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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
1部

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【古御門家の陰陽師】4

 長らくバスに揺られて上結駅まで向かうと、既に辺りは暗くなっていてまさに帰宅ラッシュの時間帯だった。僕達は古御門家でずいぶん長居をしていたようだ……。

 突如、僕の目の前に酔っ払った中年のサラリーマンがフラフラと現れた。


「高校生のくせに夜遊びなんてけしからん!」


 そう言ってサラリーマンが僕の胸をどつく。

 よろめく僕に、怖がった冥鬼がしがみついてきた。


「……何ですか、あなた」

「何ですかとは何だっ! こっ、子供のくせに大人に意見するのかっ!」


 サラリーマンは千鳥足で僕に近づくと、勢いに任せて胸ぐらを掴んでくる。


「大体なあ、上司を差し置いてかわいいメイドさんとイチャイチャする部下がどこにいるッ!」

「いや……知りませんけど。人違いです……」


 彼の剣幕はものすごいが、言っていることはめちゃくちゃだ。

 僕は眉を寄せて、酒臭いサラリーマンから顔を離そうとする。


「離してくれませんか?」

「うるさぁい!」


 そう言おうとした時、サラリーマンが腕を大きく振り上げた。

 事情は分からない。わからないが、一方的な八つ当たりで殴られる! と思ったその瞬間、サラリーマンの体が後方へと思い切り吹き飛ぶ。

 激しく吹き飛ばされたサラリーマンは、歩道の植え込みに頭から突っ込んで伸びていた。


「あー……」


 おそるおそる僕の腕にしがみついていたはずの少女を見やると、冥鬼は掌を前方に向けたポーズで留まっている。


「まさかとは思うが、お前が吹っ飛ばしたのか……」

「当ったり前だろが!」


 僕が尋ねると、冥鬼は自分の腰に手を当てて呆れたように肩を竦めてみせた。


「せっかくいい雰囲気で帰るところだったのに邪魔すんじゃねえ!」


 勢いよく捲し立てた冥鬼は、僕の胸に人差し指を当てた。


「ぷっ……ありがとう」

「オマエが軟弱すぎるんだよ」


 思わず吹き出してしまう僕に、冥鬼はそっぽを向いて眠そうに欠伸をした。


「ふわにゃあ……」


 まるでどこかの誰かのような欠伸をした冥鬼の体をゆっくりと炎が包む。

 だがそれは一瞬で、炎の中から現れた幼い冥鬼は僕の首筋にしがみついたままふにゃふにゃと眠そうに目を擦っていた。


「ふにゃ……おにーちゃんのこと、おうちにつれていけなくなっちゃったよぅ……」

「いいさ。たまにはゆっくり帰るのも悪くないし」


 僕はそう言って冥鬼の頭を撫でる。

 冥鬼は安心したように瞼を伏せると、力なくずるずると腕を下ろした。

 慌てて幼い体を抱き直した僕は、ゆっくりと駅へ向かう。その時だった。


「にゃっ!」


 人混みの中で小さなメイドにぶつかってしまった。

 弾かれるようにしりもちをつきそうなメイドを助けるべく、僕は咄嗟にメイドの手を掴む。

 メイドは小学生のようにあどけない外見をしていて、ふわふわとしたロングスカートを履いていた。

 上結駅の周辺はほぼ都会のようなもので、僕の地元では見ることができない店があったり、テレビの中でしか見られないようなメイドも駅周辺にたくさん居る。彼女も客引きをしていたんだろうか。


「すみません、大丈夫でしたか?」


 そう声をかけると、メイドは目を丸くして僕を見つめている。


「な、何でオマエがここにッ……」


 少女がわなわな震えながら何かを口にするが、それは雑踏に混じってかき消されてしまう。同時に、スーツ姿のサラリーマンが遅れてやってきた。


「ルナちゃん、一人にしてごめんっ! トイレが混んでて……」


 サラリーマンの顔が僕を見た途端に不審そうな表情に変わる。


「ルナちゃんの知り合い?」

「ご、ご主人様っ! 違うにゃ。ルナがぶつかっちゃって……この人に助けてもらったにゃ。そーだよね?」


 ルナちゃんと呼ばれた少女は舌足らずな声で否定をすると、僕の同意を求めるように視線を向けてくる。


「ええ……僕がちゃんと前を見てなくてぶつかってしまったんです。怪我はありませんか?」

「……へーきにゃ」


 ルナちゃんはそう言ってぷるぷるとかぶりを振る。


「じ、じゃあ彼氏じゃないんだ? よかった……」

「ご主人様……あのね、ルナ……もう猫の国に帰らなきゃいけないにゃ。だからお見送りはここでいい?」


 ルナちゃんはそう言って名残惜しそうにサラリーマンを見上げると、ふわふわのスカートの端を摘んでふにゃっと笑った。


「また猫の国に帰って来てね。ルナ、いつまでも待ってるにゃ」


 あどけない顔でそう言ったルナは人混みの間を縫うようにしてその場を離れた。ちらりとルナが振り返って僕を見た気がしたけど……すぐに彼女は雑踏に消えていった。

 いつの間にかサラリーマンもいなくなっている。メイドにに見送られたことで満足して帰ったんだろうか。


「僕たちも……帰るか」


 何だかドッと疲れた。

 都会はやっぱり苦手だな……。

 漆黒に染まっていく空を見ながら、僕は腕の中でスヤスヤと眠る冥鬼を抱き直した。

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