんだと思うんです。それこそ、自分が幸せになる為の方法なんか、考える暇もない程に」


「で、でも……結局、生きて帰る為には、アイツの力、必要だと思うし……」


「そこは、私とマリアさんが、リッカ君の分を補える程、強くなりましょう」



 堂々と、凄い事をリリナは言ったと、マリアが唖然とする。しかし彼女の反応に首を傾げて「あれ、私、変なこと言いました?」とするリリナが少しだけ可愛くて、つい笑ってしまう。



「リリナ。アンタ、リッカがどれだけスゲー奴か、分かってないでしょ?」


「え、えっと、確か天才ゲーマーって呼ばれてたんですよね?」


「その名前が適当過ぎる位。アタシだったら【最強ゲーマー】って名乗らせるね。アタシとは今ん所同等だけど、そん位アイツの腕は確かだもん。そりゃ、ジャンルによって勝てない相手はいたけど。……でも、そっか、そうだね」



 リリナは、昔のリッカを、そしてゲームをよく知らぬ子だからそう言えるのだが、しかし彼女の言葉に間違いはない。


マリアとリリナの二人でリッカがいなくても補えるほど強くなれば、彼に頼る理由はない。


彼を休ませる事も、彼に重荷を背負わせる事なく、これから生きていく道を示す事が出来るのだ。



「それに、アタシだって天才ゲーマー・マリアだもんね! アイツの力なんてなくったって、このゲーム攻略してやる!」



 少し元気を取り戻したマリアに、リリナは安堵したように笑った。



「じゃあマリアさん、リッカ君と喧嘩した事、ちゃんと謝って下さいね?」


「え、喧嘩? アタシら、別に喧嘩はしてないんだけど」


「してましたっ! だから、ホラ。今からリッカ君の部屋に行って、ちゃんと謝ってあげて下さい! そしてマリアさんの思いの丈を、全部リッカ君に押し付けてあげてくださいっ!」



 無理矢理マリアを立ち上がらせ、リッカの部屋まで行くように指示すると、マリアは「うー」と呻きながら、しかし顔を赤くしつつもリッカの部屋へ入っていったので、それを見送って――。



リリナは一人、宿屋を出て、裏手で震えるコクーンをタッチして、通話を取った。



『リリナちゃん』


「……どうしたんですか、オジサン」



 通話をかけて来たのは、海藤雄一だ。


先ほどから震えていた事をマリアに悟らせないようにする事は大変だったが、こうして通話を取ったリリナも、僅かに不機嫌そうに声のトーンを低くしている。



『またリッカに繋げて欲しいんだ』


「イヤです」


『私は、本当に彼の事を想って、このゲームを作ったんだ。そして、こうした事態になるとは、考えていなかった。彼にまた傷を作ってしまった事も、反省している。だからそれを謝りたいだけなんだ』


「今のリッカ君は、酷く傷ついていて、オジサンの言葉なんか聞かせられません」


『リリナちゃん』


「オジサンは本当に分かってるんですか!? リッカ君の苦しみ、リッカ君の傷がどれだけ深いか! それが分かってるなら、今軽率に話をしようなんて気にならないでしょう!?」


『それは』


「今のリッカ君、ログでちゃんと追ってますか? リッカ君、何時死ぬかわかんないような、そんな無謀な行動しかとらなくて、マリアさんだって心配する程に、死に急いでる。そんな状況でオジサンと話をさせたら、もっとリッカ君が苦しむに決まってる。だから――」



 そこまで発言をして、リリナは一度自身の気持ちを落ち着かせる為、深呼吸。


ハーっと息を吐き出して、それ以上の言葉は必要ないと考えた結果、短く「しばらく通話は控えて下さい」とだけ言い、通話を切ろうとする。



『ま、待って、一つだけ、一つだけリッカに、伝えて欲しい』


「……なんですか?」


『彼は……』



 少しだけ、言葉を詰まらせるようにした海藤雄一だったが。


しかし続いて放った言葉に、リリナは目を見開き、それが嘘でないかだけを確かめて。


けれど真意が判断できなかったから、そのまま通話を切り、しばしその場で沈黙して、考える。



――これを、伝えるべきか、否か。

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