【古御門家の陰陽師】3
「キイチ、君は……」
君は夢で見た女の子に良く似ている。
突然キスをしてくるシチュエーションも、不気味なほど綺麗な顔も。
どこか悲しそうな赤い瞳も。
「う……」
ふらついたキイチが僕の胸の中に倒れ込んだ。
驚くほど軽い彼女は、僕にもたれるように浅い呼吸を繰り返している。
「無理をしすぎだ」
「……そう、みたい」
八雲さんに抱き起こされたキイチは弱々しく答えると赤い目で僕を見た。
「また、会いに来てくれる?」
「ええ、と……」
言葉を濁しながら答えようとすると、襖から誰かが覗く気配を感じた。
振り返るとそこにはあやめさんがいて、ちょっと驚いたような顔をしてからはにかんだ。
「旦那様ったらね、お医者様とお話が弾んじゃって多分あのまま夕飯コースかもしれなくて……よかったら楓くんも一緒に食べていく?」
「いえ、僕は……家族が待ってますから」
僕はそう答えて、暇そうに欠伸をしている冥鬼の頭を撫でた。
「また、キイチと会ってやってくれますか?」
八雲さんが真剣な顔で言った。
頷こうとすると、八雲さんが僕の耳に顔を近づける。
「俺はキイチの兄代わりになれても──本当の兄にはなれませんから」
八雲さんまで妙なことを言う。
即座に否定しようとしたけれど、痺れを切らしてしまった冥鬼に手を引かれた。
「おにーちゃん、かえろー」
「わ、わかったよ……引っ張るなって」
そんな僕たちのやりとりを見て、八雲さんが少し笑った。
「またお話できる日を、キイチ共々楽しみにしています」
八雲さんはそう言って深々と頭を下げる。
玄関から出るとちょうど食事会を終えた他の陰陽師たちと遭遇してしまう僕達は、あやめさんに気を遣ってもらって家の裏口から古御門家を出ることになった。
「あれって……」
裏口の路地を歩きながら何となく正面玄関側を見やると、そこには高級車(おそらく外車ってやつだろう)が停まっていて、派手にめかしこんだ装いのゆりさんが紙袋を次々に車から出していた。
紙袋には何が入っているのかよく見えないが──洋服、だろうか? あやめさんは紙袋を受け取るたびに家の中へと戻っていく。
ふと、車の中から金色の髪をした若い男が出てきた。
顔は見えないけれど、まるでホストのような身なりをしている。
ゆりさんは、人目も気にせずに男の首筋に腕を回すと……。
「……ッ!」
僕は思わず目を逸らしてしまった。
彼とゆりさんが男女の仲であることなんて、子供の僕ですら分かる。
母親の面影を知らない僕には、母親がどんな存在なのかわからない。けど……。
「あれがキイチの母親、か……」
僕の呟きに、冥鬼は棒付きキャンディを舐めながら首を傾げる。
「ふぇ?」
「……いいや、何でもないよ。っていうかそのアメ、誰にもらった?」
「てんちゃん!」
冥鬼が無邪気に笑う。
てんちゃんって……ああ、烏天狗のことか。
「冥鬼はたくさん家臣がいるんだな」
「えへへ。でもおにーちゃんがいちばんすき!」
冥鬼が甘えた声を上げて僕に両手を伸ばす。
僕はその場にしゃがむと、冥鬼はすぐに背中に回って首筋に抱きついてくる。
彼女を抱き上げた僕は、そのまま古御門家を背に歩き出したのだった。




