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混沌の世界-10

 彼女の手を掴み、必死に逃げようとするFDPを逃がさぬリッカの喧騒に、彼女はボロボロと涙を溢しながら、彼の腹部を無理矢理蹴りつけ、その拘束から一時抜け出すと、魔法陣の外へと逃げる為に駆け出す。


だが、魔法陣と外の境目に設置された結界の様なものが、彼女の行く手を遮り、バチリと音を鳴らして、FDPの小さな体を吹き飛ばした。



『う……っ、わ……私は……殺、殺される、のか……っ!?』


『その通りだFDP。君の肉体を形成する量子データを殺せば、君の内部で発生しているエラーはFDPという世界を構成するゲームデータそのものに帰るだろう。


 そしてそこからが私の仕事だ。君の内部にあるエラーが帰った場所に、君の自我を形成した大本であり、自然発生してしまった運営管理AIがある筈だ。


 それを停止させる事が出来れば、少なくともこれから君が起こすエラーを止める事が出来るし、もしかしたら今まで起こしてきたエラーの何割かも、異常挙動を停止するかもしれない。何にせよ、私達にとっては大きな前進となる』


『い……いや、いやだ……っ、し、死にたく、死にたくないっ』



 その細い体を恐怖で震わせ、今まさに一歩一歩、彼女を殺す為に足を止めない少年から逃れようとする彼女が、ボロボロと涙を流し、懇願する。



『私はまだ、死にたくない……っ、だって、だって……っ』



 ――だって、何だというんだ?



カーラは、心の中で、その女性の放つ言葉を、待った。



『私は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 このまま、ゲームが完結してしまえば……っ、皆、皆消されてしまうというのに、それを防ぐことが出来ていないんだっ!!


 海藤雄一に、雨宮律に、いや、もっと大きな、経済産業省や総務省にデータを消されてしまう恐れだってあるのに、この世界そのものである私が、それを拒まずに、誰が拒むというんだ……ッ!!』



 叫ばれた言葉は、誰の心にも届く事は無い。



――その事態を引き起こしたのは誰だ?


――他でもないお前自身だ。



そう睨み、今、まさにリッカが、言葉を放つ。



『プログレッシブ・ラスト・アクション』



 彼の右足に収束する光。その光は確かな破壊力を持ち、これより蹴り込むFDPの肉体を、確かに殺し得るのだろう。



――だがその前に。



「【ゴウライ】デス」



 リッカの上空に突如顕現した、轟雷を生み出す雷雲。その存在に気付いた瞬間、防衛本能として背後へバックジャンプしたが、その背後に存在するのは、アイスレイジによる氷柱。


柱に接触した事によって動きを強制的に止められ、轟雷の電撃がリッカへ直撃。彼の身体はプログレッシブ・スピードとしての装甲で守られたが、しかし確かなダメージとして、彼の身体を痛めつけた。



「な……っ、何、を……っ!」


「ナニを? ワカってるンじゃないデスか? ……リッカ」



 変身が解け、戦闘不能状態になった瞬間に解除される決闘戦のフィールド。


彼女――カーラ・シモネットは、恐怖で震えあがるFDPの身体を抱き寄せると、リッカやメイドに向けて笑みを浮かべる。



「私、ちょっとこの子の味方をします」


「カーラ、な……何を、言ってる、んだよ……っ!」


「弱い者イジメは好きじゃないんです」



 FDPを抱き寄せていたカーラは、しかし彼女を一旦放すと、守る様に立ち塞がり、メイドへと叫ぶ。



「もう一度、今度は私とこのFDP、リッカと二対一での決闘戦をお願いします!」


『え、え……!?』



 混乱しているメイドと、突然の事態に整理が出来ていないリッカに変わり、雄一が回答する。



『その申し出を受けるなリッカ、メイド! 理由は不明だが、カーラさんは今、FDPを逃がす為に行動している!』


『いえ、でも……この申し出を、リッカさんが受けちゃえば……っ』


「……カーラ、本気なのか?」


「Yes。ワタシがジョーダンで、リッカとGAMEをシタこと、イマまでありました?



 ――天才ゲーマー・リッカ。この子を殺したいのなら、この申し出を受けなさい」



 挑発に乗るなと言う雄一の声と、慌てながらどうするべきかを迷うメイド、そして明らかにリッカを誘う様な口ぶりのカーラに、リッカは震える足を叩きながら起き上がって、リングを装着しなおす。



「プログレッシブ・オン……っ!」


『リッカッ!』


『えっと、えっと、その……ご、合意とみなして宜しいですね!?』



 再び、展開される決闘戦のフィールド。


先ほど彼女が言ったように、カーラとFDPの二人と、プログレッシブ・スピードへと変身を果たしたリッカが中心となって展開された決闘場で、メイドは苦渋の選択と言わんばかりに表情をしかめさせつつ、しかし叫ぶ。



『しょ、勝負、開始っ!』



 メイドの声と共に、リッカが跳んだ。


上空からFDPのか細い体に目掛けて蹴り込んでやろうとする彼の動きを、まるで読んでいたかのように、上空へ顕現させられたアイスレイジ。


舌打ちをしながら、脚部スラスターと両足を動かしながら、空中で姿勢制御を行うリッカ。


しかしカーラはその隙を利用するように、リングを装着した指に灼熱のアイコンをかざした。



「Progressive・ON!」


〈Progressive Fire Magically.〉



 プログレッシブ・フレイムへと変身を果たしたカーラは、自身の周りに浮かぶ二十三のプレートを操作しつつ、そのスティックを振るう。


アイスレイジを三連打。消費される少量のMPと共に顕現するアイスレイジの氷が、リッカの行く手を阻むように次々と現れるが、しかし急遽技術のアイコンをリングへとかざしたリッカがフォームチェンジ。



〈Progressive Attack Technic.〉



 プログレッシブ・テクニックへとチェンジした彼が空中を舞う様に氷を避け、カーラへと――否、カーラの背後に回り込み、今まさにFDPへと殴りかかろうとした瞬間、カーラの操作した朱色のプレートが、FDPとリッカの放つ拳との間へ現れ、拳を受け止め、破壊される。


女性までは約数センチ程の距離。背部スラスターを吹かしてその距離を埋め、その腹部に叩き込んでやろうとした思考を読んでいたかのように、カーラが右脚部を振り込んで、プログレッシブ・フレイムとしてのパワーを以て蹴り飛ばす。



『が、ぐ……ッ!』



 蹴り飛ばされながら姿勢制御し、何とか衝撃を緩和したリッカだったが、既に彼の四方をプレートが囲んで、今まさに熱線によって装甲を焼き、彼を痛めつける。



『ぐがぁあああぁ――っ!!』


「甘いですよリッカ。貴方は今、冷静な判断力を失ってる。その状態で、本気の私に勝てたことは一度だってないと、知っている筈でしょう?」


『ま――負ける、かぁあッ!!』



 自身を囲んでいた一枚のプレートへ強引に拳を叩き込み、隙が出来た所から抜け出すように転がったリッカは、一縷の希望をかけて、グランツから授かった【光のアイコン】を、リングにかざす。



『プログレッシブ・アップ!!』

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