【転校生と青蛙】4
「ぼ、僕の母さんと同じ名前だ……」
僕は目を丸くしてぽつりと呟いた。
すると、雨福さんは運転中にも関わらず勢いよく僕に振り返る。
肩に乗ったままのカエルがずるりと滑り落ちた。
「ケロケロ〜ッ!?」
「雨福さん、前! 前! つーか守り神様落ちたし!」
葵に注意された雨福さんが慌てて視線を戻す。
バックミラー越しに、雨福さんが何度も僕を見ている。
「えっと、えっと、確認のために聞くアルけど……キミのお父さんの名前ってもしかして、鬼道柊……」
「そうです」
「ほあちゃあ!? 本当アルカ!? キミ、柊の息子!?」
そう告げると雨福さんはまたもや僕に振り返った。再度カエルがしがみついていられずにずり落ちるが、そこかすかさず葵が手で受け止めた。
「スゲー偶然もあるよなぁ、雨福さんと楓の親父さんが友達だったなんてさ」
「そうだな……」
僕はそう言いながら、バックミラーから僕を見つめている雨福さんの視線を受け止める。
親父のことを知っていて、霊獣である青蛙神を飼っているこの男性……おそらく彼も普通の人間じゃないはずだ。
彼から敵意は感じないし、むしろ友好的だけど……。
(あなたは何者だ?)
何か言いたそうに僕を見つめている雨福さんに、僕も視線で問い返す。
「楓ぇ、何黙ってんだよっ!お前もプール行くだろ?」
「……え、いつの間に僕も行くことになったんだよ」
突然葵にどつかれた僕は、少し狼狽えて葵を見返す。
助手席に座っていた伊南さんが振り返って笑った。
「別に葵はついてこなくていいけどね、あんた泳げないし」
「そ、それは中学の時の話だし!」
葵が僕を押しのけるようにして助手席の伊南さんに文句を言った。
後部座席の隅で小さくなっていた水流さんがおずおずと声を上げる。
「二人とも、同じ中学だったの……?」
「中学どころじゃねーよ。保育園から高校までずっとコイツと一緒。親同士が仲良くてさあ」
葵は大袈裟にため息をついてみせる。
「ウチに来て良かったアルネ。夜になるとこの辺りは真っ暗アル」
「本当だ……住宅街なのに家の明かりもないし」
「この近辺は年寄りしか居ないアル。すぐに寝ちゃうからあっという間に暗くなってしまうアル」
雨福さんはそう言って安全運転で車を走らせた。
肩に乗ったままのカエルは大人しくちょこんとしながら大きな瞳をキョロキョロさせている。
僕はそのカエルを見つめたまま、賑やかにお喋りしている伊南さんと葵の話を聞いていた。




