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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
1部

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【検査入院】1

 小森と名乗った医者は、早速僕の傍へと近づくなり手際よく服をひん剥いた。

 綺麗な女性に服を脱がされるのって、何だか変な気持ちだ……。


「楓クン、興奮しちゃダメっスよー? オレのねーちゃん人妻だからね」


 尾崎先生がからかうように僕に声をかけると、小森先生がくすりと笑ってからしなやかな指で僕の上腕に触れた。

 その指が思った以上にひんやりしていて、僕は思わず大袈裟に震えてしまう。


「楓クンって彼女居るの?」


 ひんやりとした指が僕の上腕をなぞる。

 かぶりを振ると、小森先生は『そう』と呟いて徐々に手を滑らせ、擦り傷のそばをグッと掴んだ。


「あぐっ!」


 思わず悲鳴を上げる僕の反応を視線だけで見つめると、今度は僕の腹部からふとももに向かって手を滑らせていく。

 ゴウ先輩や他の看護師も見ている中で、小森先生に体を触られているのはすごく……イケナイ感じがする。

 ズボンの上から小森先生の手が膝に触れると刺すような痛みが襲って、僕は思わずシーツを握りしめた。


「……っつ……」

「ふふ、痛がりさんだ」


 しなやかな指が僕の膝から離れて内腿をゆっくりと撫でる。

 思わずシーツを強く握りしめてしまう僕を見て小森先生が悪戯っぽく笑うと、すぐに体を起こした。

 その眼差しが尾崎先生に向けられる。


「今日は一日入院させるから、この子の御家族に連絡しといて。すぐ戻ってくる」

「ん。りょーかい」


 小森先生はそう言って足早に病室を出ていった。尾崎先生は軽い返事をすると、ベッドに手をつく。小森先生と同じシチュエーションにちょっと身構えてしまったけど、尾崎先生が不必要に近づいてくることは無かった。


「スマホ貸して。御家族に連絡してくるから」

「えっ、と……」


 まるで持ってて当然と言わんばかりに手を差し出された僕は、思わず言い淀む。

 なかなかスマホを渡さない僕を訝しんで眉を寄せる尾崎先生に、ゴウ先輩が口を挟んだ。


「こいつスマホ持ってねえよ」

「はー!?」


 尾崎先生は本日二度目の大声を上げる。

 思いのほか大きな声だったせいか、看護師が尾崎先生をたしなめた。


「今どきスマホ持ってないとかありえるんスか? えっ、ごのご時世物騒でしょ。スマホは持つべきだって! 学校の連絡網とか未だに友達のお母さんに伝えるタイプ!?」


 尾崎先生は信じられないものを見るような眼差しでまくしたてると、やがてため息をついてポケットに手を突っ込んで自分のスマートフォンを取り出す。


「はー……じゃあオレのスマホでかけるから、番号教えてよ」

「すみません。えっと……」


 僕が番号を伝えると、尾崎先生は器用に片手で番号を打ち込みながら軽く手を振って病室を出て行った。

 しんと静まり返った病室の中、僕の傍らに座っているゴウ先輩が不安そうに口を開く。


「検査入院とかさ……マジで骨折しちまってんのかな」


 僕以上に落ち込んだ様子のゴウ先輩が肩を落とす。

 その両目には大粒の涙が浮かんでいた。


「オレ、先輩なのに……オマエを助けらんなくて……本当に、ごめんっ……」


 こらえきれなかったのか、ゴウ先輩の大きな目から涙がこぼれ落ちる。

 それが引き金になったのか、ゴウ先輩は鼻の頭を真っ赤にしながらポロポロと泣き出してしまったのだ。


「えっ──あ……き、気にしないでください。僕は大丈夫ですから、な……泣かなくていいんですよ、ゴウ先輩」


 僕は突然泣き出してしまったゴウ先輩の涙を止める方法が分からなくて、咄嗟に小さい子供をあやすようにゴウ先輩の頭を撫でる。

 傍から見れば本当に小さな子供にしか見えないゴウ先輩は、見ているこっちが可哀想に思えるくらい震えて泣きじゃくっていた。

 目の前で人が轢かれそうになったんだから……そりゃ、ショックだよな。


 僕はべそべそと泣きながらネコミミを震わせているゴウ先輩をなだめながら、壁にかけられた時計をちらりと見た。

 時刻はもう、夕方の五時半を過ぎている。本来ならとっくに家に着いている時間だ。


「僕は、本当に大丈夫です。ただ、入院となると夕飯の支度が心配で……」

「そ、それなら……オレがやるっ!」


 ゴウ先輩は涙をごしごしと拭って身を乗り出した。


「いや、そんな、先輩に迷惑をかけるわけには……」

「迷惑とかじゃにゃい! ……そのくらいしなきゃ、オレの気が済まないから……」


 ゴウ先輩が泣き腫らした顔で見上げてくる。おそらく、断ったらさらに泣かれるだろう。

 かと言って先輩の好意に甘えてしまうのは如何なものか……。

 そんなことを考えていると、尾崎先生が病室に戻ってきた。


「んー、繋がらないっスね。お家、誰も居ない感じ?」

「いや……そんなことはないと思います……」


 僕は言葉を濁しながら答える。冥鬼の奴……おそらく昼寝か?

 それとも僕の帰りが遅くて外まで見に行っているのかな。

 ゴウ先輩は椅子から飛び降りてごしごしと袖で涙を拭う。


「オレ、これから鬼道んちに行くから……そん時にコイツの容態も伝える」

「あっそう? ソイツはありがたいっスね」


 尾崎先生はケロッとした顔で笑った。

 そして、小森先生が去った後も病室に残っている三人組の看護師を順番に見つめた後、一番生真面目そうな顔立ちをした青年の元へと歩み寄る。

 おそらく研修生らしき看護師の胸元に手を伸ばし、突然彼のネクタイに指を引っ掛けた。


「ねえ、そこの素敵なお兄さん……タクシーとかって用意してもらえんの?」

「え、ええ……一階の受付で伝えてもらえれば」


 突然ネクタイに手をかけられた看護師が驚いたように目を見張る。

 尾崎先生の長い指が看護師のネクタイをおもむろに解くと、突然彼の体を後ろから抱きしめてネクタイを結んだ。

 目を丸くしている僕とゴウ先輩の前で、看護師のネクタイが結び直される。


「今度はカノジョに結んでもらいなよ。こうやって──ね?」


 尾崎先生は青年の耳元に唇を寄せて色っぽく囁くと、最後にキュッとネクタイを締めてからすぐに彼を解放して僕の元へ近づいてきた。

 思わず身構えてしまうけれど、尾崎先生が僕にまで変なことをしてくることはなくて……。


「じゃあオレたちは帰るとするかぁ……楓クン、寂しくなったらオレのことを考えながら一人でシていいからね」

「な、何をですか!?」


 尾崎先生が布団を掛け直して微笑む。

 相変わらず訳の分からないことばかり言う人だ……。


「鬼道、家のことは任せとけよ! 何も心配しなくていいからにゃ!」

「すみません。ありがとう……ございます……」


 僕は申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら二人に礼を告げる。

 強打した体のあちこちが痛んだ。


 一体、僕を突き飛ばしたという和服の女は何者なんだろう。

 突然突き飛ばされたせいで顔どころかシルエットすら確認できていない。

 恨みを買われるようなことは何もしていないはずだが……。


 僕は病室から出ていく二人を見送ると、かたい枕に頭を預けてゆっくりと瞼を伏せた。

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