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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
1部

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【夏休み】4★

 ハク先輩の衝撃的な宣言が頭に入ってこなかった僕の腹に、椿女の容赦ない一撃がめり込む。


「というわけだから、今日は三人分多めにご飯を作ってちょうだい。ミズチに作らせるんじゃないわよ。料理、上手なんでしょう? ああ楽しみ」

「うぐっ……」


 思わず椿女の前で膝をつく。

 僕は殴られた腹を押さえながらハク先輩とさゆを招いた。


「楓くんの家、外から見ても大きかったけど中もすっごく広いのね」

「ふ、はは……掃除が大変なだけですよ」


 我ながら気持ち悪い笑い顔になってしまった……。ハク先輩は気にした様子もなく、掃除したばかりの部屋を珍しそうに眺めている。さゆも、落ち着かなさそうにそわそわしながらハク先輩の後ろを小走りで続く。


「さゆ、足元に気をつけて」

「う、うん……!」


 さゆは、びっくりした顔で僕を見ると、恥ずかしそうにハク先輩の後ろに隠れてしまう。そんなさゆを見て、ハク先輩が優しく微笑んだ。きっとハク先輩も僕と同じ感想を抱いているに違いない。

 小動物みたいでかわいい……と。


「ねえ楓くん、あの部屋は?」

「は、母の部屋です。僕が小さい頃に亡くなったので全然覚えてないんですが」


 さっき慌てて掃除機を片付けたせいで、母さんの部屋の襖が半開きになっていたのを忘れてた……。ハク先輩は少し考えるように歩みを止めると、僕の表情を窺うように尋ねた。


「ご挨拶、してもいい?」

「ありがとうございます、母も喜びます」


 もちろん、断る理由なんかない。僕は襖を開けて二人を部屋に通した。その後ろから椿女が近づいてくる。


「何だよ」


 てっきり親父か日熊先生と一緒に居るものだと思ってた。椿女は僕を一瞥して不快そうに鼻を鳴らすのだった。


「あんたこそ何よ。私は線香をあげにきただけ」


 そう言って母さんの部屋へと入っていく。

 ハク先輩とさゆが母さんへの挨拶を済ませて玄関へと自分たちの荷物を取りに行く中、椿女は両手をしっかり合わせたまま固く目を瞑っていた。

 黙ってれば綺麗なんだよな……なんて、こんなこと考えてたらまた殴られるぞ。僕はそっと椿女から視線を逸らした。


「何であんたみたいないい子が早死にしちゃったのかしらね」


挿絵(By みてみん)


 ふと、椿女が静かに呟いたのだ。その声は、普段の強気な椿女の声とは違っていて、優しくて、それでいて酷く寂しそうだった。


「……母さんのこと、知ってるのか?」

「知ってるわよ、この子も柊と同じで東妖高校出身だからね……ふふ、これあんた? かわいいじゃない」


 椿女は写真立てを取って、そこに写っている家族写真を微笑ましそうに見つめた。そんな椿女が、ふと不思議そうに首を傾げる。


「ねえ、あんたの隣に居るこの子って……」

「か、母さんのことっ……教えてくれ! どんな人だった?」


 僕は思わず声を上げて椿女の小さな手を掴んでいた。椿女はキョトンとした顔をしていたけれど、すぐに頬を膨らませてぷるぷると体を震わせる。

 すぐさま椿女の袖から伸びてきた枝の鞭によって手と頭を引っぱたかれて畳の上に倒された。


「気安く乙女の柔肌に触るなんて、やっぱり鬼道の血筋ね! ケダモノ陰陽師! 詫びて頭を垂れなさいっ!」


 ひゅんひゅんと音がして枝の鞭が僕の尻を叩く。い、痛い。しかもいつもより威力が強いような……。


「楓くーん! 荷物、どこに置けばいい?」


 椿女に罵られながらうずくまっている僕の元にハク先輩が戻ってくる。驚いたように目を丸くしているハク先輩を心配させないように、僕は力なく上体を起こすと、震える指で『この部屋で良いですよ』とジェスチャーをするのだった。

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