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立ち止まった場所ー09

 彼女はありとあらゆる娯楽に精通し、理詰めで勝利をもぎ取る女。


それも、マリアの様に装備品やアイテムを妥協せずに利用するタイプでもなく、レベルを上げ過ぎずにギリギリのラインを見極めて戦う事を得意とする女で、だからこそモンスターの一挙手一投足を全て観察し、対策を練る事が出来るスペシャリスト。



――勝たなくていい、ただ逃げるだけでオレ達の勝利となる状況ならば、彼女の判断に間違い等あり得る筈が無い。



エリがプログレッシブ・スピードとなった事によってマリアの体を抱き寄せ、オレと彩斗が戦うグランテとアバルトの間を抜け、ミサトさんの元へ。


既に回復魔法を使用していた彼女がマリアへと回復魔法を使用した事により、マリアも問題なく動けるようになるまで復活。



「――ッたく! アンタは詰まんねぇ事でグチグチ悩み過ぎだっつの! ちったぁアイツを信じろッ!」


「うぅ、ご、ごめんてマリア……」


「……アタシはアンタの事、ここにきてからそこそこ信頼してんだからね!」


「ま……マリアがデレてくれた!?」


「べ、別にデレてないっ!」



 マリアが今、技術のアイコンを握り、リングへとかざす。



「変身!」


〈Progressive Gun Technic.〉


「ま、マリアはリッカ君の援護、ミサトさんは、彩斗の援護、お願い……っ、リリナちゃんは、そのまま風圧無効、かけ続けて!」


「い、今逃げないんですか!? そこそこ有利な状況になりましたけど!」


「一斉に逃げた時に協力技使われるとマズいし、ある程度ダメージ与えてから逃げた方がいいの……っ」


「なるほど、確かにそうですね。では、私も――変身」



 ミサトさんはリングへ氷結のアイコンをかざす。



〈Progressive Recite Magically.〉



 プログレッシブ・フリーズへと変身した彼女が、先輩より風圧無効のバフを受けてそのまま前線へ向かい、彩斗が今着地した瞬間を見計らって自身の周りに駐留するプレートを操作、一斉に冷凍ビームを放つ。


アバルトの脚部を冷却させていくミサトさんに合わせ、彩斗が再び地面を蹴り、アバルトの頭部――その二本角の一角へと一振りを刺し込み、そこを足場にしながらもう一本を、アバルトの顔面へ思い切り突き立てる。


絶叫。黒い稲妻のような物が彩斗へと襲い掛かるも、しかしそれをミサトさんのプレートが防ぎ、消失した瞬間を見計らって、彩斗は双剣から手を離し、その柄に向けて思い切り拳を振り込んだ。



「プログレッシブ――ラスト・アクションッ!」



 一角に差し込まれた双剣を殴り、それによって角が折れた。


痛みに耐えるように地面へ転がったアバルト。


それと同時に、オレとマリア、そしてエリも動く。



エリが駿足のアイコンでプログレッシブ・スピードとなっている利点を生かし、グランテが角より放つ白い稲妻を避けていきながら、マジックガンのトリガーを引く。


放たれた三発の銃弾は、しかし技術のアイコンと氷結のアイコンが装填されている事から、真っすぐは飛ばず、無軌道にバラけ、しかし最後には一本の角へと命中し、冷却・防御デバフが蓄積。


さらに、冷却され固まった部位に、マリアが放つ二発の銃弾が着弾し、さらに防御デバフ蓄積を受けた事を確認したオレが――今地面で脚部に力を込め、背部スラスターを吹かして、蹴り込みに行く!



「リリナちゃんッ!」


「はいっ!」



 エリの指示によって、先輩がリングを一度取り外し、変身を解除。


すぐにリングを装着しなおすも、しかし変身はせずに歌いだし、オレに更なるバフが掛かる。



『プログレッシブ・ラスト・アクション――ッ!』



 彩斗と同じく、角目掛けて蹴り込まれた一撃が、グランテの角を、叩き折る。


アバルトと同じく地面へ転がった二体は、一度のそりと起き上がると絶叫するも――しかし、その身を翻して、瘴気の谷奥地へと、逃げていく。



『撃退……出来たな……っ』


「ああ……全く、今どの程度の進行度かわからないのに、エンドコンテンツに挑むのは、心臓に悪い……っ」



 オレと彩斗が地面へ倒れながら、変身を解く。


他の面々より圧倒的に動き回ったオレ達が倒れると同時に、メイドが姿を現して、ペコリとお辞儀をしてくれた。



『皆さん、今回はFDPの暴走で、大変ご迷惑をおかけしましたっ』


「FDPって、あのリッカのママを真似してた奴よね? アイツ、一体何なの!? 死者を冒涜して、絶対許せないんだけどッ!?」



 回復も相まってか元気になってるマリアを制す。


何が起こっているかわからないのに怒鳴っている程、無駄な体力消費は無いからな。



『我々も、あの外観等に関してわかっているわけではありません。


 ――あの子、FDPというAIは、私達のようなこのゲームに存在するNPCが芽生えた感情のデータを並列処理している内に、世界そのものに芽生えた人工超知能と言うべき存在です』


「海藤雄一も、彼女も、そんな事を言っていたな……」



 そう、オレはそこも気になっている。


明らかにエリや彩斗達は彼女の存在を知っているように見えた。


何時、どこでそれを知ったのか、その事態に海藤雄一が関わっているのか、海藤雄一は何を企んでいるのか、あの女は何を企んでいるのか……。


全てを知る必要がある。



――だけど。



「……今日は疲れた。今度、ツクモと合流した上で話を聞かせてくれるか? メイド」


『ええ。その時は海藤雄一も一緒に。彼の作った回線と私の持ってる権限を使用すれば、無制限で通信できるようにすることも可能でしょう』


「何それ、一気にアタシ達へ協力ムードじゃん。何か企んでる?」


『逆です。海藤雄一が何を企んでるのか、それが私達にどういう影響を及ぼすのか、それを問いただす必要があるんです。


 私達はあくまでゲームの正常運営を目指す者であり、それを妨害しようとする者や、それを手助けする海藤雄一、そしてFDPという世界に芽生えた人工超知能の存在は……尊ぶべき存在ではありますが、私達メイドシリーズにとっても、敵なんですから』



 姿を量子の粒へと変化させ、消えていくメイド。


彼女が消えた瞬間、オレ達のアイテムポーチ内に、八個ずつの石炭が入っている事に気がついたが、この時はそれを喜ぶ事も出来なかった。

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