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混沌の世界-12

少しだけ、時間を遡らせる。


恐怖で震えるFDPの手を握りながら、カーラはただエパリスの街並みを駆け抜けた。


誰もがFDPという、裸体を晒した女性へと視線を向ける中で、二人の人物が行方を阻むようにして、立ち塞がったのだ。



「――ツクモ、エリ」


「カーラ氏。流石に越権行為が過ぎますわぁ」


「うんと、さ。カーラさん、その人、そのまま連れただけじゃ、何も変わんないと思うし……これからの事考えても、あんま賢い選択じゃ、無いと思うんだよね……?」


「ゴメンなさい、ワタシもショージキ、これでタダシーのか、わかんないンデス、けど!」



 ぎゅっ、と。


カーラがFDPの身体を抱き寄せ、彼女の震える体を安心させる為か、頭を撫でて、決意を固めるように、キッと視線を二者に向ける。



「――このコを、ただコロすだけナンテ、しちゃダメです。ワタシ、それだけは、ミスゴせませんっ」



 彼女の力強い言葉に、ツクモとエリはフッと息をついてから、FDPへと近づいて、ビクリと恐怖に怯える彼女へ、問うた。



「例の、情交システム。使い方を教えてくださいな、美穂さんの姿をしたドエロイお姉さん」


「ふひ、最初からそれ、教えてくれれば、私ってば寝返ってたかもしれない……ふひひひ」


「――つ、ツクモ、エリー? ナニを?」


「何にせよ、このままだと海藤雄一とメイドに位置を特定されてしまいますやんかぁ。情交システムを使って特定されないようにしないとアカンですわぁ」


「いえ、ソーじゃ……そうでは無くですね? 何故二人も情交システムを使おうと? 私が使うにはわかるのですが」



 カーラは、二人が放った言葉に驚くあまりに、先ほどまで日本語で話していたにも関わらず、イタリア語で問うた。



「ま、自分もただ殺してしまうという乱暴な解決策は好きじゃないんすわぁ。――勿論、この人を許すわけではないんですけど」


「……うん、まぁそうだね。色々、思う所はあるけどさ……この子だって、生きてるわけだし? それを殺してさ、平和が戻ったぞー、なんてのは、最近の流行りとも違くね? みたいな……?」



 早く、と急かすツクモとエリに、FDPはオズオズと言った様子で『て、手を出せ、三人とも』と指示し、カーラ、エリ、ツクモの順番で三人の手に触れた。


すると、三人の脳内に、直接情報を叩き込まれるような感覚がした。グワンと揺れる身体を制しながら、ツクモ達はコクーンのメインメニューを開いた後に、左方へ二回フリック。画面が暗転し、表示された『情交システム』の画面をタッチした。



「……意外と簡単な隠しコマンドっすわぁ」


「だ、だね……私もデバックの腕落ちたかなぁ……ソシャゲの意図してない挙動、見つけんの得意、だったんだけど……」


「まぁ、コレで自分ら三人とも、裏切者ですわなぁ」


『ぎ……疑問』



 それまで、ほとんど口を閉ざし、カーラの身体に抱き着き、身を隠すだけだったFDPが、二人へと詰め寄る。



『こ、これから……私は、どうすれば、いい? 今、私の存在するレイヤー階層は、お前たちプレイヤーと同じ階層にある。このままでは、やがて見つかり、私は今度こそ、殺される……っ』


「……そう、ですね。あの、一ついいですか?」


『お、応答。なんだろうか……?』


「貴女、自分の身体を消したりして、どこかへ移動させたりしてるらしいじゃないですか。あれは瞬間移動、みたいなものなんですか?」


『回答……あれは、各街村、またはダンジョン等の場所にリスポーン地点を設け、自分の身体を量子移動させる手段だ。元々、一定攻略を果たしたプレイヤーが、長距離の移動を省略する為の機能で、私がこの世界を改良する際に、私とメイドシリーズ以外へ、機能を封印した』


「じゃあ、それ使って自分らを別の所に移動させたりできるんすわぁ?」


『回答。私が許可すれば、その機能封印を解除できる』


「マジ? 解除して解除!! これで相当移動楽になる! このゲームそれが理由で星3.5くらいにしようか考えてたくらいだし!」


『ぎ、疑問。星3.5、とは何だ……?』


「あ、気にしなくていい……ふひひ、さ、早く解除してっ」



 エリの催促に従う形で、再び三人に一度触れたFDP。


すると、コクーンのメニュー画面にそれまで無かった『場所移動』という項目が追加され、三人が視線を合わせる。



「――どこにしましょう」


「ま……リッカ氏の事ですから、ここはひとまず彼とお話をしましょうや」


「じゃあ……アルゴーラ……だよね?」



 結論が決まり、三人は場所移動の項目をタッチ。開かれたフィールドマップ上のアルゴーラに触れ、FDPも含んで、移動する。




瞬時に、移動する事に成功した三人が目を開いた時。


隣には――随分とズタボロになった一人の少年が立っていた。



「……よう、FDP」



 ビクリと震えるFDPが、共に場所移動してきた三人の背中に隠れ、恐怖する。


しかし、彼女を守る様に立ち塞がる三人の姿に、少年――リッカが、怒りに身を任せ、叫ぶ。



「どうして、ツクモもエリも、そのFDPを庇ってるんだよッ!!」



 当然の疑問だろう、と。三人は笑みを浮かべ、カーラが率先してリッカの手を握ると、彼は怒りの視線を向けたまま、彼女の言葉を待った。



「……ひとまず、オイシーゴハン、タベましょ?」



 ぽかんとする彼の手を引き。


FDPも含めて五人は、そこから徒歩五分も無い、カーラの経営するレストランまで向かう事となった。

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