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混沌の世界-03

『……その通りだ。このゲームの総データ容量はあまりにも膨大で、如何にマザーコクーンと言えども常に維持し続けるとなれば、多大な金が必要だ。プレイヤーの肉体データを最大保存できる期間として定めた365日も、ギリギリまで使用可能領域を絞り出してこの数字だったというわけだね』


『んで、ここがアタシとしても聞きたい所ですけどぉ、海藤雄一はそうしてゲーム内で生きるしか無くなった人たちを世論に突きつけて「彼らはゲーム内でしかもう生きる場所が無いのだからゲームを削除しないでくれ!」と泣き叫んで同情心を買う為に、このゲームに皆さんを招いた、という危険思考はお持ちじゃないですかぁ?』


『そんな事は目論んでいない。全員が救出され、その上で皆へゲームの存続、データの削除に反論してほしいと願っていただけだ!』


『残念ですけどね、アタシらNPCも含めて今の貴方を信用してる人、そういませんよ? 彩斗さんとかミサトさんなんかは、一番訝しんでると思います』


「本当に残念な事だがね」


「ええ。……人の事をあまり疑いたくはありませんが、我々も楽観的にはなれません」



 彩斗、ミサトさんを筆頭に――ツクモとエリも、残念な事に頷いた。


強いて言えば、カーラはこの事に頷いていないように見える。


彼の行動自体に怒りは感じているけれど、それはそれとして彼がその様な事態を想定して行動したわけではないだろうと考えているのだろう。



「自分は海藤雄一の人となりを知っている。だから、君がそう考えていなかった、とは分かっているつもりだ」



 声をあげたのはツクモだった。



「だが、少なくともこの状況を招いてしまった事により、自分たちはそう考えざるを得ないという事だけは理解してくれ」


『……分かっている。だから私の言葉全てに同意してくれる必要は無い。あくまでオブザーバーとしての立ち位置から君達へ助言するだけの存在だと思ってくれれば、それでいい』


「攻略の役には立ちますからな。皆もひとまずは海藤雄一の怪しい所に目をつむって、攻略に専念すべきっすわぁ。今度なんか嘘ついたりしたら生きて帰ってからフルボッココースで」


「ふひひ、もうフルボッコは確定してそう……」


『……お手柔らかに頼むよ』



 ツクモがそうして話の流れを次の話題に移した事で、ひとまず雄一さんを責める流れは回避する事が出来た。あのままだったら話が進まないからな。



『では次の質問なんですけど……あの子、フル・ダイブ・プログレッシブについてです』



 オレとマリアにとっては、ここが本題だ。


フル・ダイブ・プログレッシブと名乗る、謎のNPC。


母さん、雨宮美穂の姿を模して行動する彼女にはあまりに謎が多すぎる。



「アイツ、何なわけ? リッカのママと同じ姿をした意味わかんねぇ奴。アイツはNPCなん?」


『彼女はそこにいるアンド・メイドを含めた、感情を芽生えさせたAIの思考ルーチンを並列処理している内に、ゲームデータそのものが思考を、感情を芽生えさせた、超自然的に生まれたAI――人工超知能と言うべき存在だ。


 何故彼女が雨宮美穂さんの姿を模しているか、その理由に確たる証拠は無いけれど、仮説は立てられる』


「それは海藤雄一が関わってるんすわぁ?」


『いや、今回の件に私が関わっている可能性も鑑みたが、恐らくないな。美穂さんとの写真や動画がマザーコクーンやFDPを開発したPC内にあったという事なら話は別だが、私が持ってるリッカや彼女との記録は全て個人的なPCに保存している。FDPのデータと同じPCに保存した記憶はない』


「だが現にグラフィックモデルは存在し、彼女はこのFDP内で自分達や他のNPCに認識される形を保っている。なら海藤雄一によってモデルを作られた……というのが一番解りやすい回答じゃないんすわぁ?」


『そう言われるとも思ったけど、私は彼女のグラフィックモデルを作ろうと思えるほど豪胆な人間じゃないよ。


 ――あの人は綺麗で、可憐で、世の女性が持つ魅力を、全て内包した人だった。私にはそんな女性の偽物を作ろうなんて思えない』


「……それは確かにな」



 ツクモと雄一さんによる会話でちょっと引っかかる所がある気はしたが、しかし続けて「じゃあ」とエリが口を開いたので、口を挟めなかった。



「あの人が、リッカ君のお母さんと似た外観をしてるのは、偶然みたいな感じ、なのかな……」


『いや、流石に彼女の姿を知ってるツクモさんやマリア、そしてリッカ本人が彼女と見紛う程の外観と、私も聞いているが彼女と同じ声を有しているのなら、偶然ではないだろう。


 私の仮説としては――リッカ、マリア、ツクモさん、カーラさん、この四人の記憶に彼女の姿が強く、鮮明に残っていて、その記憶を含めた脳内データを意図せぬ内にFDPが処理・グラフィックモデルとして形成したのではないか、と考えている』


「記憶に根付いていた姿をFDPが意図せず模したというのか? それこそあり得ないのではないかな」



 彩斗の反論にも一理ある。けれど――



『だがそれ以外に説明が付かない。彼女自身、何故自分が雨宮美穂さんと同じグラフィックモデルを有しているのか、その理由を知らないというのならば、要因としてはそれしかない』


「あのさぁ……そりゃリッカ君とかは、あんま気分宜しくないと思うけど……そのFDPが、リッカ君のお母さんと同じ姿してんのは、何か今後に関わる重要な事、な感じ……?」


『正直な話、今現状は「気分が悪い」というだけかな』



 死者の姿を模り、その姿で平然と動く者。


オレにとっても、母さんに可愛がられていたマリアにとっても、気持ちのいい存在ではない。

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