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チュートリアル-01

 オレと海藤雄一は、昔馴染みと言っても良い。


オレは世界を股にかけるゲーマーとして活動をしていた他、グレイズ・コーポレーション専属のゲーマーとして、今でも席が残っていると前に富山さんから聞いたことがある。


昔、海藤雄一の開発したAC版格闘ゲームのデバック及び先行プレイをしている時、彼と話していたことがある。



「リッカ、君はもし、自分の身体を違う世界に移動させ、自由に遊べるゲームがあるとしたら、どうする?」


「VRゲーム?」


「いや、勿論一種のVR MMOと言っても違いはそほどないかもしれないが、それはヘッドマウントディスプレイを取り付け、目に映る光景が本物であるかのように脳が誤認識を起こすだけ。視界全てをヴァーチャルの世界に向け、架空の映像を見せられているに過ぎない」


「でも人間に作れるゲームで、それ以上の没入感を得る事なんて、不可能だろう? それとも、ゲーム世界に似たアトラクションを作って遊ぶって言うのか? ゲームランド、みたいな。子供には受けそうだ」


「それはそれで、企画書を出そうかな。私は子供の喜んでいる顔が見られるならば、どんな事でもしたい」


「なぁ、雄一さん。オレは、アンタが作るゲームが大好きだよ。でも、そほど頭がいい訳じゃないし、アンタが言いたい事が、理解できないんだ」



 KO。相手はNPCだが、最高難易度AIに設定してあったので少々苦戦したが、流石に人間とは思考が違う。


 相手にマリアを持ってきてほしい。彼女なら一時間共に練習をすれば、きっといい対戦相手となる。



「私は今、量子力学の勉強をしていてね。量子という言葉を知っているかな?」


「オレ中学生だぞ?」


「簡単に言うと、物理量の最小単位さ。高校で扱う物理学でも、恐らく量子力学までを習う事は無いと思う。でも、今はどうなんだろう」


「本題」


「そうだね、ここで長々と量子力学を説明しても、混乱させるだけだ。――私は、この量子を電子データへと変換をさせ、量子コンピュータ側で受信を行う実験をしている。また極々ミクロな世界を量子によって形成し、これをゲーム世界として生み出せないかも合わせてね」


「つまり――人間をデータに変換して、量子データで作り上げたゲームの世界に送り込む事で、ゲームを遊べるようにする?」


「そういう事だ。そしてあくまでデータの話だからね。例えば普通の人間では出来ない遊び方や、武器も設定できる。通常のVRゲームやテレビゲームでは味わう事のない夢を叶える事が出来る」



 それを実現できれば素晴らしいと思う。けれど、雄一はそれでもなお、苦笑した。



「とは言っても、現実はそこまで簡単ではない。実現する為の資金もそうだし、計算式を作り出す事にも苦労している。君の今プレイしているゲームは、あくまで資金探りの為に生み出したお遊びレベルさ」


「楽しいけど、オレの敵じゃないかな」



 KO。マリアが呼べないなら、シモネットさんでもいい。彼女の直感的な連撃を格闘ゲームで如何に躱していくかも、最近は楽しみなのだ。



「そこで、刺激が欲しい。私に何か、アイデアをくれないかな?」


「現実じゃ、出来ない事、か」



 そこで、今朝見ていた特撮ドラマを思い出す。



「変身したい」


「変身?」


「うん。正義のヒーローに変身して、敵を倒す奴」


「いいじゃないか! 大抵の人は剣とか魔法とか、そういうゲームの概念から外れない人ばかりなのに」


「あ、でも剣とか魔法とかも、やっぱりいいよ。変身しても、戦い方は無限にあるとか。例えば、変身アイテムみたいなのが無数にあって、どの変身をするかによって、個々の能力が違う奴」


「じゃあ、変身アイテムとは別にパワーアップ――いや違うな、性質変化を起こすアイテムも用意して、ただ変身するだけじゃ弱いままの状態にするのは、どうかな?」


「それ、称号要素にもいいんじゃないか? ただ変身しただけじゃ弱いって思ったやつがそのまま使いこんで、ようやく本当の変身を理解するって奴!」



 どんどんと、話はヒートアップしていく。


この時、雄一の瞳は輝いていた。手元にあるメモだけでは足りないから近くのコピー機まで走ってA4用紙をごっそりと持ち寄り、サラサラと草書していく彼の姿は、生き生きとしている。



「あと、掛け声とかあるとやっぱカッコいいよ。〇〇・イン! みたいな!」


「それはゲームを起動させる音声コマンドにしよう! あとは変身する時にも、なるべく音声入力を多めに……!」



 KO。これはオレの敗北だ。あまりに話に集中しすぎて、操作なんかレバーを握ってもいなかった。



「……私は、ずっと一人でゲームを作って来た。勿論力を貸してくれるプログラマーも、費用を出してくれる社長も、色々と手助けをしてくれるライターもいるけれど、それでも、私のこんな子供じみた夢を、一緒に見届けてくれるのは、やっぱり子供なんだ」



 私は子供が大好きだ、と。


雄一は笑顔で、語る。



「ゲームは誰が楽しんでも構わない。だからこそ、奥深いストーリーややり込み要素とか、そう言った部分を作って大人を歓喜させるのも良い。けれど私は、私の作ったゲームをプレイして、何かを感じ取ってくれた子供が、大人へと成長してくれる事が、何よりも嬉しいんだ」


「オレも、雄一さんの作るゲームが、大好きだよ。アンタは趣味で作ったって言ったこのゲームでさえ、笑顔にプレイする子供が必ずいる。だから、ずっと止まらずに、皆を笑顔にするゲームを、作り続けて欲しい」


「ああ――でも私は、まずは君を、心の底から笑顔にしてやらなきゃな」



 そう言って笑い、オレの頭を撫でた雄一の手は――大きかった。


オレは、彼の体温を――ずっとずっと、忘れないのだろう。

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