世界の母ー07
可能な限りの準備も整え、身体もしっかりと休ませた上で――オレとカーラさんは、観衆としてマリアや先輩、ツクモとエリ、彩斗とミサトさんが付いてきた上で、アルゴーラからミュージアムに向かう場所にある、森林地帯へと出向く。
以前来た時もそうだけど、例のシン・ミライガはどうやら地中で眠る習性があるらしい。通常のミライガがどうかは分からないが、今回も近づくと隆起する地面を割って現れる、その巨体を目の当たりにする。
八十メートル弱の巨体が持つ威圧感と、こちらを明らかに敵と認識している目線に、オレ達は思わず圧倒される。
今は後ろで見ている六人も、オレ達と同じ感覚を持っているだろう。
ただメイド曰く、オレ達が皆に救援を求めたり、皆がペナルティ覚悟で攻撃でも仕掛けない限り、皆が攻撃に巻き込まれる事は無いという。
リングを構えたオレと、スティックと共にリングを装備したカーラさんが、戦いを前にして口を開く。
「リッカ。この形容しがたい感情を言葉として表す為に、今は日本語じゃなくて、母国語で話させて下さい」
「どうぞ」
「私、このFDPでやりたい事が二つあります。一つは勿論、このFDPを攻略する事です」
「そうですね。それが何より最重要事項だ」
「もう一つが――この世界に、私の料理を食べたいという人が一人でもいるのならば、その方々に沢山の『美味しい』という気持ちを与えてあげたい。それが、今私のやりたい、もう一つの事です」
「良い事だ。それでこそカーラさんだと思うよ」
「怒りませんか?」
「怒る筈が無い。――カーラさん、オレがゲーマー引退する時、カーラさんは何て言って泣いてくれたか、覚えてますか?」
「……なんでしたっけ」
「『アナタがシンじたミチをイキなさい。リッカ』――ですよ」
オレの言葉に。
カーラさんは一度目を閉じた上で、しかしその表情を笑みへと変えて、顔を上げて目を開くと、叫ぶのだ。
「OK! ワタシも、ワタシがシンじたミチをイキますッ!」
オレとカーラさんは、互いに同じアイコンを手にし、それをリングへとかざした。
〈Progressive・ON〉
〈Progressive・ON〉
同時に奏でられる機械音声と共に、二人してアイコンを空高く放り投げると、オレは右腕を天へと掲げ、カーラさんは両腕を広げて――声を張り上げる。
「プログレッシブ、オンッ!」
「Progressive.ONッ!」
オレの全身を包んでいく氷結のアイコン。それは全身を白ではなく銀色と水色の入り混じった色合いの装甲となり、全身を包んで水蒸気を噴出させるが、それはすぐに凍って、地へ落ちる。
カーラさんの両腕、両足、そして彼女の周囲をプレートの様な物が数多く浮き、それらが展開され終わると、二人分の機械音声が続いた。
〈Progressive frozen Active.〉
〈Progressive Recite Magically.〉
オレ達は互いに――プログレッシブ・フリーズへと変身を成した事で、駆け出す。
カーラさんが一歩前に出ながら、スティックを振りつつメニュー画面を見ずに行動を開始。
すぐに【鼓舞】によってオレの自己攻撃力を向上させるバフを発生させたばかりか【暗闇】でシン・ミライガの視界を覆うようにする。
すると、敵は目を細めるようにしながらオレへの攻撃を行ってくるも、ただブンと振るわれた手より放たれた風圧に気を付けるだけで、その腕に当たることなどない。
地面を蹴りつけ、今振るわれてがら空きになった腕に一瞬だけ足を乗せた後、再び蹴って顔面へ近づく。
視界情報が少ないからか、オレへ叫んで風圧で吹き飛ばす事も無ければ、口を開いて捕食するような動きも見受けられない。
腕を引き、腰を捻って放つ一撃。
プログレッシブ・フレイムの時とは違い、一撃自体に大した威力は無いけれど、このプログレッシブ・フリーズの時に放つ一撃は、冷却効果のある肉質軟化効果を持つ!
『カーラさんっ!』
「YES!」
カーラさんがスティックを空高く放り投げ、それが落ちてくるまでの三秒間。
眼前へ三つ現れたプレートをそれぞれタッチしながら、カーラさんの背後に浮いているプレートより放たれる、冷気のビーム。
それが先ほどオレが殴りつけ肉質を軟化させたミライガの顔面へ直撃すると、奴は絶叫しつつ、それを躱すように移動を開始。
だが、既にオレもカーラさんも動いている。
オレは視界が覆われている内に鱗を掴んでいて、動き出したタイミングに合わせて背部スラスターを稼働、その胸部へ右脚部と左脚部を一打ずつ叩き込み、肉質軟化を行うと、カーラさんは落ちて来たスティックを振って軟化した部位にアイスレイジを正確に落としてさらに防御デバフと行動力低下を起こすと同時に、プレート操作も怠らずに行って、ビームを撃ち込む。
その手腕には、彩斗もミサトさんも、エリでさえ唸っていた。