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先行プレイ-09

グレイズ・コーポレーション本社の近くには、有名なスポーツジムの支部がある。世界各国に支部が存在するブラウンジムという所は、会員であればどこの支部でも利用可能な場所だ。


オレもこの支部会員で、時々汗を流しに来る。



――だが今日は、普段見慣れない一人の少女がいる。



赤のタンクトップと黒のハーフパンツ。茶髪の髪の毛を後頭部で結ったポニーテールの女の子は、ランニングマシンで汗を流している。


顔立ちは、米国系の綺麗な顔だ。鋭くはあるが整った目と、綺麗な鼻、口元。肌は純白の白人系。そして小さな胸と引き締まった腹筋、健康的にスラリと整った長い足が、スポーツ女子と言った風で、見惚れてしまう程だ。


彼女の隣にあるマシンへ。速度は最初こそゆっくりだったが、次第に彼女と同じ程度にまで早め、そこで固定する。



「久しぶりだな、マリア」


「久しぶりね、リッカ」



 会話をしていても、オレ達は前を向いたまま走るだけだ。ランニングマシンを使用している時は、安全を第一に考えねばならない。



「……あれからどうしてたのよ。ゲーム辞めて、ハイスクールに通ってたの?」


「そうだな。ゲームなんざ嗜む程度にしか触ってないよ」



 ちなみに、会話は全て英語だ。マリアはアメリカ人で、日本語は少々しか分からないので、オレの方が英語を喋らなければならない。



「情けない奴。……そんな奴にゲームで引き分け続きだったアタシが、ホント情けないんだけど」


「ごめん。お前とは、何時かちゃんと決着を付けようと、約束してたのに」


「ペース、上げるよ」



 宣言通り、彼女はランニングマシンのペースを上げた。オレも、彼女に合わせて早くする。



「FDPについてでしょ」


「そうだ。お前の力量を見込んで、頼みがある」


「アンタが参加するってんだったら、アタシも参加するに決まってんじゃん」


「でも、これはオレへの対抗心だけで、決めてほしくないんだ。あのゲームは恐らく、本当に一年以内に該当称号を手に入れないと、ログインユーザーは全員死んでしまう。だから」


「このアタシがログインすんのよ? ――クリアできないゲームなんか無いっての」



 最後に追い込みとして、最大速度にまでマシンを上げて、五分間全力で走るマリアとオレ。昔、大会でやり合う前にこうしてジムで一緒に汗を流した事を思い出す。


マシンを止め、共に汗を拭い、視線だけで「オレの方が早い」、「いいやアタシだね」と競い合う。



彼女は、マリア・フレデリック。現在は十七歳。


生粋のアメリカ人で、二年前にe-sports界へ彗星の如く現れた、美少女ゲーマーだ。


 今ではわからないけれど、当時ゲームの腕はオレと同程度だったものの、ジャンル問わず挑戦し、全てのジャンルで一定のスコアを叩き出す事から、マイナーゲームやレトロゲーの大会でも恐れられる、実力派だ。


彼女は超感覚を持つ天才型のシモネットさんとは違い、超やり込み派。


格ゲーならありとあらゆるコンボを全キャラ分習得し、ワンフレームのラグも見逃さない。


シューティングゲーも全ステージやり込んで当たり判定をバグも含めて頭に叩き込む。


やり込み要素の強いゲームはまるでデバッグをするように全ての壁に百回ぶつかる女だ。


現在は企業からスポンサー料を頂いたり、大会の賞金を得たり、後はゲームのプレイ動画を定期的に配信した広告収入などで生活をしている。


頭も良くてゲームの腕も確かな美少女だが――欠点は一つ。



人を寄せ付けない高圧的な態度だ。



しかしそれが彼女が魅力であり、彼女に罵って欲しいという熱狂的なファンが一定数いる。



「アタシは、アンタと決着を付けるまで、この仕事を辞めないと決めたんだ」


「オレみたいな男は忘れろよ。お前の腕は確かだ。今じゃお前の方が強いに決まってる」


「決着を付けるまでそれはわかんないじゃん。アンタはアタシがやり込んで、絶対に勝てると自信を持って挑んだゲームでも、必ずイーブンにまで持っていった。戦績は五百十二勝・五百十二敗のまま」


「あと三引き分けだな」


「FDPで、どっちが多くの称号を手に入れるか、勝負をしましょ。アタシとアンタで我武者羅に称号を手に入れていけば、該当称号なんてスグにゲットできる。――でしょ?」



 更衣室に向かうマリア。そしてオレも男子更衣室に併設されたシャワールームで汗を流して体を拭いた後、更衣室を後にする。


同タイミングで女子更衣室から出て来た彼女と隣り合わせになりながら、ジムを出て、その足でグレイズ・コーポレーション本社へと向かう。


表口のエントランスは未だマスコミが押し寄せている関係上、裏口のロックにカードキィをかざし、ドアを開け、エレベーターで社長室のある最上階まで上がる。



そこには、既に三人の先鋭がいた。

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