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立ち止まった場所ー08

『ああ、もう……ッ! FDP、アタシ達メイドをノケモノにするなんて舐めた真似を!』



 と、オレ達の意識を戻すには丁度いい存在が現れる。


女性が消えた事を皮切りに、どのメイドかはわからないけれど現れると『皆さん無事ですか!?』と叫んだ。



「無事じゃねぇけど、この状況何とか出来るかメイド!」


『っ、は!? 何でグランテとアバルトが瘴気の谷に出現してるんですか!? ラスボスですよコイツら!?』


「だから困ってるんだよ! オレ等全員満身創痍だ!」



 唯一の救いは、現状グランテとアバルトはオレ達を見据えたまま、何も動きが無い事だ。


通常あり得ない挙動として、また先ほどの女性が操っていた事もあってか、今はただ唸り、威嚇するだけ。


だがオレ達が逃げ出そうと、または攻撃しようとすれば、どうなるかはわからない。



『……現状、私にはどうしようもありません! 後で補填として石炭を計四十個差し上げますので、逃げて下さい!』


「、っ、つっても……アタシ、もう動けないんだけど……っ」



 マリアが地面に体を預けたまま、珍しく泣き言を言う。


しかし彼女はグランテにやられたばかりか、グランテとアバルトの協力攻撃によってさらにダメージを受けている。死んでいない方が奇跡ともいえるだろう。


そしてオレ、彩斗、ミサトさんはほぼ満身創痍。比較的無事なのは先輩とエリだけだ。


万事休すか――そう泣き言を言ってやろうとした、その時。



「――エリさん、手伝ってくださいッ!」



 先輩――リリナが。


技術のアイコンを持ち、それをエリへと見せつけた上で、叫んだ。



「り、リリナ……ちゃん?」


「私はエリさんの苦しみを理解する事は出来ません!


 だって知らないから。私はエリさんの事を何も知らないし、教えて貰った事も無いから、分らないもの!



 ――でも、私は今のエリさんを、信じます!



だから、エリさんも、今は私を信じて、手伝ってくださいッ!」



彼女の言葉を聞いたエリは、何を思っただろうか。


オレにもそれはわからない。


先輩の言う通り、オレ達人間は何も知らなければ、何も教えて貰わなければ、理解する事なんか出来ない不完全な生き物だ。


だから、人間は他人を恐れ、大人は時として自らが優位な事柄を盾に、他人を傷つけ、自らの身を護るんだ。



――けど、それでも他人を、信じる事は出来る。



信じて裏切られる事はあるかもしれないけれど――他人を信じる事の出来ない、心の荒んだ人間にはなりたくない。



――先輩は、璃々那アラタという存在は、ずっと心に傷を抱えて生きて来た。


――けれど、人を信じる事は、決して止めなかった人だからこそ、その言葉に確かな意味を、説得力を持ち得るのだ。



だからオレは灼熱のアイコンを、掴んだ。


そして彩斗も、ゆっくりと立ち上がって、打撃のアイコンを、掴んだ。



「私も、エリ君を信じている。……君ならば、この状況を打破する事が出来ると」


「オレは今更、言葉にするまでもないだろ?」


 

全員の視線を一身に受けたエリは、最初こそ困惑していたけれど……



 やがて、考える事が苦痛であるかのように、叫び、瘴気の谷内に彼女の声を轟かせ、氷結のアイコンと技術のアイコンをマジックガンに装填した上で、リングへと駿足のアイコンを、見せつけた。



「ああ、やってやるよ――! 皆、私を信じてッ!」


 

そう、それこそ――言われるまでもない。



皆が一斉に、リングへアイコンを、かざす。


駿足のアイコンをかざしたエリ。


灼熱のアイコンをかざしたオレ。


打撃のアイコンをかざした彩斗。


技術のアイコンをかざした先輩。



そして全員の声が――一致する。



『――変身ッ!!』



〈Progressive Gun quickly.〉


〈Progressive Fire Active.〉


〈Progressive Attack Exciting.〉


〈Progressive Technical Magically.〉



 変身を終えたオレ達は、それぞれがばらけて行動を開始する。



まず、オレと彩斗が互いの眼前にいる敵へと駆ける。


オレはグランテへ。


彩斗はアバルトへ。


オレ達が行動した事によって咆哮を轟かせる二体、先ほどまでならただ咆哮や翼の風圧によって吹き飛ばされていただけであろう。



だが、今は違う。


変身した事により、MPの消費が極限にまで減っている先輩は、歌姫ジョブの能力を使う事が出来ない反面、歌姫ジョブで付与できないバフを、オレと彩斗へ付与したのだ。



それは【風圧無効】



先輩の使用するスティック――【プリンセス・トワイラル】は、基本バフとデバフのみに特化したスティックで、攻撃魔法がない事は難点だが、他の人材が持ち得ぬバフが備わっている。


そして――その間に先輩はまずミサトさんの体を抱き寄せ、まだ行動が可能である事を確認して、回復を指示。


オレと彩斗はそれぞれの獲物――彩斗は双剣を、オレは拳を振り込んでグランテとアバルトへ叩き込むと、互いにオレ達を敵視し、咆哮。


だが、先ほどの様に強力な合体攻撃を行ってこない。



――こう言った強力な手合いは、基本的に対処法が備わっている場合がある。



強力な合体攻撃をしてくる場合なんかは大抵が両方に敵視されている状況で、モンスター同士が手を組んだ方が好ましいからだ。


今は違う。


オレはアバルトへ攻撃は仕掛けない。


彩斗もグランテへ攻撃を仕掛けない。


そして周りのエリや先輩、マリアやミサトさんは現在戦線に参加していない。


一対一の状況で、協力技を出す必要が無い状況を作り出す事により、敵は攻撃を制限される。


残念な事に、こうしたゲーム的挙動をするのであれば、それを識別して判断できる者がいる。



それがエリだ。

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