【探偵ごっこ】2
「鬼道くんっ」
「……わ、伊南さん?」
学校に着いて早々声をかけてきたのはクラスメイトの伊南さんだった。
「最近元気なかったみたいだけど、何か楽しそうじゃん。あたしがあげたケサランパサランのおかげじゃない?」
一瞬何を言っているのかと思ったが、すぐに伊南さんが言ってるのはあの綿毛のことだと分かった。
「あ、ああ……そういえば」
「もー! ちゃんとお世話してあげてる?」
思い出したように胸ポケットの中を漁る。そこには、伊南さんに貰った時と変わらない毛玉が小瓶の中に居た。
白い毛が陽の光に反射して金色に見える。
尾崎先生が、ケサランパサランは狐の贈り物だとか言ってたが、確かに狐の毛玉のようにも見えるな。
「ねえねえ鬼道くん! その子、ちょっと大きくなってない?」
「……そうかな。僕には分からないけど」
伊南さんは嬉しそうに身を乗り出してケサランパサランを見つめている。
「絶対大きくなってるって! 観察日記とかつけてみたら?」
「か、考えておくよ……」
チャイムの音と共に、僕は小瓶の中で窮屈そうにしているケサランパサランを再びポケットの中に仕舞う。
ここ数日で色々ありすぎてケサランパサランについて調べることも出来なかったけど、部活の時にでも部長に提案してみようかな、なんて思いながら僕はノートを取り始めた。
その日の放課後のこと。
部室へ向かうべく帰り支度をしていた僕の耳に聞きなれた声が聞こえた。
「鬼道楓……いるか?」
そう尋ねてきたのは小さな子供みたいな体型をしたネコミミの先輩……鬼原ゴウだった。
「何だあ? こいつ制服なんか着て……鬼道の弟かあ?」
「違うけど先輩だぞ、その人」
葵がゴウ先輩の頭をポンポン撫でながら僕にからかうような視線を向けるが、ゴウ先輩が年上だと知るとすぐに慌てて平謝りしていた。
ゴウ先輩は威嚇するように葵をジト目で見つめた後、ネコミミを揺らしながら教室に入ってくる。
相変わらず、ぶかぶかの制服を着て低学年の小学生にしか見えない風貌だ。
「よう、鬼道」
「どうしたんですか? 今から部室に行こうとしてたんですけど」
「そのことなんだけど……今日の部活はナシになったんだ」
「ナシ?」
ゴウ先輩は小さく頷いた。
「ハクも最近は家庭部のほうにばっかり行ってるし、馬鹿鳥も学校来てねーし……今日はオレ、オマエに付き合って欲しいところがあるんだよ」
ゴウ先輩がちっちゃな両手で僕の机をポンと叩く。
先輩の眼差しは意外にも真剣だ。
面倒だ、眠いにゃ、と口にしているいつもの ゴウ先輩とは比べ物にならないくらい活動的じゃないか。
「いい、ですけど……」
戸惑いながらそう答えると、ゴウ先輩はパッと表情を輝かせて僕の手を引っ張ったのだった。
「じゃ、行こうぜ! 早く!」
どこか楽しそうな先輩に急かされるようにして、僕は帰り支度を済ませるとゴウ先輩に引っ張られるようにして教室から出ていった。




