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破滅に向かう世界-03

 デンタリック商会鍛冶部門の工房にて、グランツとメリクスは顔を合わせながら互いの設計した【光のアイコン】と【闇のアイコン】の設計図を閲覧し、別々の所で作ったとは思えぬ程に共通化した規格に、笑いを堪える事が出来なかった。



「やはり、同じ製法において設計をしていたか」


「まぁ物を見た時に何となく察してはいたけどよ、オメェさんら、技術力は高くはねぇが、品質に拘るだけはあらぁな。しっかりと最低限の技術はあって、その技術を安価かつ高品質に仕上げるだけの工房だ」


「しかし問題は、あの光と闇のアイコンが、我々にも及ばぬ、何か足りぬ存在があるという事だ」



 二者が設計し、そして互いの工房が出せる全ての技術を結集して作り上げた決勝ともいうべき、光と闇のアイコン。


何かが足りぬとする二者が、その足りぬ物を見つけるべく、互いに手を取ったことは、ほとんど奇跡ともいうべき事態である。


互いに互いを認めていながらも、しかし認めているからこそ敵なのだとした二者が、どうしてここまで歩み寄る事が出来たのか。


それは、二者には気付かぬ内に、感情が芽生え、その感情によって二人は対立していたから。


それは、気付かぬ内にそうして感情を有したからこそ、他者に宥められ、互いに手を取り合う事を、不器用ながらも良しとした。



「一番あり得るのは、モンスターの素材だわぁな」


「だが今回我々の作り上げた光と闇のアイコンに、適したモンスター等いるか? 我々が知る限りでは、光と闇を司るモンスターなど」


「いるよ。そしてその素材を持ってきた」



 そんなデンタリック商会鍛冶部門に突然現れた人物が、彩斗の率いる四人だ。


彼女は光と闇のアイコンを、二人のいる机に叩きつけるように置き、続けてアイテムポーチから、グランテとアバルトの角を置いた。



「先に使用感から言うと、使えなかった」


「ってー事は、やっぱアイコンを起動させるなんかが足りねぇって事だな」


「それで、お持ちいただいたこの素材は、何でしょう?」


「プログレッシブ・アバルトと、プログレッシブ・グランテというモンスターから何とか取れた角だ。この素材を使って、このアイコンを完璧な物に仕上げて欲しい」



 急ぎなんだ、という彩斗の言葉に、グランツとメリクスが目を合わしつつ、それぞれが角を持って、それを眺めた。



「ほう、コイツはスゲェ素材だ。確かにコレならアイコンの素材にするにゃ申し分ねぇ」


「それに、こちらの角もそちらのも、光と闇の禍々しいエネルギーを感じる。……だが」


「だが? だが何だってのよ! 急いでんのよコッチは!」



 彩斗の隣に立ったマリアが、えらく落ち着かない様子で机を叩き、早くしろと急かすようにしたが、しかしメリクスは顎に手を当て、思考する。



「この素材を加工するには、ここの設備では適していないな」


「なら――ウチの工房を使うしかねぇな。ウチの工房なら出来るだろ?」


「構わないか、グランツ」


「互いに利用できる所は利用するしかねぇだろ。――一度作ったアイコンの加工はオレに向いてねェ。そこはオメェの所でやって、オレらが素材を加工し、こっちに持ってくる。そうするしか方法はねぇ」


「どのくらい時間がかかるかな?」



 彩斗の問いに、二人はしばし思考するが、その答えは重なった。



「一日だ」


「それだけあれば完成まで漕ぎつけます」


「十分だ」



 ミサト、と声をかけた彩斗に、彼女も頷く。



「では私がエパリスに残り、光と闇のアイコンが完成するまで待つ、という手筈で構いませんね?」


「ああ。私とマリア、リリナ君の三人でアルゴーラまで戻り、FDPの討伐に従事する――と言いたいが」



 敵――FDPは現在、カーラ・シモネットと行動を共にしている。


そして彼女を敵に回すとしたら、激戦となる事は間違いなく、また彩斗としても、そほどFDPという存在に脅威性を感じていない。


周りを見渡し、彩斗達は今いる工房から移動。


ミサトが残る為、ホテルの一室を借りた皆は、メイドや海藤雄一と通信等がされていない事だけを確認した上で、マリアとリリナへ向き合った。



「ここからは少し大人の話をしよう」


「何だってのよ。早くリッカ達の所に行かないと、アイツどんだけ無茶するかわかったもんじゃないわ」


「だからこそだ。――二人は今の状況を鑑みて、それでも尚、海藤雄一と手を組むべきと考えるかな?」



 グッと声を詰まらせ、しかしマリアは彩斗へ「まだそんなこと言ってんの?」とだけ問う。



「申し訳ないね。だが確かに時間が無い事も確かなんだ。思っている事を言ってくれるだけでいい」


「……私は、正直な所、完全に信用できません」



 手に付けるコクーンをギュッと握ったリリナの言葉に、マリアが視線を向ける。



「オジサンは、私の命も危険に晒した。……そこはどうでもいいんです。どっちかというと、リッカ君を危険に晒す事を、あの人は何とも思ってない所が、私には信用できません」


「リッカだからこそ、信頼に足ると考えている可能性はあるよ」


「だとしても――私は好きな人や信頼している人を、危険に晒すなんてこと、絶対にしたくない。それを出来ちゃう人を、信用したくないです」


「そうか。私もそれに同感だ」



 マリアはどうかな? と視線を向けると、彼女は頭を掻きむしりながら、頷く。



「……ああ、認めるよ! アタシも海藤雄一は現状信用できないね! 自分の野望を叶える為に人の命をBET出来る奴を信用していい理由も無い! でも、アタシらだってアイツを利用するのが良いと考えたから利用する! それがいけない!?」


「いけなくはない。むしろその方が賢いというのは私も理解している。リリナ君もそう分かっているからこそ、彼を信用していなくても利用すべきだと考えているのだろう?」



 コクンと頷いたリリナを見据え、彩斗は二人のコクーンに触れ、メニュー画面を三回スライドさせ、情交システムの画面を出して、しかしそれを押す事は無く、画面を閉じた。



「いざと言う時の為に、情交システムの使い方だけを教えておこう。現状は確かに海藤雄一から入る情報が必要だ。その為に今は使わない方が良い」


「ただ、使う時が来たら、遠慮する事なく使え……って事ね?」


「その通りだ。リリナ君もいいかい?」


「はい。使う日が来ない事を祈りたいですけど」


「いい返事だ」



 話はひとまず以上だ、と言った彩斗の言葉と同時に二人が立ち上がる。


話に参加しなかったミサトへ「行ってきます!」と言う二者を見送り、彩斗が追いかける前に、彼女の唇と自分の唇を合わせる。



「では行ってくる。アイコンが完成したらアイテムポーチに入れてくれ。それで共有できるはずだ」


「はい。いってらっしゃい」



 飛び出していく三人の姿を見送ったミサトは、ふと疲れを感じてベッドに横たわった。


お腹を擦り、何か違和感を覚えた所で――しかしそれが何かわからず、ただ疲れに身を任せ、眠りについた。

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