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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
1部

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【古御門家の陰陽師】2

 しんとした部屋の中で僕は彼女と見つめ合う。

 起きたばかりでぼうっとしているのか、それとも口数の少ない子なのか……彼女は黙ったままだ。

 な、何か喋らないと……。

 永遠に近い静寂の中で先に口を開いたのは、彼女だった。


「……兄さん」


 じっと僕を見つめる緋色の瞳に吸い込まれそうだった。


「楓兄さん?」


 キイチが呟いて僕に顔を近づける。

 赤い瞳に捕えられた僕は身動きすらできなくて固まってしまった。


「な……!」


 バランスを崩して畳の上に倒れ込む僕の体の上にキイチがゆっくりと覆い被さる。

 キイチは青白い顔で、這うように僕の顔を覗き込む。


「兄さん……ずっと会いたかった」


 痩せた鎖骨が衣服からチラリと覗く。

 それがとても艶っぽくて、神秘的にも見えて。

 何を言ってるんだよ? 一体何を……。


「──ッ!?」


 キイチの体を遠慮がちに押し返そうとした僕だったが、それよりも早くキイチが僕に顔を近づけた。

 唇に冷たいものが触れる。


「うっ……」


 嫌だ。嫌なのに僕の両腕はキイチに押し付けられている。

 抗うように膝を立てて立ち上がろうとするが、それも出来なかった。

 やがて、力の抜けてしまった僕がぐったりと体を横たえると、キイチは静かに体を起こす。


「ぼ、僕のファーストキスが……」


 突然キスをされた僕の気持ちなんかお構い無しにキイチが少し笑ったように見えた。


「もう一回、する?」


 キイチが可憐な顔をして問いかけるものだから、僕は思わずかぶりを振った。


「し、しない! というか、僕は君の兄さんじゃないしっ……」


 そう言おうとすると、今度はキイチの人差し指で僕の唇を塞がれた。


「外に聞こえちゃう」

「ご、ごめん……」


 キイチに注意されたことで思わず声を抑える僕だったが、彼女の視線はまっすぐに僕に向けられている。


「兄さん」

「いや、その……」


 お兄さんじゃないんだが……と口にしたいけれど、キイチの耳には届いていないようだ。


「君は鬼道楓。鬼道家の陰陽師……」

「ひいっ……や、やめてくれ!」


 再度キイチの顔が近づくものだから、僕は最後まで聞かずに思わず腕を突っぱねた。

 やがて、ようやく呆れ顔の八雲さんが声をかけてくる。


「キイチ、その辺にしておけ」

「……わかった」


 キイチは意外とアッサリと僕を解放する。

 僕は口を押さえたまま顔を逸らした。この子……苦手かもしれない……。


「俺はキイチの世話係をしている古御門八雲こみかどやくもと言います」

「古御門……?」


 そう尋ねると八雲さんは静かに頷く。


「養子なんです。古御門家には長い間世継ぎが生まれなくて、他所から俺が引き取られました」


 それからまもなく、キイチが生まれたと八雲さんが言った。

 養子ということは、八雲さんはキイチの義理の兄ってことになるのか……。


「ボクの兄さんは楓兄さんだけ」

「……僕は一人っ子だ。妹なんか居ない」


 すると、キイチが不思議そうな顔をして首を傾げる。


「妹……?」


 そう言えば、いつもなら目尻をつりあげて怒ってくる冥鬼が大人しいな。

 ちらりと冥鬼を見ると、顔を両手で隠しながらバッチリ僕達を見つめていた。


「何だよ、冥鬼」

「おにーちゃんとおにーちゃんがちゅーした……」


 ……冥鬼の口から聞こえた言葉。まさかな。僕の聞き間違いに違いない。

 きっとそうだ。

 そう確信して八雲さんに同意を求めようとするけれど、八雲さんは僕を憐れむような目で一言。


「すみません……キイチは男です」

「……」


 僕は……。

 僕は目眩を覚えて畳の上に倒れ込んだ。

……あれ、何だか見覚えのある天井だな。

そんなことを思っていると、白い髪をしたキイチが僕の顔を覗き込んでくる。


「ボクのこと、嫌いになった?」


 そう尋ねたキイチの姿が誰かとダブって見える。

 けれど、それが誰なのかが思い出せない。

 そうだ……夢で見た、女の子……?

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