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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
1部

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【大蜘蛛】1

 大きな音を立てて扉が閉まった。僕は大蜘蛛に光を当てたまま後ずさるけれど、大蜘蛛は前足をカツカツと鳴らしながら僕に近づいてくる。

 この大きさ、妖怪以外の何者でもない。というか、何だって家の蔵の中に妖怪が居るんだ!? 蔵は密室だったし、入り込める隙間なんかない。

 いや、むしろ……。

 この蜘蛛は最初から蔵に居た……?

 元々鬼道家の蔵に居るなら、悪い妖怪じゃないのかもしれない。また親父の友達って可能性もあるし……。


「こ、こんにちは……」

「グモ……」


 遠慮がちに声をかけてみると、蜘蛛が呻き声を上げた。どうやら話は通じるみたいだ。

 僕は少しホッとして蜘蛛へと歩み寄る。


「き、君はここで何をしてるんだ?」

「グ……」


 蜘蛛は僅かに後ずさるそぶりを見せた。僕は害がないことを証明するように軽く手を上げてみせる。


「ぼ、僕は鬼道楓──陰陽師だ。この蔵は鬼道家の蔵で……驚かせたらごめん」


 普段作らない笑顔でぎこちなく蜘蛛に話しかけると、目の前の大蜘蛛は少し考えるようなそぶりを見せた。

 そうだ、僕たちは君の敵じゃないからな。僕は小さく、だけど力強く頷きを返す。


「グモ──!」

「楓くん、逃げてっ!」


 蜘蛛が突然、唸り声を上げて襲いかかってくるのとハク先輩が叫ぶのはほぼ同時だった。

 僕は、口を開けて噛み付こうとしてきた蜘蛛に驚いて後退した弾みで、書物に背中をぶつけてしまう。

 高く積み上がった書物が埃を撒き散らしながら倒れる音がしたけど、今はそんなことを気にしている場合じゃなかった。


「げほッ──ハク先輩ッ……と、扉のほうにッ……」


 行ってください、と避難を促す僕に遅れてハク先輩が入口に駆け寄る。

 同時に大蜘蛛が口から白い糸を吐き出した。

 その糸は僕の体をすり抜けてまっすぐに蔵の扉に絡みつく。まるでここから出さないぞとでも言うように。


「か、楓くん……扉が開かないっ!」


 僕は後ずさりながらとっさにズボンのポケットに手を伸ばすけど、そこでとんでもないことに気づいた。

 御札を持ってきていないんだ。

 そりゃそうだ。よりにもよって自分の家の中で敵が出るなんて思わない。ちょっと蔵を覗くためだけに御札を持ち歩くわけがない!


「馬鹿野郎ッ……」


 僕は自分の不甲斐なさに舌打ちをすると、手に持ったままの竹箒を構える。

 大蜘蛛は倒れた本の上をゆっくりと歩きながら確実に僕たちへと近づいていた。


「来るな……僕達は君と戦うつもりじゃない」

「グモッ!」


 箒を構えながら訴えてみるけど、大蜘蛛は興奮した様子で竹箒に向かって糸を吐き出した。

 まるでワイヤーのように強力なその糸は、竹箒の刷毛部分を音を立てていとも簡単にへし折る。


「う、嘘だろ……」


 さすがにこんなの笑うしかない。

 僕は、棒切れとなった箒を構えながらも蔵の中をぐるりと回った。

 ハク先輩に狙いが向かないように、そしてこの危機的状況から抜け出す方法を、何か──!


「か、楓くんの家に電話をかけて助けを呼ぶわ。メイちゃんが居れば蔵も開けられるもんね?」

「ありがとうございます、ハク先輩!」


 慌ててポーチから携帯電話を取り出したハク先輩の言葉に、僕は少しでも時間を稼ぐべく地面を木の棒で叩いた。

 蜘蛛が音につられて僕の後を追いかけてくる。そうだ、来い。そしてハク先輩から注意が逸れればいい。

 冥鬼が来ればこの蜘蛛を退治することもたやすいだろう。完全に勝利を確信した僕に、ハク先輩が泣きそうな声で叫ぶ。


「楓くんっ……誰も出ないのっ!」

「何、だとッ……」


 以前、病院で検査入院をすることになった時もそうだったけど、どうしてうちの家族は誰も電話に出ないんだ!?


「グモォ!」


 蜘蛛が前足を振り上げて襲いかかってくる。

 僕は懐中電灯で蜘蛛を照らしながらその攻撃をギリギリかわした。

 前足には鋭くて太い爪が見える。あんな爪で切り裂かれたら間違いなく大怪我じゃ済まないぞ……。


「くそ、何か武器になるような物は……」


 僕は蜘蛛を懐中電灯の光で照らしながら周囲を見回す。

 けど、武器になるようなものなんてどこにもない。蔵の中には書物が積み上げられているばかりで、剣とか呪具だとか、そういったものは何も無かった。

 蜘蛛は完全にターゲットを僕に絞って、ゆっくりと確実に距離を詰めてくる──。

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