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破滅に向かう世界-09

 淡々と説明した彼に。


エリは、ただ呆然とする事しか出来なかった。


ツクモは、これ以上何を言っても無駄だと項垂れた。


カーラは、オレの肩を揺すった。



「……リッカ。FDPに……ミホに、何か言い残した事は、ありますか……?」


「……言い残した、事か……沢山あるよ。FDPにも、母さんにも、言い残した事……沢山」



 彼女は、FDPは、確かに母さんじゃないけれど。


でも、彼女に母さんの面影を重ねる事は出来るし、そうじゃなくても、FDPにも言ってやりたい事が、ある。



「……FDP、お前は、間違ってなかった。


 人間って存在は、ホントに……どこまでも愚かな存在だったんだな。


『お前が気に食わない』なんて理由で、お前を排除しようと考えた、オレも雄一さんも愚かだった。


……でもな? オレは、自分なりに意味を求めた。お前を殺す事に、排除する事に意味を求めたんだ。


母さんの姿をしてるからって理由で怒りを覚えて、お前を殺したいと思ったけど、その私怨を可能な限り閉じ込めて、お前を殺す意味を探した。


その意味が見い出せなくなったから、オレはお前を殺せなくなった。


雄一さんも、きっとそうである筈だと、信じてたのに。


 彼は大人なんだから、きっと自分の私怨を封じて、オレ達を助ける為に、お前の事を理解してくれるって、そう思ってたのに。


そんな風に楽観して考えてたオレは、愚かを通り越して、本当のバカだった。



この人を、信じちゃいけなかった。



――人間なんて存在は、お前っていう純粋な人工知能に劣る、劣悪な存在なんだって、そう気付いちまったんだ」



ハハハ、と。乾いた笑みと共に発した言葉を。


エリも、ツクモも、カーラも、黙って聞いていた。


雄一さんの声は聞こえないけど、もう聞きたくも無いから、そのままただ、黙っていた。



――それを許さぬのは、最もこの場で怒りを放出するに相応しい、彼女だけだった。



『律……お前の、言葉を、確かに受け取った』



 抱き寄せていたFDPが。


今まで動きもしなかった彼女が、起き上がった。


揺らめく身体を何とか保ちながら、ゆらりと起き上がった彼女が、自分の眼前に生み出した、量子によるキィボードとも言える存在に手を付け、カタカタと何かを入力し始める。



「FDP……?」



 何をしているんだと、そう問おうとする前に。


雄一さんが、叫ぶ。



『リッカ、いや、リッカじゃなくても誰でもいい! 今すぐFDPを殺せ!!』



 その声の意味を理解できず、皆はただ黙っているだけだ。


入力されていく謎のコマンド。入力言語が英語や中国語、様々な言語を用いているから、オレ達には彼女が何をしているのかが理解できない。



『彼女は、君達プレイヤーのデータを改竄している! ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!()!()


『もう、遅い』



 今、エンターキィを入力した瞬間。


オレ達の身体に一瞬だけ、光の様な物が走ると、何かが変わった実感に襲われた。



「FDP……お前……もしかして」


『律……すまない。私は、お前をそこまで追い込んだ、海藤雄一と言う存在が、許せない。


 奴は、お前を大人にしてほしいと願った、雨宮美穂の想いさえ踏みにじった。


 人類が如何に愚かでも、けれど誰かの事を願い、想う事が出来る大人に成長させて欲しいと願った……雨宮美穂の願いを、叶える事も出来ない奴が作った、私自身の存在すら……許せない……っ!!』



 今、オレ達が宿泊している宿屋の建物全体が、強く揺れた。


 壁や床に亀裂が走り、ツクモがオレの手を、エリとカーラが全力で宿屋を走り抜け、外に出た所で――その全体が崩れ落ちた。



――そして今、アルゴーラは悪夢と言える光景となっていた。



至る所に発生したモンスターの軍団。


それらが建物を、本来は平和に暮らすべきNPCを、この街で生活する生活組の面々に襲い掛かり、阿鼻叫喚な状況となっていた。



「エリ氏! カーラ氏! 生活組の面々を外に避難させる!」


「な、なにが」



 事情の呑み込めていないエリが、ゴクリと息を呑みながら、マジックガンを取り、今襲い掛かって来たミライガを撃った。



「FDPによって自分達プレイヤーが死ねば、ログアウトもリスタートも出来ない、本当のデスゲームに改竄されてしまったんだよっ!!


 だから、自分らも死なない様に、生活組の面々も殺されないように、急いで街の外へ避難させるんだっ!!」


「っ、急がないとッ!!」


「気を付けるんだッ!!」



 ツクモの声に、エリとカーラが街中を走り、生活組のプレイヤー達を探して行く。


けれど、その間にも――NPC達は殺されていく。



モンスターによって。


それは、全てFDPという世界で構成された、彼女の……FDPの子供である筈なのに。


瓦礫から這い出るようにして出て来たFDP。


彼女は、涙の代わりに憤怒の表情を浮かべながら、今もう一度指を鳴らした。



今まで存在した小型モンスターだけじゃない。ラーディングやガルロットのような大型モンスターも次々に姿を現して、街を瓦礫に変えていく。



『律……ごめんなさい』


「……FDP……っ」


『これは私の自分勝手な、八つ当たりだ。


 お前の心を深く傷つけた海藤雄一が、奴の作り上げたこの世界そのものが、私にはとても汚れた物に見えた。


ああ――私は、雨宮美穂では無いけれど、彼女と同じく、お前の事が大好きなんだ。


我が子として愛したお前が好きで、お前の為なら何だって出来る。お前を大人にするべき周りの大人……海藤雄一と言う存在が、心の底からキライになるほどに……ッ!!』


「海藤雄一と言う存在が気に食わなくても、この世界に訪れたプレイヤーを殺す必要は無いハズだ……ッ!!」


『奴が救おうとする、律以外の全員を殺す。


 奴には自分の仕出かした事で、自分の愚かな私怨のせいで、全てを壊される屈辱を知ってもらわなければならない。


ああ、そうだ。これは八つ当たりだ……けれど、それ位して何が悪い……っ!!』


「お願いだ……止めてくれ……止めてくれよ母さんっ!!」


『私は……お前の母じゃない。だから、お前が気に病む事じゃない。雨宮美穂を恨む必要も無い。


 私が勝手に、お前を息子と思っただけで、私はお前を産んでいないし、お前は私に育てられて等いないんだと、そう思えばいいのさ』

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