【東妖高校プール事件】1
衣替えが始まり、じめじめした日が続くようになってきた。この時期は髪がうねるしまとまらないし……あと洗濯物も乾きにくくなる。梅雨が好きな人なんて居ないだろう。
二時限目は体育……僕達一年生にとっては高校生活初めてのプールだ。
「あ、日熊先生!」
葵が声を上げる。
久しぶりにその姿を僕たちの前に現した大柄な教師の名前は、日熊大五郎。いかつい見た目に厳しい性格。
一年生の僕達と直接関わりはないがバレー部の副顧問だったことで葵や伊南さんにとってはお馴染みの顔だろう。
「今日は体育館でバレーだ。全員着替えて体育館に来い」
「えええっ!」
生徒一同が悲鳴に近い声をあげる中、日熊先生が視線を僕に送って廊下に出るように促した。
僕は日熊先生に促されるまま廊下に出る。
「よかったですね、すっかり元気になって」
「ああ、お前には感謝をしても足りんな……」
日熊先生はほんの少しだけ笑ってからふと険しい顔を作る。
「それより、だ……ちょいと事件が起こってな」
「事件……?」
辺りを気にするようにして声を潜めるものだから、僕は自然と日熊先生に近づいた。
「さっきプールの授業があって……俺も付き添いに出向いたんだが、その時に女生徒が救急車で運ばれた」
思わず目を丸くする僕に、日熊先生が続ける。
「表向きはプールで足がつって溺れた、ってことになってるが……」
日熊先生がさらに声をひそめる。
「プールの中から、無数の手を……何人もの生徒が目撃してる。何より俺も見た」
気のせいか日熊先生の顔色が悪い。
目撃者が多いってことは、噂が広がるのも時間の問題か……。
日熊先生も僕と同じことを考えているらしく、小さく頷いた。
「あいにく俺はカナヅチでな……お前の手助けをしてやれないが、椿の姐さんに相談すれば手を貸してもらえるはずだ。すまん……頼りにならなくて」
「いや。教えてくれてありがとうございます、日熊先生」
悔しそうな顔をする日熊先生に笑いかけると、先生は涙目になって感極まったように僕の両手を掴んだ。
「何かあったら俺はすぐに手を貸すからな。お前のためだ、何でもしてやる!」
「せ、先生ちょっと……」
日熊先生の声はどんどん大きくなっていた。
案の定、いつの間にか教室のドアからクラスのみんなが顔を覗かせていて……。
その視線に遅れて気づいた日熊先生は、慌てて思い切り僕の体を締め上げてくる。
何だそのモヤシみたいな体は、だとか……俺の通いつめているジムに来いだとか散々大声を出したせいで別の教室まで騒ぎが広まり、担任の先生が止めに入るまで僕は日熊先生に体を締められ続けた……。




