混沌の世界-01
その日は、全員でエパリスのホテルに集まっていた。
集まった部屋はオレ――リッカの部屋。少し大きめの部屋を借りて、集まっていた面々を見据える。
雨宮律。
マリア・フレデリック。
新庄璃々那。
九十九任三郎。
松本絵里。
カーラ・シモネット。
三星彩斗。
明石三郷。
そして、今まさに全メイドシリーズを代表しアンド・メイドがオレの部屋前まで訪れ、ドアを開けて彼女を招く。
こうしなければプレイヤーのプライベート空間に彼女の様なNPCは入る事が出来ない制約がある為、彼女は『ありがとうございます』と礼をしながら、集まった面々に頭を下げた。
『ではこれから、海藤雄一と通信を繋げます。時間としては無制限ですが、あの子――FDPから何かしらの妨害が入り、途中中断する可能性もあります。なるべく質問数は絞って、時間が余れば他の質疑応答に入る、という形で進行してよろしかったですかぁ?』
全員が頷いた事を確認。メイドは『結構です』と言いながら、隣に立つオレへ視線を向ける。
海藤雄一と通信を取る為に、コクーンを起動。そしてコクーンの画面を三回連続でタッチする事で【外部音声通信機能】をONに。
次にメイドが画面に触れると、少しだけ画面にノイズのようなものが走ったが、やがてそれは収まり、収まると同時に通信が繋がる。
『もしもし、こちら【トモシビ】内、海藤雄一だ。どうぞ』
『どーも海藤雄一。今、アタシ達メイドがどうやって、どうして通信してるかはご理解してますかぁ?』
『君達メイドシリーズが現在受け持っている運営管理システムと、私が急ピッチで開通させた外部音声通信を直列で繋げて通信しているんだろう? そして現在通信している理由は、私の目論む事も含めての情報共有――と言った所だね』
事前に話は通していなかったが、雄一さんは元々オレ達のログデータを追える立場にある。こうしてオレ達が通信をするという事も知っていたのだろう。
『では色々と質問していきたいんですけど、海藤雄一はフルボッコにされる覚悟はありますよねぇー』
『……そうだね。この中で一番怒っているのは、カーラさんなんじゃなかろうか』
「ご理解頂けていて、私も嬉しいです。海藤雄一」
何時もとは数トーン低い声で彼の言葉に反応したのは、雄一さんの言う様にカーラだった。
彼女は普段の二百五十パーセント増し位の殺気を放出している。普段は殺気とは無縁な人なだけに、この人がキレるとマジで怖いから困るんだ。
「カーラ氏。怒りはごもっともっすけど、ひとまずはアンドさんと会話させましょ。なんかボロ出るかもしれないっすわぁ」
そんな彼女をなだめるツクモだが、彼の声も普段より落ち着きがある。ふざけていない証拠だが、彼はまだ語尾が抜けていない事から冷静であると思われる。
「ぜ、全員も、それで、良いよね……?」
ツクモがカーラを止めている間に、皆に確認を取るエリ。
「いいんじゃねぇの? 色々問いただしたい事はあっけど、そんな優先度高くねぇから最後でいいわ」
「わ、私も少し、ありますけど……でも個人的に言いたい事なので最後で構いません」
「私とミサトは一応聞く事があるのだが、先にメイドと会話させる案には賛成だ」
「ええ。メイドは現状のFDPをよく知る人物の一人ですので、彼女と会話させれば何か我々の知らぬ状況が見えるかもしれません」
「同じく。続けていいぞ」
最後はオレが〆る事によって、メイドが顎に手を当てて、質問コーナーに入る事となった。
『ではまず第一に、状況確認ですねぇ。海藤雄一、現状開放出来てる称号数は幾つですか?』
『千四百十一個だ』
「雄一さん、いいか?」
そこで思わずオレが手を挙げてしまう。
『何だリッカ。今はメイドとの質疑応答だろう?』
「いや、矛盾がある気がしてな。オレが今のところ確認してる数が、千四百十個なんだよ。彩斗の攻略組とアルゴーラの生活組、そんでもってオレ等六人の数は増えたら報告するようにして貰ってるから、ここで矛盾が出る筈無いと思ってたんだけど」
『ああ、そういう事か。君の認識自体も間違いではないのだが、その辺りは後で説明する。まずは続けていいかい?』
「後で説明が入るなら」
邪魔して悪い、と言いながらメイドに返すと、彼女も『続けましょっか』と仕切り直してくれる。
『その中で該当称号だったのは何個です?』
『ここも突っつかれるとは思うが一旦スルーして欲しい。後で説明するが……三個、該当称号がある』
全員が、視線を合わせる。
現状、ここにいるプレイヤー八人の認識では、該当称号が二つだった筈だが、一個増えているというのだから。
しかし、自分たちが知らぬ間に攻略組や生活組が取得した称号に該当称号があった可能性も否定できず、またあとで説明するという言葉もあったので、口を紡ぐ。
『三個、ですか。新しい一個はアタシだって知らない称号って事ですね。アタシ達の監視が出来ない、家や宿泊施設内での取得って事ですかぁ?』
『そうだね。だが何度も言うが後で説明するので次に行ってくれ、アンド』
『そう、ですかぁ。では次――貴方の最終的な目的を教えて下さい』
『決まっている。プレイヤー全員の生還だ』
『ウソですね』
『ウソじゃない。……いや、だが確かに「最終的な目標」では無かったな、失礼。
最終的な目標としてはやはり「フル・ダイブ・プログレッシブというゲームのサービス継続」だ』