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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
1部

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【転校生と青蛙】2

 ムシムシとした湿気と照りつける日差しに体力を奪われながら、片道にだけ日陰のある坂道を歩く。

 と言うのも、広々とした民家の庭に大きな木がいくつも生えており、それが日陰の役割を果たしてくれていたんだ。今の僕たちには、それが砂漠の中のオアシスのように感じられた。


「はあー、涼しいー。店に着くまで自販機ねーかな?」

「たぶんあるんじゃない? ほら、そこ。あたしコーラね」


 葵の嘆きに伊南さんが前方を指すと、坂を登り切った先に薄汚れた自販機が見えた。


「よっし! コーラ二つ! 楓と水流さんはどうする?」


 いますぐ駆け出しそうな葵に、僕は水流さんを横目でチラッと見た。


「わたし……お茶、がいいです」

「じゃあ僕は水」

「そこはお前もお茶にしろよォ!」


 葵は文句を言いながら日陰から抜けるように駆け出すと、古びた自販機の前に駆け寄って次々とペットボトルを抱えて戻ってきた。


「ほら! コーラとお茶と水な。それぞれ百五十円だぞ」

「ん、ご苦労」


 伊南さんが、コーラを受け取ると同時に小銭を葵に手渡す。

 僕もポケットに手を突っ込んで財布を取り出したのだが……。


「……ごめん葵。9850円の差額くれ」

「万札で返すな万札で」


 細かい金を持ち合わせていなかった僕は、万札を取り出しかけてあっさりと葵に断られる。まあ当然だろう。


「あ、の……私、楓くんの分も……払う、から」


 こわごわとした様子で声をかけてきた水流さんが二人分のジュース代、三百円を有無を言わさず葵へと差し出す。

 三百円を受け取った葵は、何やら伊南さんと顔を見合わせてニヤニヤしながら僕の脇腹をつついた。


「楓ぇ〜、お前水流さんに感謝しろよ〜?」

「な、何だよ……お前に言われなくても──ごめん水流さん。後でちゃんと払うから」


 僕が水流さんに感謝を述べる横で、まだ二人はニヤニヤ笑っている。

 水流さんは、恥ずかしそうに小さく頷くとペットボトルのお茶をゆっくり飲んだ。


「ふぅ……」


 水流さんがホッとした様子で心地よさそうな息を漏らす。よほど喉がかわいていたんだろう。

 僕も、水流さんが払ってくれたことに感謝をしつつペットボトルのキャップを開けると、一気に中の液体を口に流し込んだ。


「……ぬるい」

「うげー、俺のもぬるいコーラになってる。今日は馬鹿みたいにあちーもんなあ……早く店に行って水着買おうぜぇ?」


 葵は心底うんざりしたような表情を浮かべて

ペットボトルを持ったまま、再度伊南さんの手の中のチラシを覗き込んだ。どうやらチラシには地図が載っているらしい。


「んーと、そろそろだな……」


 彼の呟き通り、住宅街を抜けた先にその店はあった。

 今にも潰れそうな個人経営の店って感じだ。

 店内には冷房が効いていて、しばらく涼みたい気持ちにさせられる。店内に設置された大きな水槽もまた、外の暑さを忘れさせてくれるような涼しいクリアブルーの飾り石が敷き詰められていた。


「わあ、水着がたくさんあるじゃん! 海で着る用の水着も買っちゃおうかなー」


 伊南さんははしゃいだ様子で店内に飾られた水着を眺め始めた。

 僕たち男子が女子の水着を眺めても仕方が無いので、僕と葵は二人で男用の水着を物色する。


「水着なんてさあ、中学の時ので十分だと思わねえ?」

「うーん……僕は中学まで学校のプールには入ってなかったからな……」


 水着のサイズと柄を交互に見ながら答えると、葵が不思議そうに振り返ってきた。


「え、何で?」

「髪を切らないとプールには入れないって先生に言われて、中学時代はずっと草むしりかグラウンド走ってた」

「あははは! どんだけ切りたくなかったんだよ! 女子か!」


 葵は笑いながら、すぐに学生用の水着を漁り始める。他のみんながどんな水着を着てくるのか分からないが……学校の授業で使うものだからあまり派手なものは良くないはずだ。なるべく地味なものがいいよな。

 かと言って、初めての水着選びだからもう少し悩んでおくのも悪くない……。

 ああ、このマネキンが着ている両サイドにラインの入った水着も良いな。値段はいくらだろう? ちょっと脱がせて調べるか──。


「ちょっとちょっとお客さん、ボクは売り物じゃないアルヨ」


 ふと、頭上から声が聞こえて顔を上げるとそこにはやけに色白ででっぷりとした水着姿のおじさんが立っていた。


「えっ……?」


 僕がマネキンだと思って水着のゴムを軽く引っ張っていたものは……目の前の男──つまりおじさんだった。


「ぎゃわあああ!?」


 僕よりも先に葵が間抜けな悲鳴を上げる。


「いきなり叫ぶな馬鹿、静かにしなさっ……デカッ!」


 葵を叱りつけた伊南さんもまたびっくりして目を丸くしている。当然、水流さんもそうだった。


「す、すみませんでした……」

「いやあ、ボクもお客さんが居るなんて気づかなくてうたたねしちゃってたから気にしないでほしいアル」


 おじさんは白くて太い腕を大きく振って人の良さそうな笑顔を浮かべる。


「水着をお探しカ? ならぜひボクの店、カエルラでお気に入りの一枚を見つけて欲しいアルヨ!」


 両腕を広げたおじさんは、そう言って床に落ちていた名札を拾うと腰のゴム部分に装着した。

 名札には、【カエルラ店長 青野雨福(あおのあめふく)】と手書きで書いてある。


「じゃあ早速だけど店長、学校の授業で着る水着で……かわいいものって無いですか?できたらセパレートタイプがいいな」

「ふむふむ、かわいい水着アルね。それならこっちのほうに〜……」


 店長は、大きな体を左右に揺らしながら水着の海をかき分けて女性用水着売り場へと向かう。

 僕と葵は目を点にして店長の後ろ姿を見送った。


「で、デカかった……」

「つーかどこの似非中国人だよ、あの語尾」


 水着の山を背に、僕と葵は大柄な体の店主を呆れたように見つめる。

 その時だった。どこからか水の跳ねる音が聞こえて、僕は店主から視線を外す。

 水音の正体は、どうやら巨大な水槽からだった。水槽の中から青々としたカエルが一匹、身を乗り出すようにして僕を見ている。


「……ん?」


 僕はそのカエルの姿に違和感を覚えて、目を凝らしながら水槽に近づいた。

 カエルの姿をよく見ようと水槽に手を伸ばそうとしたその時、不意に袖を引っ張られる。


「水流さん……?」

「さわっちゃだめ……楓くん」


 伊南さんと水着を選んでいたはずの水流さんが、いつの間にか僕の傍まで戻ってきていた。腕には何着か水着を抱えている。


「だ、だめって……何が?」


 おずおずと問いかける僕に、水流さんは少し躊躇うようなそぶりをしてから口を開く。


「その子……神様、だよ……」


 それは冗談や嘘とも違う、けれどもとても小さな声だった。

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