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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
1部

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【探偵ごっこ】3

「──で、どこに行くんですか? 付き合って欲しいところって言うのは……」

「そ、その前に……オマエ、昨日上結駅に居たか?」


 廊下を歩きながらゴウ先輩がこわごわと振り返る。


「え……ああ、報告会の時に。古御門家が上結駅の傍にあるんですよ。傍と言ってもバスで三十分──」

「……だ、誰かと、会ったか? 駅前で」

「誰かって?」


 そう尋ねると、ゴウ先輩はまるで生き物みたいなネコミミ(実際は髪なんだが……)をペタンと伏せて返事に困ったように視線を泳がせた。


「や……何でもない」

「そういえば、初めて生でメイドを見ましたよ」


 ゴウ先輩のネコミミがピクッと反応する。


「め、メイドっ?」

「テレビでしか見たこと無かったのでちょっと驚きましたけど。メイド服って結構しっかりしてるんですね」


 確かルナちゃんって呼ばれていたかな……。疲れていたからよく覚えていないんだが。


「そのメイドがどうかしました?」

「な、なんでもねー!」


 ゴウ先輩は明らかに慌てたように両手を振ると、どこか安心したように小さなため息をついた。


「ところで……どうしたんですか? 一年の教室まで来て」

「あ、ああ……そのことなんだけどさ」


 こほん、とゴウ先輩が咳払いをした。


「新しい顧問のこと、気にならないか?」


 ゴウ先輩がネコミミを揺らして僕の表情を伺う。


「新しい顧問って……尾崎先生のこと、ですか?」


 尾崎九兵衛。

 チャラチャラとした見た目とは裏腹に、妖怪に興味があるらしい変わった教師。

 日熊先生は別の学校に赴任するだなんて言ったり、いちいち意味深なことを言ったり……どうにも掴めない人だ。

 それに……尾崎先生の姉だという小森病院の小森ナツミ先生。今朝僕の家にやってきた尾崎ヒフミと言うやたらと押しの強い陰陽師専門の建築家。

 この人達のことが、少しだけ僕の頭の中で引っかかっている。


「あの顧問……馬鹿千穂の親の紹介で東妖高校(ウチ)に来たんだぜ。その親に紹介したのは、コミカドヤスチカだって香取が言ってた」


 ゴウ先輩の言葉から古御門先生の名前を聞くとは思わなかった。僕は思わず足を止めてしまう。

 偶然にも、ほぼ同時に立ち止まったゴウ先輩が俯きがちに話を続けた。


「あの尾崎って奴を見てると、何かヤな感じがするんだよ。こう……上手く言えないけど、ムカムカゾワゾワした感じ!」


 ゴウ先輩は両手で癖の強い髪をクシャクシャさせる。

 やっぱり勾玉を使った時にも思ったけど、ゴウ先輩は元々霊力が高いみたいだ。そういった気配には敏感らしい。


「だから、オレはアイツを尾行することに決めたんだ」

「び……尾行、ですか?」

「だって怪しいだろ? どう見ても教師ってツラじゃねえよ、アレは。詐欺師とかホストの類だ」


 さすがに言い過ぎな気もするが……ゴウ先輩の言葉を否定出来ない僕がいた。

 古御門先生からの紹介と言うのも、少し引っかかる。

 そして病院での不可思議な言動も……。


「オレ一人だと見失っちまうかもしれないし……オマエにも付き合ってもらおうって思ってさ。別に忙しかったら、断ってくれていいけど……」


 ゴウ先輩が上目遣いで僕を見つめる。

 ちょっと短気なところはあるけど、ゴウ先輩ってつくづく小動物みたいだよな……。


「──分かりました。それで、尾崎先生は今どこに?」


 僕が尋ねると、ゴウ先輩はパッと表情を明るくして窓際に駆け寄る。

 ゴウ先輩は何回か窓のふちに手を伸ばそうとジャンプをしていたが、やがて諦めて僕へと振り返った。


「こ、この窓から職員の駐車場が見えるんだけど……ちょうど尾崎の車も見えるんだ。もし車があれば、アイツはまだ学校に居るってことになる」

「分かりました。じゃあ……失礼しますね」


 僕はゴウ先輩の背後から近づいて、ほぼ冥鬼と同じくらいの小さい体を抱き上げる。

 当然と言うべきか、ゴウ先輩は両手をバタつかせて暴れた。


「馬鹿ーっ! オレはこう見えても先輩だぞ!」

「それは分かってますけど、僕はどれが尾崎先生の車なのか知らないので。ほら、どれですか?」


 僕は窓を開けて職員の駐車場を覗き込む。

 するとゴウ先輩は、ぶつぶつ言いながら窓のふちに片手を置いて一際赤い車を指さした。


「アレだよ。バイトから帰る途中、あの車に尾崎が乗ってんのを見たことあるんだ。家も知ってる」

「……家も、ですか?」


 僕が聞き返すと、ゴウ先輩は小さく頷いた。


「暗かったけどハッキリ見たぜ。あいつ、上結駅の傍にある高級マンションに住んでるんだ」

「まるで探偵みたいですね、ゴウ先輩」


 僕は苦笑しながら、ゴウ先輩と一緒に赤い車を見つめていた。

 その時だ。


「あの車、元カノにプレゼントしてもらったの。カッコいいっしょ」


 突然後ろから、ゾッとするくらい軽快な声が聞こえて……思わず僕はゴウ先輩を支えていた手を離して振り返る。

 そこには……尾崎先生の姿があった。


「楓クンもゴーくんもそんなにオレのことが気になる?」


 尾崎先生は、今日もキザったらしい笑みを浮かべている。

 さすがに、ごまかしてもすぐに気づかれてしまうだろう。


「……は、はい」

「素直で良いね」


 尾崎先生が目を細めて笑った。


「け、今朝……尾崎先生のお兄さんに会ったんですけど」


「えー、だれ? ヒフミ? シロー? イサヨ?」


 どんだけいるんだよ。

 僕は思わずツッコミそうになったが、何とか平静さを装って答える。


「尾崎ヒフミ……さんです」

「アー……」


 その名前を聞いた尾崎先生の表情が、何とも言えない苦笑に変わった。


「アイツに何か言われた?」

「い、いえ……家の修繕をしないかって言われました。尾崎建築って言ってて……」

「尾崎建築ぅ? あはははは!」


 突然笑いだした尾崎先生に、僕は思わず目を見張る。

 尾崎先生は、ひとしきり笑ってから言った。


「楓クン、騙されたっスね」

「え?」


 不自然な程に、尾崎先生がピシャリと言い切る。


「ヒフミは嘘つきなんスよ。本当は詐欺師なのにさ」

「は……? ど、どうして嘘なんか……」


 そう呟いた僕は、慌てて制服のポケットから名刺を取り出す。


「め、名刺だってもらったんですよ? 住所まで書いてあるし、ほら……」

「へえ? よく出来てるね」


 尾崎先生が目を細めて僕から名刺を奪い取る。

 そしておもむろにスマートフォンを取り出すと、何やら名刺を見ながら片手で操作を始めた。


「な、何だよ鬼道……尾崎ヒフミって」

「今朝、家の前で会ったんです。建築家って名乗っていて……家の掃除や修繕をさせてほしいって言われました」

「それどう考えても怪しいだろ! 詐欺に決まってるぜ」

「いや、でも……」


 僕は小声になってゴウ先輩に耳打ちする。


「結界が弱まっているから張り替えさせてほしいって言ってたんです。古御門先生から言われて来たって……」

「またコミカドヤスチカかよ……」


 ゴウ先輩が難しそうな顔で腕を組む。

 そんな僕達の会話を遮るように、尾崎先生がスマートフォンを見せた。


「名刺に書かれてた尾崎建築の住所を検索してみたっス。何が映ってる?」


 差し出されたスマートフォンをゴウ先輩とともに覗き込んだ僕達は、そこに映っている建物を見て顔を顰めた。


「こ、公園……」

「ここが建築事務所に見える?」


 尾崎先生の問いかけに僕はかぶりを振る。

 ゴウ先輩も、不思議そうな顔をしてスマートフォンに手を伸ばした。


「それ、どこの公園だ? もっと良く見せ……」

「おっと──ダメっスよ。オレ、綺麗好きだから他人に画面を触らせたくないんだよね。特に野良猫ってどんな病原菌もってるか分からないじゃん?」


 先輩の指が画面に触れる前に、尾崎先生がスマートフォンを自分の胸ポケットに仕舞う。

 すぐにゴウ先輩が頬を膨らませて尾崎先生に掴みかかろうとしたものだから、僕は慌ててゴウ先輩を押しとどめた。


「せ、先輩落ち着いてください!」

「誰が野良猫だ! 何が病原菌だにゃー!」


 じたばたと暴れるゴウ先輩には見向きもせず、尾崎先生がにっこりと笑う。


「キミ、騙されたんだよ。あの詐欺師に」


 尾崎先生はそう言って、僕が止める間もなく手の中の名刺を破り捨てた。


「騙された……?」

「ねーちゃんのこともあるし……オレの兄弟のことはあんまり信用しないで」


 尾崎先生の手が、軽く僕の肩に置かれる。

 切れ長の瞳がじっと僕を見つめていた。

 胡散臭いと思っていた尾崎先生の目は真剣で、つい信じてしまいそうになる。

 僕は、その風貌や言動から尾崎先生に苦手意識を抱いているけど、もしそれ自体が誤解だとしたら?

 この胡散臭い教師、本当は良い人なんじゃ……。


「──で、二人は何でオレを尾行してたんスか? もしかして顧問として信用されてなかったり?」


 僕の目を見つめたまま尾崎先生が尋ねる。口元は笑っていたけれど、その眼差しは少し呆れたようにも寂しそうにも見えた。


「信用なんかハナっからしてねえ……もにゃ!?」

「な、何でもありません……! すみません、僕たちもう帰ります!」


 僕は慌ててゴウ先輩の口を片手で塞ぐと、大きく頭を下げてから弾かれたように尾崎先生に背を向けた。


「気をつけるんスよ。それから楓クン──」


 立ち去ろうとする僕を、尾崎先生が呼び止める。

 躊躇いがちに振り返ると琥珀色の瞳がじっと僕を見ていた。


「もしまたヒフミに会うことがあったら、アイツの話に耳を貸しちゃダメだよ」

「え……?」


 それは尾崎先生からの忠告だった。


「楓クン、人が良いから信じちゃうかもしんねぇけど……尾崎家は嘘つきだから。オレを見てればわかるっしょ?」


 そう言った尾崎先生の顔から笑みが消える。

 僕は……言われるまま頷くしかなかった。

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