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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
1部

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【蛇の恩返し】2

「ううん……」

「あっ、おにーちゃんおきた!」


 頭上から聞きなれた声が聞こえる。

 ゆっくり瞼を開けると、そこには頭の上にカエルを乗せた冥鬼が嬉しそうな顔で僕を覗き込んでいた。


「こ、こは……?」


 ぼんやりと辺りを見回す。ここは何の変哲もない僕の部屋だ。

 僕の体はいつの間にかパジャマに変わっていて、布団のなかで眠っていたようだ。外はすっかり明るくなっていた。


「……おにーちゃん、だいじょうぶ?」


 ぼうっとしている僕を、冥鬼が心配そうに見つめてくる。


「え、っと……」

「お目覚めですか?」


 状況が飲み込めていない僕が言い淀んでいると、ふと部屋の入り口から声が聞こえた。

 それはボブヘアーの銀髪に赤い瞳をした美しい女性だった。一見冷たそうに見えるその眼差しは優しく細められていて、何故か僕が愛用しているエプロンを着ている。


「あの……あなたは?」

「おにーちゃん、がっこーちこくしちゃうよぉ」


 冥鬼の無邪気な声で、僕は慌てて目覚まし時計に齧り付く。時刻は何と、既に僕が朝飯の支度をしていてもおかしくない時間だ。


「まずいっ!」


 慌てて布団から這い出したぼくはすぐさま服を脱いでハンガーにかけられた学校指定の半袖シャツを取る。

 まるで新品同様にアイロンがけをされていて、ピカピカだ。プールの中で泥まみれになってあんなに汚したのに……。


「そ、そうだ……葵は、みんなはどうなったんだ?」


 僕が問いかけると、冥鬼はキョトンとした顔で頭の上のカエルと一緒に首を傾げる。


「順を追って説明いたします……まずは朝ごはんにしましょう。さあ、冥鬼様も……」


 銀髪の美女が人の良さそうな顔で笑うと、冥鬼はすぐにはしゃいだ様子で部屋を出ていった。


「な、何なんだ……」


 得体の知れない美女に圧倒されっぱなしの僕はしばらくその場に立ち尽くしていたが、すぐに制服に着替えてから部屋を出た。


 居間には既に食事が並んでいて、親父や魔鬼も揃っている。


「よお楓、おはよ。うまいぞこれ」

「お、親父……何馴染んでるんだよ」


 卵焼きを食べながら僕に声をかけてくる親父のあっけらかんとした口ぶりに、僕は呆れながらテーブルの上の食事を見つめる。

 見事に和食で統一されたその料理は栄養バランスを考えられており、煮物や漬物、そして味噌汁に焼き魚、ほかほかの白米が人数分揃えられていた。


「お気に召しませんでしたか?」


 銀髪の美女が少し寂しそうに眉を下げる。


「いや、すごいと思いますけど……」

「おかわりー!」


 冥鬼が元気よく空になった茶碗を差し出すと、銀髪の美女は甲斐甲斐しく茶碗を受け取って新しく白米をよそい始めた。


「こ……この魚も煮物も、冷蔵庫に入ってなかったですよね? どこで買ったんですか……」


 こわごわと問いかける。まさか勝手に生活費を使って買い物をしたんじゃ……と思ったが、美女は少し考えたあとににっこり笑った。


「今朝、近所の親切な方から譲り受けました。作りすぎて余ってしまった漬物もいただいたのですが……」

「メイ、つけものだーいすき!」


 冥鬼が無邪気にキュウリの漬物を頬張っている。

 足元で焼き魚を食べていた魔鬼が顔を上げた。


「まあ座れ、楓。混乱しているのは分かる」

「当たり前だ。だいたいこの人は誰だよ?」


 僕が小声で問いかけながら銀髪の美女を指す。魔鬼は、ペロッと自分の口の周りを舐めた。


「今日からおぬしの下僕になるそうだ」

「はあ?」


 思わず声を上げて問い返してしまう。すると銀髪の美女は静かにテーブルへ茶碗を置いた。


「昨夜のことを、覚えておられますか?」

「あ、えっと……確か蛟と戦って、それで……突然水が入ってきて、僕達は溺れそうになったんだよな」


 昨夜の出来事を思い出しながら、僕は銀髪の美女から目をそらす。


「その時、儂が生まれたのです。正確的には強制的に──ですけれど」


 そう言って姿勢を正した女性は、おもむろに三つ指をつく。たぷっと音を立てそうなくらい大きな胸の谷間がチラリと見えた。


「改めて自己紹介を。儂の名は八重──白蛇の八重花(やえか)と申します」


 ああ、なるほど。昨日の白蛇……。そういえば、蛇は千年生きると龍になるとかって椿女が言ってたっけ。


「もしかして、あなたが僕達を助けてくれたのか?」

「間一髪──ではありましたが」


 八重花は小さく頷いて、自分の神通力で僕たちを助けたと説明した。その後、椿女に鬼道家の場所を聞いて一緒に帰ってきたそうだ。


「葵と伊南さんは無事なのか?」

「問題ありません。念の為、家に送り届けました」


 彼女の気遣いに感謝をして礼を述べる僕に、八重花は少しだけ微笑んだ。けれどすぐに表情を変えて、まっすぐに僕を見つめる。


「改めて主様にお願いがございます。儂を、貴方様の下僕にしてください」

「し、下僕?」


 狼狽える僕とは逆に、八重花は真剣な表情だ。まさに蛇に睨まれたカエルの気持ちで、僕は思わず視線を逸らしてしまう。


「ぼ、僕は別に下僕なんか……」

「いいじゃねえか、オレが現役の時は家中妖怪だらけだったぜ」

「おぬしはすぐ妖怪を家に招いておったからな」

「どんな家だよ……」


 勝手なことを言う親父に突っ込みながら僕は後ずさるけれど、僕が一歩下がるたびに八重花が距離を詰めてくる。


「それに、龍の下僕なんてかっこいいじゃねか……龍はな、神通力を持ってるんだ。メイちゃんには無いモンだろ?」

「なーい!」


 冥鬼が口の周りにご飯粒を付けて嬉しそうに返事をする。

 その会話を眺めていた八重花は、大きく開いた胸元を強調するように身を乗り出してきた。八重花はタイトなミニスカートを履いていて、なかなか……その高校生男子には刺激が強い。


「八重花さん、こんなバカ息子の下僕なんかやめてオレの下僕になっちゃくれませんか」

「息子の前でナンパをするな」


 すかさず八重花の手を取った親父を魔鬼が引っかいた。痛みで顔面を押さえている自業自得な親父を尻目に、魔鬼はゆっくりとしっぽを振りながら僕を見上げる。


「楓、八重花の申し出を受け入れたらどうだ? 彼女の能力は姫とは別格のもの。姫が常夜の国のトップだとすれば、八重花は人間の世界のトップ……」

「とっぷなど滅相もありません……! この世界にはまだまだ偉大なお方がおられます」


 八重花はそう言うとたおやかに三つ指をついて僕を見つめた。


「主様、儂が安心して眠れる場所はもうありません。どうか……どうか、お傍に置いて欲しいのです」


 今にも泣きそうな顔をして、八重花が僕を見つめている。そんな顔されなくても、僕の答えはもう昨夜の時点で決まっていた。


「い、いいけど……下僕にはしないぞ」

「なんと!? ならば奴隷でしょうか?」

「なんだよそれ……そうじゃなくて」


 僕は長いため息をついて、おずおずと八重花に視線を合わせる。八重花は、不安そうな眼差しで僕の返事を待っていた。……タイトスカートからチラチラと覗くふとももが非常に目に毒だ。


「あ、新しい家族として、八重花を迎えたい」

「主様!」


 八重花は目をうるうるさせながら僕に抱きついた。当たってる! 胸が! ふかふかとした胸が!


「やえちゃん! おにーちゃんにぎゅーしちゃだめ!」

「あんっ!? 申し訳ございませんっ! お許しをっ!」


 冥鬼の一声と共にカエルのハルが飛びかかる。ハルが飛びついたのはその豊満な胸の谷間だ。羨まし……くなんかないぞ。

 八重花は慌てて僕から離れると、みるみるうちに小さな白蛇の姿になってしまった。


「あ、主様ぁ! お助けを……!」


 白蛇が情けない声を上げて僕の足の上でジタバタと暴れている。


「ふむ……まだ龍の力は完全ではなさそうだな」


 魔鬼の言葉通り、八重花がハルに飛びつかれた途端、彼女の妖気は大きく乱れて人の姿を保っていることができなくなったようだ。

 僕としては常時こっちの姿のほうが精神衛生上安心するんだが……。


「そう言えば、豆狸はどうしたんだ? 最近姿が見えないけど」


 煮物をつつきながら尋ねると、味噌汁をかきこみながら親父が答える。


「大五郎なら免許合宿してんぞ」

「免許……合宿!?」

「今どき車の免許もない中年男はダサいし臭いって後輩に煽られたんだとよ」

「そ、そうなのか……」


 その後輩が誰なのか、何となく想像がつく……たぶんあの人だよな……。


「おにーちゃん、やえちゃんのたまごやきおいしーよ!」


 すっかり朝食を忘れていた僕に、冥鬼がにこっと笑いかける。

 僕は冥鬼の頭を軽く撫でると、久しぶりにのんびりとした朝食を楽しんだ。


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