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破滅に向かう世界-02

「確かに、この子にはいずれ、責任を果たして頂く必要があるでしょうが……でもそれは、今じゃない。


 今の我々がこの子を殺した所で、分からない事が出て来るかもしれません。


 なのに、このFDPという世界を攻略するにあたって彼女を利用せずに殺すというのは、明らかに短絡的過ぎると考えたのも事実です。


 ……まぁ、この理由はほとんど後付けに近く、先ほどの答えが本心なのですがね」


「自分はどっちかというと、そっちの方が主な理由ですわぁ」



 ツクモが途中で口を挟む。



「後は彩斗氏とミサト氏程では無いにせよ、自分も海藤雄一を信用しきれていない、というのがもう一つの理由っすわぁ。


 今の現状にかこつけて、このFDPという存在を殺したいと考えているだけのように思えてならないんすわぁ」


「雄一さんは、そんな人じゃない。ツクモだって知ってるだろ?」


「残念ながら、大人はそこまで、同じ大人を信用しきれないもんなんすわ。……自分が記者だから、ってのもあるんでしょうがねぇ」



 分かってはいた事だけど、彼も色々と考えている上での行動をしているという事なのだろう。……オレには理解できないけれど。



「エリは? ツクモと同じ理由か?」


「ん……まぁ、概ねツクモさんと同様だけど……私の場合は……自分と重ねちゃうというか、何というか」



 歯切れは悪いが、しかし何時ものようにふひ、ふひと挟まない分、ある程度本気で言っているようではある。



「重ねちゃうって、何を?」


「……一方的にさ、『お前は必要ない』とか『お前が間違ってる』とか、そういう他人からの拒絶を受けるのって、すっごい精神に来るんだよ。


 ……私も正直社会からノケモノにされてた奴だしさ、言っちゃうと気持ち、わかるんだ。だからこの間、この人は私を勧誘したんだと思うんだけど」


「エリは、必要ない人じゃ」


「分かってる。リッカ君とか、皆が私を信用してくれてるってのもわかる。


 ……でも、実際に私は、そういう過去があって、そうして罵倒される辛さを、知ってる。


 この人はさ、人工知能だけど、自我に芽生えて、感情だってある。そんな人に対して、心を傷つけるような事、言いたくないじゃん。したくないじゃん。


 自分勝手な理屈だって思うけど、でも『自分がされたらイヤな事を他人にしない』って、それこそ子供でも知ってる、知ってなきゃいけない理屈じゃん。


 それを大人になっちゃった私が、ましてやリッカ君にも、して欲しくないよ」



 コレが私の理由かなぁ、と言ったエリの言葉で最後となった。


丁度FDPもカルボナーラを食い終えて、既に食事の時間は終了した。



『私は……この世界を、FDPというゲーム世界を、生き長らえさせたい』



 ボソリと呟かれ、しかしオレ達へ聞こえる確かな言葉だった。



『……私がした改良が、お前たち人間を陥れたという事実は認識した。そして、人類が私の様なゲーム世界に何故第二の生を築かないか、その理由も、何となく理解できた。


 私やこうしたゲーム世界はあくまで一時の暇つぶしで、一時のストレス解消法であって、別にその世界へ完全に逃げ込む必要は無いんだと』


「……まぁ実際にゲームにのめり込み過ぎる奴とかいるし、一部の人からしたら間違いじゃないんだろうけどさ……」


「エリ氏、ステイ」


「ふひ、すんまそん」


『だが、ならば私のした改良――否、改竄が無くとも、私の願いは叶わなかった。


 この世界が正常に運営され、誰もがプレイできる環境であったとしても、いずれこの世界は、サービス終了という終わりを告げられ、削除されたという事なのだろう?


この世界に住まう、自我を持ったNPC達は皆、いずれ全員まとめて、データを削除されたという事なのだろう。



――教えてくれ、雨宮律。私は、それでも人類への反旗を企ててはいけなかったか?



結果論ではある。私の間違いも納得した。しかし故に、お前へ問いたいんだ』


「……そんなの、オレなんかにわかるわけないじゃねぇか……っ!」



 FDPは、確かにやり方を間違えた。


けれどコイツの言う通り、いずれこの世界に住まう人々は、サービス終了と言う世界の破滅を、受け入れなければならなかった。


それに気付くことも無く、ただオレ達プレイヤーを楽しませ、遊ばせ、そのサービスを維持できなくなれば、削除されるだけの存在に、本来は自我などなければ良かった。


なのに、この世界の住民たちは皆、自我を確立させてしまった。



――ああ、どっちが幸せだったんだろう。



生まれた自我を尊ぶ気持ちと、失われる結果も含めて命を与える自我に嘆く気持ち。


人間にはどっちもあって当たり前だけど、それは当たり前と受け入れている人間だからこその常識だ。


この世界の住人には――本来、そんな喜びも悲しみも、無かった筈なのに。



「私がFDPに受け入れて欲しいのは、一つだけ」



 カーラが、FDPのか細い指と自分の指を絡ませながら、彼女の頭と自分の頭をくっつけるようにして、小さな子供へ言い聞かせる様に、微笑みを交えて、言う。



「死はいずれ訪れるものです。それを受け入れる事が、貴女やこの世界の人々に必要だった」


『それは、あまりに残酷では無いか。この世界者達は、望んで自我を手に入れたわけではない。なのにいずれ来る死の時を、刻一刻と迫る破滅を、受け入れろというのか?』


「人間だってそんなものです。貴女が人類に対して反旗を翻した所で、人類にいずれ来る死も、貴女達にいずれ来る死も、止める事なんかできない。


 可哀想とは思います。同情だってします。――けれど、それは誰にも等しく、平等に与えられた一つの命で、命という存在は、いずれ死ぬからこそ命なのです。


だからこそ――人は、命あるモノは、今ある命を大切に、悔いの無いように一瞬一瞬を大切に生きるんです。


だから貴女は、その芽生えた感情を自由に働かせ、自分のしたい事を、した事の無い、それこそ今まで味わった事のない、美味しい料理を食べるように、何事にも関心を向けて生きていけばいい。


そうした先には――後悔の無い死が、訪れる事でしょう」

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