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立ち止まった場所ー02

 瘴気の谷を進む際には気を付けなければならない事がある。


姿を隠せる岩や、恐らく炭鉱事業の名残であるトロッコやその他設備、含めて掘り起こされた穴等も存在しているにも関わらず、その濃過ぎる瘴気が視界を覆っていて視認性が非常に悪い事だ。


現在オレとエリはリングを装着しながら先に進んでいるものの、あくまで瘴気の影響を少なくできるのは有毒機構だけで、視認性を回復させるモノではない。


だからヒョイヒョイと先に進んでしまえば思わぬ罠に引っかかったり、岩陰等に隠れているモンスターと鉢合わせて一撃でお陀仏、という事も考えないといけないのだが……。



「あよっと、ほっと、あらほいっと」



 今はエリの後ろに付いていく事で、安全な道を進むことが出来る。



「モンスターの影響で、道が若干変わる事も、あるんだけどね……ふひ」


「助かるよ、エリ。本当にありがとう」


「ぶひひひ、リッカ君……二人きり、だから……王子様口調……戻ったね……っ」


「強制したのはエリだろう?」


「ふひひ、そうなんだけどねぇ……ま、別にやめたいなら、別に、いいかな……? 好きにして、いいよ?」


「うーん」



 なんか、そう言われると少し、寂しい気もする。



「エリは、あの時オレに言ってくれたことがあったろう?」


「……なんか、言ったっけ?」


「『背伸びして大人になったつもりでいる子供ほど、面倒で可愛げのない子供はいない。でも、そうして大人になろうとする子供は輝い」


「ああああああああ、それヤメテそれ!! アレ私カッコつけ過ぎて黒歴史なんだからッ!!」


「エリの言葉で一、二を争う位に好きなんだけどねオレ!?」


「だだだだ、だってあれ以来、なんか私のリスナーも増えたし!? ファンアートとかメチャクチャ貰ったはいいけど、ちょっとカッコつけただけなのに皆感化され過ぎだってのッ!!」


「い、いいじゃないか。それだけ、エリが本気でそう言ってるように思えたんだろう?」


「うー……わ、私、そんな良い事、言った……?」


「良い事を言ったと思うよ」



 昔、エリと一緒に配信した『レトロゲー配信』で、オレとエリが対戦した時の事。


スーファミの操作に慣れていなかったオレは善戦するも敗北し、約束していた罰ゲームで『王子様口調で話す事』というモノを未だにオレは実践している。



『何でこんな罰ゲームなんだよ……』


『んー? リッカ君、違くない……? ふひ、ふひひ』


『ぐっ……な、何でこんな罰ゲームをさせるんだい? エリチリ……こ、こんなカンジ?』


『そーそーそんな感じ……っ、ふひひひひ……っ!


 ……ん、まぁ、そのさ。私、リッカ君がちょっと、心配でね? ちょっと子供っぽい罰ゲーム』


『心配? 何が心配だっていうんだよ……言うんだい?』


『正直さ、背伸びして大人になったつもりでいる子供ほど、面倒で可愛げのない子供はいないんだよねぇ……』


『オレは、そんな背伸びして見えるか……? 別に、普通にしてるつもりなんだけど』


『うーん、今の口調はちょっと荒っぽいかなぁ……まぁ、いいや。


 あんね、多分リッカ君も、意識してないと思うんだけど……リッカ君は、急いで大人に、なろうとしてるんじゃないかな……?』


『……それは確かに、あるかもしれない、ね』


『でも大人ってさぁ、基本ロクなもんじゃないだよね……言っちゃえば、大人って奴に、リッカ君もなってると思う……ほら、今こうして仕事してさ……お金も貰えてるし、それは立派な大人の一人、だと思うよ……?』


『シモネットさん……ああ、イタリアで料理動画とかを配信してるカーラ・シモネットさんも言っていたよ。「大人は誰かに笑顔を届ける事が出来る人の事」って』


『ぶひ!? リ、リッカ君てばカーラさんと知り合いなの!? こ、今度紹介、紹介して!? わ、私の番組にも出て欲しい!!』


『そ、それはシモネットさんに確認を取ってからかな?』


『ん、んー。で、でもカーラさんが既にお説教してるなら、私の言葉なんていらない……よね?』


『いやフレデリックさんのは別に説教じゃなかったけど……でも、ちょっと聞いてみたいよ。なんでオレが背伸びして見えたのか、とか……急いで大人になろうとしているように見えたから何なのか、とか』


『……カーラさんはさ、大人の事を「誰かに笑顔を届ける事が出来る人の事」って、言ってたんでしょ?』


『ああ』


『それ、確かに正しいと、思うんだけど……私は、ちょっと解釈違いかな……?


 愚痴になっちゃうけど、大人なんて存在は、大抵汚くて、ズルくて、でも無駄に知識もあるから小賢しいし、その気になれば、お金や地位、自分の為だけに、どんな事だって出来ちゃう。


 私は、こうして配信とか、そういうのやるまで、そういう大人に、食い物にされてきたと、思ってる。


だから、私は大人って、キライ。大人になんか、なりたくなかったし、今の子供に、そんな大人に、なってほしくない。


 ……リッカ君が、そんな大人になるように、生き急いで、大人になってほしく、ない』


『エリ……?』


『……でも、でもね?


 そうして大人になろうとする子供は、輝いてると思うんだ。


 私みたいな腐りきった大人とは違って、子供はそうやって未来に突き進めるんだ……っ!


 だから私は、伸び伸びとした子供が、しっかりと大人になれるような、そんな世界が欲しいと思う。


 その為だったら、私はどんだけでも、腐りきってやる』

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