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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
1部

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【大蜘蛛】3

 大きな蜘蛛が僕目掛けて襲いかかってくる。今の僕は丸腰だ。蜘蛛の攻撃を防ぐ手段も、反撃する武器もない。

 だがひとつだけ、方法がないわけじゃない……。

 魂喰蝶との戦いの時に使った数珠の力。今それが使えれば、勝機もある。


「……ッ」


 僕は左腕で右手首を押さえた。落ち着け、焦るな。呼吸を乱すな。僕ならできる。

 意識を集中させて、数珠の中に眠る妖を呼び覚ますんだ。

 大蜘蛛はすぐ目の前まで迫ってきている。集中しろ、集中しろ……!


「グモー!」


 大蜘蛛は猛スピードで突っ込んできている。

 このままじゃ、間に合わない。ハク先輩を助けられないと雑念が邪魔をする。額がヒリヒリと熱くなり、呼吸が乱れて体に力が入ってしまう。最悪のビジョンしか見えない。それでも……。


「僕が、守るんだよッ……!」


 大蜘蛛が足を振り上げる瞬間、数珠が鈍く輝き始めた。

 その時だ。


「やめなさいッ!!」


 突如、凛とした声が蔵の中に響く。

 今まさに僕に襲いかかろうとしていた蜘蛛の動きが止まった。暗がりの入口から、ゆっくりと足音が聞こえる。

 地面に転がったままの懐中電灯が照らしたその姿は、ハク先輩だった。


「あなたがこれ以上楓くんを傷つけたら、私……本当に怒るわよ!」


 いつもの、ほんわかとした様子のハク先輩はそこには居ない。ハク先輩は躊躇うことなく、まっすぐに蜘蛛へと歩み寄ってくる。

 蜘蛛は、なぜか狼狽えるように身を縮こませて僕の傍から後退し始めた。


「ぐ、グモ……」

「もう楓くんを襲ったりしないって約束して?」


 ハク先輩は蜘蛛を見下ろして問いかける。それは命令のようにも、お願いのようにも聞こえた。

 蜘蛛は頷くように体を震わせ、怯えた様子で後ずさると明らかにしょんぼりして蔵の隅に縮こまる。

 どうやら、もう危害は加えてこないようだ……。


「せん、ぱい……」


 体の力が抜けて、僕の体はその場に崩れ落ちてしまう。ハク先輩は僕に気づいてすぐに振り返った。

 小走りに僕の元まで駆け寄ったハク先輩は、中途半端に上体を起こしたままの僕を慌てた様子で抱き上げる。


「楓くん、大丈夫……?」


 ハク先輩のしなやかな指が僕の額に張り付いた髪を払う。


「あの蜘蛛、は……?」

「そこにいるわ」


 ハク先輩の言う通りに視線を追うと、蔵の隅で縮こまっている蜘蛛がいる。僕と目が合うと前足で頭を抱えるような仕草をした。


「多分、楓くんが箒で蜘蛛の巣を壊してたのが気に入らなかったのかも。それで怒っちゃったんだわ」


 ハク先輩が蜘蛛に優しく話しかける。


「そうか、僕が原因でお前を怒らせたんだな……ごめん」


 蜘蛛は、チラッと僕を見た様子だったけど、すぐに蔵の隅で糸を吐き始めた。


「立てる?」

「……だ、大丈夫です。いてて……」


 苦笑しながら体を起こそうとすると、不意に僕の体が抱き寄せられた。


「もう、あんな無茶しないで」


 柔らかなハク先輩の匂いが傍にある。ハク先輩は、たしなめるように言うとゆっくり顔を離して僕の頬を軽くハンカチで拭った。

 でもね、と言ってハク先輩が微笑む。


「楓くん、とってもかっこよかった」


 ハク先輩の言葉を耳にするなり顔が熱くなるのを感じて、僕は思わず目を逸らしてしまう。


「な、何ですか、それ……」


 僕はかっこよくなんかない。

 ハク先輩が助けてくれなければ僕は今頃あの蜘蛛にやられていた。

 僕は何も出来てないじゃないか。


「か、かっこよくなんか……」


 ぼそぼそと呟く僕の後ろから、ふと小さな声が聞こえた。


「おにーちゃんかくれんぼー?」


 いつの間にか扉が開いていたらしい。冥鬼は不思議そうに僕を見下ろしている。しかし、すぐに僕が擦り傷だらけであることに気づくと驚いてしゃがみ込んだ。


「わあっ! だいじょーぶっ? またネコちゃんになおしてもらう?」


 冥鬼の提案に、ハク先輩が不思議そうに首を傾げた。


「ゴウ先輩に、以前怪我を治してもらったことがあったんですよ。僕の札を使って……」

「ゴウくんが?」


 ハク先輩は不思議そうに首を傾げると、少し考え込むように黙ってしまった。その神妙そうな顔つきに、僕と冥鬼は何となく顔を見合わせる。


「……あのね」


 何となく言いづらそうに、そしておずおずとハク先輩が口を開こうとした時だった。


「あんたたち、いつまでそんな埃っぽいところに居るつもりよ」


 椿女が扉に手をかけたまま問いかけてくる。埃まみれの僕と目が合うとわざとらしく肩を竦めた。こ、こいつ……絶対蜘蛛が居ることを知ってただろ……。

 ハク先輩の手を借りて体を起こした僕は、蔵の隅で小さくなっている蜘蛛にもう一度『ごめん』と告げるのだった。

 そんな僕たちを見て椿女が扉の外を指す。


「どうでもいいけど、お客さんたちぞろぞろ来てるわよ。騒がしくなるわね」

「お客さんたち?」


 首を傾げる僕に、ハク先輩が『あっ』と小さな声を上げた。

 も、もしかして……?

 僕の想像通り、居間には見知ったメンバーが揃っていたのだ。


 これは確かに、騒がしくなりそうだ……。

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