破滅に向かう世界-11
『Full Dive Progressive・ON』
光のアイコンが溶けるが、それはいつものように、リッカの全身へ纏われはしなかった。
彼の右腕だけを覆っていく装甲。そしてそこから繋がる様に――中央に円を描き、そこから巨大な刀身を持つ大剣が顕現した。
『Progressive Advent Savior.』
剣を振るう。
振るった瞬間、リッカの背後より三体のミライガ、メデス、ガルーバと言った、所謂雑魚モンスターが飛び出したが、しかし彼はそれに、敵意を持たなかった。
何故ならそれは、彼が【召喚】した兵だから。
九体のモンスターはそれぞれ駆け出して、未だに街へ襲い掛かる、同じく雑魚モンスターに対して攻撃を仕掛けていく。
そしてリッカ――【プログレッシブ・セイヴァー】は、溢れる涙を拭う事も無く、右手に持つ剣――フル・ダイブ・グランテを乱雑に振るいながら駆け出した。
全身に漲るパワーを存分に発揮しながら、セイヴァーはゲルトールへと突進。
それを見据えていたゲルトールは体毛と言うべき、身に纏わせる刃を一斉にセイヴァーへ射出したが、地を蹴って上空へ舞う事で回避し、さらに運動エネルギーを兼ね備えた一閃を叩き込むと、それだけで衝撃波が辺り一面を襲い、ゲルトールだけでなく、近くにいた雑魚モンスターも一斉に吹き飛ばした。
「ふぅ――ッ!!」
だが、彼の怒りは収まらない。
ポーチから【駿足のアイコン】、【灼熱のアイコン】を取り出すと、それをフル・ダイブ・グランテに搭載されている二つのスロットに装填。機械音声が流れだす。
『Run quickly.』『Fire Active.』
音声と共に、羽のように軽くなる身体を前進させて、超スピードで駆け抜けながら、セイヴァーは遠く離れたガルロットに向けて、燃え盛る炎を纏う大剣を振り込み、一撃で敵の持つ甲殻を破壊し、突き刺し、上空へ振るい投げながら、空へ駆け、上段から身体を回転させながら、何度も何度も斬り付けた。
「う――おおおおおおおおっ!!」
大きさ故、重さ故の質量兵装は、次第にガルロットの身体を凹ませ、最終的に爆発四散した事を確認。
大型モンスターは残り、装甲獣【レアルドス】と岩石獣【ガルトルス】、炎迅獣【バールクス】の三体。
「いけ……っ!!」
剣を地面に突き刺し、右手を空高く振り上げた瞬間、総計二十体ほどにも及ぶ小型モンスターが一斉に姿を現し、それらに襲い掛かる。
体格・能力故に敵う訳もないが、しかし時間稼ぎは出来るし、NPC達が逃げる時間は稼げる。
「ぜってぇ許さねぇ……ッ!!」
一歩一歩、歩みながら敵へと近づく彼は、フル・ダイブ・グランテより排他された駿足と灼熱のアイコンを空中で受け取る。
「ツクモの救おうとしたNPCは……殺させない……ッ!!」
どうやら装填したアイコンの使用時間は約十五秒。その十五秒間は双方の能力を活用できるようだ。
ならば――と、セイヴァーは駿足と、氷結のアイコンを今度は装填。
『Run quickly.』『Frozen Active.』
バールクスに向けて駆けるセイヴァー。
その身に纏わせる炎をやたらめったらに振り巻き、彼の進路を妨害しようとするバールクスだが、超スピードで駆け抜けて、炎など当たるものかと敵の所へ一瞬で辿り着いた彼は、冷気の漏れ出す大剣を口内へ突き刺し、乱暴に横薙ぎして振り切る。
それでも辛うじて生き残っていたバールクスだったが、しかし氷結のアイコンが放つ冷気によって動きが遅くなり、また防御力の蓄積デバフをかけられて、全身から炎を放出しようにも上手く捻りだせぬと言った様子だった。
そして彼も、そんな敵モンスターの事情など知らぬと言わんばかりに、振り上げた刀身を、乱雑に振り下ろし、絶命させる。
「許さねぇ」
絶命を確認などしない。
セイヴァーは再び排他された駿足と氷結のアイコンを受け取り、今度は駿足と技術のアイコンを装填。
『Run quickly.』『Attack Technic.』
フル・ダイブ・グランテに展開された追加スラスターを吹かして、空中を舞う様に、しかし高速で駆け抜ける彼がレアルドスが身に付ける装甲の隙間に剣を突き刺し、手を離したと同時に右手の装甲をまとった拳を柄へと振り込む。
叩き込まれた一撃は、レアルドスを一撃で破壊したばかりか、そこから地に突き刺さった影響で衝撃波が放たれ、近くに迫っていたガルトルスの一部岩石をも吹き飛ばす。
リングに向けて、光のアイコン、駿足のアイコン、灼熱のアイコン、技術のアイコン、氷結のアイコンを順番にかざしていく。
『Savior』『Speed』『Flame』『Technic』『Frieze』
『Fifth Progressive Last Action』
セイヴァーは剣を地面へと突き刺し、そこから放つ衝撃を、ガルトルスに向けて放出。
身動きが取れぬように拘束されたガルトルス。
それと同時に五色の稲妻にも似た光を右足に集中させた彼は、一歩踏み出すごとに光から放出されるエネルギーを残したまま、地を強く蹴り、空中で身体を一回転させながら右足を突き付け、それを叩き込んだ。
あまりの威力故、ガルロットの身体を突き破り、地面に着地しても尚、地面を抉りながら少しずつ減速していくセイヴァー。
爆散していく敵の姿を見据えながら――彼は今、溢れる涙と共に、項垂れた。
街はまだ、モンスターが溢れている。
けれど、それは彼が召喚したモンスターが相対し、少しずつだが鎮圧されていく。
もう自分に出来る事、やるべき事は無い。
そう分かったから――彼はその場で、流せる分だけ涙を流す。
――失った悲しみや、心は、涙を以てしても、潤せないけれど。