松本絵里-03
四散し、消えていくガルロット。
息をつく、オレ達三人。
瘴気の谷は初めて挑戦しているが、難易度は今まで挑戦した事があるクエストやダンジョンの中で段違いに高い。(異常種ミライガは別として)
今みたいなガルロットは既に三体目を倒し、それ以外にも【風塵翼】フワトルッカとか【燐炎竜】ヴァルヴェルトとかもいるし、生半可な装備で挑むとマジで詰みかねない場所だ。
今までツクモとエリにだけ攻略を任せていたのは悪手だったかもしれないと思いつつも、しかし彼らの実力があるからこそ生き残れているのだろうという信頼もある。
「先輩、大丈夫ですか?」
「あ、うん。瘴気のせいか、ちょっと身体が痺れる感じがするだけで、私は平気。二人は大丈夫?」
「変身してる時は瘴気の影響をほとんど受けないんで、大丈夫です」
「私も、歌う以外で役に立てると嬉しいんだけど」
「リリナの場合は変身すると歌姫ジョブのバフ率下がるしねぇ。戦えないのもしゃーねぇって」
「あ、でも歌ってる時は瘴気が効かないのかな。私歌ってる時だけは結構動けるの」
「歌姫ジョブのレベルが上がると効果が増えたりするのか、それも調べないとですね」
とはいえ、瘴気の谷自体はもう超える事が出来る。モンスターもだいぶ減って来たし、今日はこの先にある街で休んで、そこにいるハズのエリと合流しよう。
谷を抜けると瘴気も薄れていく。山の獣道を下り、少々疲れが出て来た所で、その街を視界に映す。
「これが――工業都【エパリス】か」
中世ヨーロッパの街並みにも似ていたアルゴーラや、古代ローマらしさの残っていたミュージアムとは異なり、この工業都【エパリス】は蒸気機関車等の機械類が多く見られる、近代的な様相の街並みだった。
広さはアルゴーラよりも小さいが、しかし路面蒸気機関車によって交通の便が拡大、更には少ないが車までが存在している。
「活気ある街ねぇ」
「近代ロンドン的な街並みって感じだな」
「リッカ君って歴史とか好きなの?」
「……すみません、ほぼゲーム知識ですしあんまり知らないです」
「私も世界史は苦手で……」
「何言ってんのよゲームの世界に現実のアレコレ持ち込む方が野暮ってモンじゃない!」
楽しそうに街へと駆けていくマリアを追いかけつつ、オレがコクーンをタッチしてエリへと通話を繋げる。
『はい……もしもし……』
「エリか? 今エパリスに着いたけど」
『あー、うん……門超えた、少し先に、ホテルがあるから……そこのエントランスで、待ってて』
「苦しそうだけど、どうした?」
『ただの二日酔いだから安心して……うぷっ』
即座に通話を切り、先輩に「いきましょ」とだけ言ってマリアの肩を掴む。
「マリア、そこのホテルでエリが待ってるってよ」
「あ、そうなの? じゃあ先にそっち行きましょっか。アイツに色々聞いてからの方が街探索も捗るだろうしさぁ」
と言いつつ、マリアの表情は早くこの街の探索をしたくてしょうがないといった感じだ。このゲームに来てもう二か月以上経っているけど、この世界観と言うよりリアリティが持つワクワク感はオレも理解できるけれど、まずは攻略が先だ。
ホテルへと入り、綺麗なフロントを抜けてエントランスのソファに腰かける。注文を聞かれたのでメニューを見て、適当なジュースを注文するとすぐにマネーが引かれたが、流石高級そうなホテルと言った感じで、通常アルゴーラとかだと200マネーとかしか取られないのに1000マネー持っていかれた。
「あー、待たせてゴメンねぇ……ふひ」
しっかりと装備品等も整えながらも、ボサボサとした髪の毛をそのままに現れたエリが、眠そうにしつつも同じ席に腰かけて朝食を注文している。メニュー画面を見たが、エリも総資産が一億マネー超えてる!
「FDPって金集めやすいのか?」
「あー……まぁ正直オンゲにしては集めやすいかなぁ……ただ使う場面が少ないしねぇ……ふひ。カーラさんみたいに、お店開くとかで得られる、称号もあるし、そういうのをやりやすく設計してる、とかかもね」
「んで、何でアタシら三人を呼びつけたのよ?」
そう、今回オレ達三人がこのエパリスへと訪れたのは、彼女に呼ばれた事が理由だからだ。
勿論いずれ瘴気の谷攻略に進む気はあったし、エパリスへの到達は攻略上必要だとは感じていたが。
「ちょい、称号獲得できそうな奴、思いついてさぁ……ほら、カーラさんの獲得した当該称号、思い出して」
カーラさんが取得した当該称号というと、レアドロップによる食材アイテムゲットについてか。
「このエパリスはさぁ……昔は瘴気の谷から取れた炭鉱によって発展してたんだけど、今はガルロットの大量発生のせいで、その事業撤退を余儀なくされてる……って設定、知ってる……?」