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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
1部

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【怪異を探せ2】2

 朝食をしっかり時間をかけてすませた僕達は、案の定電車を目の前で逃した。

 次の電車が来るのは三十分後……まだまだ時間があるな。


「冥鬼、座って待とうか」

「うん!」


 僕は冥鬼を手招いてベンチに腰掛けた。

 さすがに休日ということもあり田舎の駅もまばらに人がいる。

 都会はもっとすごいだろう。

 先月、陰陽師の報告会で上結(かみむすび)という駅で降りたことがあるけど人でごった返して身動きすら取れなかった。

 冥鬼は迷子になりかけるし、僕は訳の分からないメイドの勧誘に遭うし散々な目に遭ったんだ。

 これから毎月あんな駅に行かなきゃならないと思うと憂鬱だ。


「……今日もあったかくなりそうだな」

「ぽかぽかするね~♡」


 のどかな陽気が心地いいのか、冥鬼が僕の膝の上に頭を乗せて横になる。

 僕は軽く冥鬼の髪を撫でながら線路の向こう側を見つめた。


 どこまでも広がる田園風景。娯楽施設なんかどこにもない。

 すぐそばに山は見えるし、結構辺鄙なところだ。近所にも僕くらいしか学生が居ないもんな……前はもっと若い人も居たらしいけど、みんな都会に行ってしまったそうだ。

 都会なんて、そんなに良いものなんだろうか?


「……ふああ」

「おにーちゃんねむくなっちゃった?」


 僕があくびをすると、冥鬼が無邪気に笑って首を傾げた。


「……そうかもな」


 僕はそう言って彼女の髪を撫で、軽く伸びをしてから冥鬼の体を股の間に座らせる。


「まだ時間あるし……髪、結ぶよ」


 そう言って、冥鬼の柔らかな髪を手に取った。


「メイねぇ、きょうはおにーちゃんとおそろいにしてほしいの!」

「お揃い? ポニーテールってことか?」


 僕はキョトンとしながら冥鬼の赤い髪を手ぐしで梳く。

 冥鬼は嬉しそうに頷いて足をパタパタ揺らし始めた。

 まあ、ポニーテールなら簡単だな。おだんごにしてくれとか、アニメキャラと同じ髪型にしてくれとか、ひどい時は親父がやってるゲームの……ハードワックスを使わなきゃ成り立たないくらいのものすごい奇抜な髪型にしてくれとか、冥鬼はいつも無茶を言うからその度に四苦八苦するんだが……今日は簡単でよかった。


「くるまー!」


 線路の向こうで車が走ったのを見て、冥鬼が無邪気に声を上げる。


「車、好きなのか?」

「うん!」


 そういえばこの前、高千穂家の車に乗せられたっけ。一度目は鬼火の時。そして二度目は……。


「……魂喰蝶のこと、覚えてるか?」


 僕は冥鬼の髪を梳かしながら問いかける。


「ケーキおいしかった!」


 無邪気に答える冥鬼に微笑んで、僕は髪ゴムを使って冥鬼の髪を結んでいく。

 ゴムをねじって、輪っかに赤毛を通す。

 子供特有の髪は柔らかくて、指通りもいい。まあ当然か、僕と同じシャンプーを使ってるもんな……。


「あのさ、あの蝶は……」


 本当に僕が倒したのか?

 髪を結びながらそう問いかけた時だった。

 手元で、ぱちん、とゴムが弾ける音が聞こえる。どうやら髪ゴムが切れてしまったらしい。


「あー……」

「おにーちゃん?」


 冥鬼が不思議そうに顔を向けてくる。僕は咄嗟に、自分の髪を結っているゴムを解いた。

 手早くポニーテールにしてやると、冥鬼は嬉しそうに足をパタパタと揺らしてから僕に振り返った。


「おにーちゃんもメイとお揃いにしよ?」


えへへ、と笑って冥鬼が僕の髪をくちゃくちゃと弄り回す。その間に僕は冥鬼の髪ゴムを隠すようにピンクのリボンを結んでやった。


「冥鬼……もう電車が来るから……行こうか」

 

いつまでも人の髪で遊んでいる冥鬼を抱き上げて手早く自分の髪を梳かしてから電車に乗り込むと、タイミングを読んだかのように電車のドアが閉まった。

まばらに人が乗っているため、二人並んで座ることは出来ない。


「冥鬼、座れよ」

「おにーちゃんもいっしょがいーい」


 冥鬼はポニーテールを揺らして駄々をこねる。

 そんな僕たちに気をつかってくれたのか、目の前に座っていた初老の女性が二人分のスペースを空けて隣に移動した。


「すみません……ありがとうございます」


 僕は頭を下げて冥鬼と共に座席に腰掛ける。

 足をぶらぶらさせている冥鬼は不思議そうな顔で僕を見上げていた。


「きょうはなんでヒトがいっぱいなの?」

「休日だからだろ」


 僕は声量を落とすようにぽんぽんと冥鬼の頭を撫でる。

 やがて電車が鬼ヶ島駅に到着すると……見知った二人組が車両に乗り込んできたのが確認できた。


「あ、楓くんにメイちゃん♡」


 電車に乗ってきたのはハク先輩と、ゴウ先輩だ。思わず胸が高鳴る。

 眠そうに欠伸をしているゴウ先輩が遅れて車両に乗り込んだ。


「ネコちゃんだ!」

「誰がネコちゃんだよ……ったく」


 ゴウ先輩が唇を尖らせるが冥鬼は全く気にせずに手を振っている。

 僕は慌てて立ち上がるとハク先輩に席を譲った。

 ハク先輩は少し戸惑った様子だったが、やがて優しくはにかんで座席に座る。


「ありがとう、楓くん」

「いえ……このくらい、どうってこと……」


 余計なことをしてしまっただろうか。照れくさくてハク先輩の顔が見れない。

 けれどハク先輩は僕をまじまじと見つめていた。正確には、僕の肩に垂れた長い黒髪をだ。


「髪……」

「あ、えっと……冥鬼の髪ゴムが切れちゃって、急遽僕のゴムを……」


 しどろもどろに説明すると、ハク先輩は納得がいったように頷いて肩から下げたポーチの中に手を入れ、未開封の髪ゴムを取り出した。


「よかったらこれ使って? 私、いっぱい持ってるから」

「あ、いや……い、いくらですか?」


 挙動不審になりながらそう問いかけると、ハク先輩は小さく吹き出して僕の手を取ると、その中に髪ゴムの入った小袋を握らせる。


「お金とか良いから。何なら結んであげましょうか?」

「……ッ!? い、いいです、結構です! ありがとうございますッ!!」


 突然手を握られたこともだし、朝からいたずらっぽい笑顔のハク先輩に髪を結んでもらうなんて罰当たりで昨日の僕に刺される。

 僕は慌てて手を引っ込めると、握らされた髪ゴムを見つめた。ハク先輩からもらった髪ゴム……勿体なくて使える気がしないよ。

 そんな僕をからかうような眼差しで見つめているのはゴウ先輩だ。


「な、なんですか?」

「別に~? つーかオマエ、この先スマホが無いと不便じゃねえ? 部活の後にケータイショップに寄らないか、ってハクと話してたんだけど……どーだ?」


 ニヤニヤしながらゴウ先輩が問いかけてくる。僕は髪ゴムをポケットの中へと突っ込みながら視線をそらした。


「い、いえ別に……」


 スマートフォンがなくても特に不便はありませんけど。

 そう言おうとしたのだが、ゴウ先輩が続けた言葉は僕の口を完全に塞ぐものだった。


「オレ、部活は途中で抜けてバイトに行くから実際ケータイショップはお前らだけで行くことになるんだけどさ」


 何、だと……?

 それってつまり……。


「ハク先輩と……ふ、二人で、ってことですか……?」


 思わずニヤけそうになってしまう口を押さえて慎重に問いかけると、ハク先輩はいつもスマホに刺しているイヤホンを見せて言った。


「スマホのイヤホンが変になっちゃってね、取り替えてもらおうかなって思ってるんだけど……でも楓くんはお家のことが忙しいし、無理にってわけじゃ……」

「全然暇です。むしろ暇を持て余してました」


 僕は自分でも驚くくらいキッパリと息継ぎなしに言ってのける。

 ハク先輩はホッとしたように微笑んだ。


「本当? よかったあ……本当はね、一人で行くのが心細かったの。楓くんとメイちゃんが来てくれるなんて凄く嬉しい」


 心底安心したようにハク先輩が微笑む。

 僕もつられて微笑むと、不意に手の甲に痛みが走った。

 視線を落とすと、僕の手をぎゅう、と抓りながら頬を膨らませている冥鬼と目が合う。


「おにーちゃん……でれでれしてる……」

「ど、どうした? ケータイショップなんて初めてだろ? きっと面白いものがたくさん見られるぞ」


 そう声をかけてみるけど、冥鬼はすっかり機嫌を損ねたように顔を背けてしまった。

 勢いよく顔を背けたことで、ぺちん、とポニーテールで腕を叩かれる。


「な、何怒ってるんだよ……」

「くくく……鬼道、子供の子守りは大変だにゃ」


 ゴウ先輩がからかうように声をかけてくる。

 すると、すかさず冥鬼が立ち上がった。


「メイ、こどもじゃないもんっ!」

「こ、こら冥鬼……電車の中で大声を出したらだめだ。静かに……」


 すぐに冥鬼を注意して手を伸ばそうとするが、冥鬼にはねのけられてしまう。


「おにーちゃんだいきらいっ!」

「わかった、わかったから落ち着け。みんなの迷惑になるから……」


 そう言って押しとどめようとするんだけど、冥鬼はヒートアップしてしまっているらしくて目尻を吊り上げて怒っている。

 ゴウ先輩とハク先輩はオロオロしながら僕と冥鬼を交互に見つめた。


「お、オレが子供って言ったせいか?」

「ううん……きっと私が無理に楓くんを誘ったりしたからよ。ごめんね、メイちゃん。楓お兄ちゃんを取ろうとしたわけじゃないの」


 先輩たちは狼狽えながら冥鬼に謝罪するが、コイツはもう謝罪程度では収まりがつかないらしい。しまいにはグズりながら僕の腰にしがみついて泣き出してしまった。

 待て、そんなにしがみついたら僕が前のめりに倒れるだろ。


「ぶええ……」

「す、すみません……こいつ、すぐヘソ曲げるから……」


 つり革にしがみつきながら中途半端に前のめりになったポーズで謝罪を述べると、ゴウ先輩がゆるゆるとかぶりを振った。


「いや、元々の原因を作ったのはオレだ。ごめん……」


 ゴウ先輩がネコミミをしゅーんと垂らして謝罪をする。


「先輩たちのせいじゃありませんから。こいつは泣きべそをかくのが仕事みたいなところありますし。そうだろ? 冥鬼」


 僕は冥鬼の頭をぽんぽんと撫でる。冥鬼は僕の足にしがみついたまま鼻をすすって頷いた。変なところで素直な奴だ……。


「……こうやって拗ねるところは普通の子供と変わらないんだにゃ~」


 ゴウ先輩が上体を屈めて冥鬼を見つめる。

冥鬼は泣き腫らした目をゴウ先輩に向けて小さくしゃくりあげた。


「無神経なこと言っちまって、ごめんな」


 そう言ってゴウ先輩が謝罪すると、冥鬼はしばらくしゃくりあげながら黙っていたけど、やがて手を伸ばして先輩のネコミミによく似た髪をギュッと掴む。


「ぐすっ……メイ、おこってないもん」

「はにゃ!? か、髪を掴むにゃ〜!」


 髪を掴まれて嫌がりながらも冥鬼に手が出せないゴウ先輩がおかしくて、僕とハク先輩はほぼ同時に吹き出した。

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