【六月の報告会】1
六月も半ば、報告会の日を迎えた。
この前のプールでの事件以来、僕はこの日を待っていたんだ。
プールの底に貼られていた札のこと、僕を襲った妖怪のこと、尾崎ヒフミのこと……一刻も早く古御門先生に報告しようとそればかり考えて歩いていた僕は、頭上で黒い翼をはためかせている者の存在に気づかなかった。
「カントーは暑いですねぇ」
そう言って悠々と頭上を通過したのは烏天狗だ。相変わらずの黒ずくめに不気味な鳥の面を顔に付けている。
カランカランと下駄を揺らしながら地面に降り立った彼は、腕に抱いた小田原さんを下ろした。
「この便利な時代、リモートで済ますとかあるじゃないですか。いくら交通費と宿泊費を全額負担してくれるからってお偉いさんのそーゆーとこ、アナログすぎるんじゃないかなー。あと黒って熱を溜め込みやすいんで、こう見えてサウナ状態ですよ。ウケる」
「ピーピーやかましいな。お前のせいで余計暑くなっとるわ! 隣に立つな!」
地面に下ろされた小田原さんは、ハンカチで汗を拭いながらぶつくさ文句をつけて烏天狗を追い払った。
烏天狗は大して気にも留めていないのか、冥鬼とハイタッチをして再会を喜ぶとカラカラと下駄の音を立てながら古御門家に入っていく。
「ああ、ホンマ死ぬでこの暑さ……」
小田原さんは以前のような嫌味を言う体力もないのか、暑そうに肩で息をしながら烏天狗たちの後に続いた。
どうやら古御門家に到着したのは僕達が一番乗りらしい。
早速あやめさんから貰ったのか、冥鬼が嬉しそうに棒アイスのザリザリちゃんを持って元気よく駆けてきた。
「おじちゃん、アイスたべる?」
「要らんからお嬢ちゃんが食べや。零さんようにするんやで」
小田原さんは脱いだ靴を烏天狗に揃えさせながらかぶりを振る。
僕達は、例の大広間から離れた客間に案内された。
冥鬼はザリザリちゃんを齧りながら小田原さんと共に扇風機の風に当たったりして客間をトコトコと駆け回っている。
「姫は元気やねぇ。オレもうヘトヘト」
烏天狗はエアコンの下で大きな黒い翼を広げたり閉じたりしながら冷風を受けていた。
不気味な鳥面のせいで表情は全く分からないけど、涼んでる……のか?
それにしたって、梅雨にしては記録的な暑さとこの湿気……人間も妖怪も辛いんだな。
「陰陽師って本当大変ですよねぇ、鬼道殿もご主人も見てるだけで暑そ〜」
「お前にだけは言われたないわぁ……」
小田原さんは、古御門家の使用人から麦茶のお代わりを貰いながら黒ずくめの烏天狗に呆れた視線を送る。
やがて体の熱が冷めるよりも前に食事の支度が整ったらしく、あやめさんが僕たちを呼びに来た。
廊下に出ると、続々と入ってきた陰陽師たちが今日の暑さを嘆いたり世間話をしながら宴会場へと向かっている。
あの扉をくぐったら、また僕は討伐数のことでネチネチといびられるんだろう。特に小田原さんを筆頭に。
「そんな顔しなくても大丈夫ですよ〜、鬼道殿! 言いたい人には言わせておけば良いじゃないですか」
烏天狗は扉を開けて先に冥鬼を、次に小田原さんを宴会場に通すと、僕の肩をぽんぽん叩いて励ますように言った。
僕の気が重いのは半分お前のご主人のせいなんだけどな……。
何が悲しくて人様の式神に慰められなきゃならないんだ……。
「……そうだな」
僕はため息をつきたいのを堪えて宴会場に入った。




