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密談-01

 松本絵里は今、彩斗とミサトが住む家の一室に用意されたソファに腰かけながら、用意された紅茶を飲む。


ため息と共に、彼女――彩斗の表情を観察し、自分がどんな事態に巻き込まれたのかもわかった。



「……つまり、海藤雄一は、今まで私らに連絡手段がありつつも、彩斗とミサトさんだけに連絡とってたってワケ」


「少し語弊があるな。連絡が取れるようになったのは、私達がリングを取得する少し前からだ。そして、プライベートな空間として、現在家を所有しているプレイヤーは私とミサトであり、さらに攻略組のトップであるのならば、彼の考えが間違いではないと分かるだろう?」


「……分かるけどさ、気に食わない……かな」



 普段のエリはふひ、ふひと笑いながら他人と視線を合わせぬ女性で、決してコミュニケーション能力が高いとは言えない女性だ。


しかし、それは自身よりも幼い子供や、彼女がリア充とするマリア、カーラと言った明るい面々を前にした時だけで、ツクモと一緒の時にはほとんどどもる事は無い。


本来ならば彩斗やミサトと相対する時もどもりそうなものだが――しかし、今は憤慨の方が強いからか、どもる事は無い。



「海藤雄一は、さ……正規ルートで連絡できない、状況で……何で、リッカ君へこの事を、伝えようとしないか……皆分かってるよね……?」


「彼らが子供だからだ」


「子供だから? ……つまりさ、海藤雄一は、あんだけ頑張ってくれてるリッカ君の事を、信じ切れてないって事でしょ……?」


「エリ氏、そこは自分も思いますわぁ。けど」


「けど? けどって何?


 あの子は自分の命も鑑みずに、リリナちゃんって女の子を、彼女を含めた二百人の命を救うために、自分の命すら捨ててこのゲームに挑もうとした。


 私らに頼む時だって、断られるって分かっていながら、それでも頭を下げてくれた。


 そんだけしてくれたあの子を信じてやれないっての? ふざけてるよ……っ」


「エリ氏」


「何さツクモさん」


「一旦、黙ってくれないか? 話が進まない」



 ツクモの目を隠す、サングラスの向こう側。


普段温和な彼がギロリとエリを睨み、彼女もため息と共に「久しぶりにツクモさんが普通に怒ってるの見た」と言いつつ「ごめん」と謝った。



「――自分も、海藤雄一のやる事に疑問が無いとは言わない。と言うより、疑問だらけだ」


「何が疑問と?」


「そもそも何故彼は、FDPの完成披露会及び先行プレイ会を止める事が出来なかった?」



 全員が押し黙る。


ツクモの言った言葉は、この場にいる全員が一度は考えていた事だったから。



「元々彼はFDPに起こっていた問題を知り得ていた。そして、それをグレイズ・コーポレーション代表の岩田に問題提起をしていた――ここはいい。だが問題はそこからだ。


 わざわざ総務省が使用するJアラートのシステムに介入して音声データを受信できる機器に送信したり、ラジオ、テレビ、ネット、SNS、5チャンネル……ありとあらゆる媒体に問題を発信できる状況を用意でき、更にはマザーコクーンへと出向き修正を行うまでに行動出来ているにも関わらず……何故先行プレイを止める事は出来なかった?」


「……経済産業省と総務省が今回のゲーム技術開発に関わっていると風の噂で聞いた。そこから未完成品だったとしても大々的に発表しろと横やりを入れた……とか?」



 彩斗の仮定に、ツクモは首を振る。



「勿論その噂は自分も知っている。だが、それでも止める方法はある。


 例えばマザーコクーンのデータを誰かがログインをする前に、修正を施すのではなく停止させる事も出来る。


 もしそれがエラーによって不可能だとしても、ひとまずは横やりが入る前に、このコクーン全機を物理的に破壊し、ログインが出来ない状況にすればよかった。


 人命を助ける、という事ならば、まずはログインできる状況を潰す事が何よりだったはずなのに、彼はそうしなかった」


「そうだね。元より経産省も総務省も人命に関わる事態と知っていれば、流石にそんな横槍を入れる事はしなかったろう」


「ツクモさん、それってつまり――海藤雄一は、何か企んでるって言いたいの?」


「分からない。もし何か企てていたとしても、自分達二百五名の命を軽んじている、というわけでは無いだろう。


 だが……もしかしたら彼は、FDPというゲームの危険性に気付きながらも、ゲームデータを破壊する事を良しとしなかった……という事は考えられる」



 海藤雄一はFDPというゲームが持つ、一度ログインしてしまえばログアウト不可能と言う危険性自体を認識した後、このエラーを解消するまで、一般の人間が触れる事の出来ないよう、岩田岩治へと問題提訴を行った。


だが岩田や、彼のバックにいると思われる経済産業省や総務省は、ちょっとしたエラーであればそのままデバッグを行いつつリリースする事を命じたと考えられる。


確かにこの時点では、海藤雄一には特に非は無い。そうして事態を特と把握する事なく、問題を問題と認識していない者達からの命令に逆らう事が出来なかった事は、一会社員としてはあり得る事であろう。



問題はそこからだ。



危険性を更に提起する事は出来た筈だ。


そしてその上で尚、リリースを命じられれば、リリースに必要な機材を停止させる事だって、コクーンを破壊する事で遅れさせることもできた筈。


それこそ、問題が起こる前に世間へ事実を公表して、FDPというゲームの危険性を伝える事だって出来ただろう。

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