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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
1部

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【怪異を探せ2】1

 いつもと変わらないけれどちょっと肌寒い朝、鬼道家では賑やかな朝食が始まっていた。


「楓ぇ、何でジャージなんか着てんだ?」


 皿に顔を突っ込んでドッグフードを食べているタヌキが不思議そうな顔を上げる。

 もうすっかり鬼道家に馴染んだせいか、それとも三食きちんと食べているせいなのか、何となく師匠は以前より一回り太って見えた。


「部長に呼ばれてるんです。月に一回、土曜日は部活らしくて」


 しかしその日に部活をやるかどうかは部長である高千穂レン先輩の気分で決まると言う。さすが部長……むちゃくちゃな話だ。

 僕は青地に白いラインの入ったジャージ姿で朝飯を食べていた。そんな姿が珍しくて師匠が声をかけてきたというわけだ。


「ふーん……部活がんばれよぉ!」

「ふふ……部活には否定的だった日熊先生が嘘みたいですね?」


 横目で師匠を見つめながらちょっと意地悪に笑うと、師匠は両手で両目を隠して恥じらうようにぷるぷるとかぶりを振った。


「そ、それはぁ……反対した方がお前らの結束力も高まるだろうしぃ? オイラは何でか生徒に好かれてないしぃ……」

「やっぱ化けるなら俺みたいなイケメンじゃないとダメってこった」


 早々に朝飯を平らげてスマートフォンを弄っている親父が笑う。

 この男、またゲームか……。どうでもいいけどさっきから女の子のやたらセクシーな悲鳴がスマートフォンから響いてるんだが、今度は一体何のゲームをしてるんだ。


「何でだよぅ! オイラだってイケメンだぞ! 今どき髭ヅラのおっさんなんてモテないんだからな!」

「お前のほうがオッサンだろーが!」


 朝から騒がしい二人に苦笑しながら僕は味噌汁をすすった。

 僕の真似をして、冥鬼が味噌汁を箸でぐるぐると混ぜてからすする。


「そういや──大五郎、まだ長時間ヒトに化けられねえんだしそろそろ親とばーちゃんを休みの理由に使うのは止めとけ。学校には連絡しといてやるから」


 一体何回親を殺せば気が済むのか、師匠は毎日のように学校に親が危篤で死にそうだとか今夜が峠だとか言って学校を休み続けている。それで信じる学校側もどうかと思うけど。


「妖気はまだ万全じゃねえみたいだし、少なくともゴールデンウィークまでは学校に行けねえだろ? キャバクラの帰りに事故にあって意識不明の重体とかどうよ」

「オイラはキャバクラなんか行かねえ! い、行かないからな、楓!」


 親父の提案に、師匠が両手をパタパタさせながら勢いよく立ち上がる。

 何で僕に言い訳をするのかは分からないが……。


「このスケベジジイ! 教師にはなあ、ちゃんと病気休暇ってモンが取れるんだぞ」

「病気だと診断書が要るだろ」


 親父が顎髭を撫でながら言うと、師匠は困ったように肩を落とした。

 診断書を得るためには師匠自らが病院に行かなきゃならない。けど、師匠はまだ長時間人間に変化することはできないんだよな……。


「ふふふ、そこは顔の広い柊サマが何とかしてやろう」

「本当かあ!?」


 さすが柊だ、と師匠が目をキラキラさせている。この二人の力関係が何となくわかった気がする……。

 僕は呆れながら親父に声をかけた。


「……大丈夫なのか?」

「おう。ちょいと遠出になるけど盲腸の時に世話になった病院があったろ。確かコモリ病院だったかな……そこで診断書を出してもらう」


 親父はそう言って財布の中やカードケースを漁り始める。

 そういえば僕が中学生の時に親父が盲腸で担がれたことがあったっけ。その時に大慌てで病院を探して──真っ先に駆けつけてくれたのがコモリ病院だった。


「院長って、あのおじいさん?」

「違う違う。今は息子夫婦が跡を継いだんだ。嫁さんがスロッターでな……もちろんやましい付き合いはしてねえよ? 純粋なスロット仲間だ」


 親父はそう言いながら財布を裏返す。何を探しているのかは考えなくてもすぐに分かった。


「診察券なら仏壇の引き出し」

「お前な……早く言えよ~!」


 味噌汁をすすりながら答えると、親父が情けない声を上げながら体を起こした。

 一生懸命病名を考えている師匠を後目に朝食を進めている僕へ、不意に冥鬼が声をかけてくる。


「ねえねえおにーちゃん、メイもいっしょにがっこういきたいなー?」

「なら、早く食べないとな。電車に乗り遅れると大変だ」


 僕が声をかけると、冥鬼は慌ててスプーンで白米を口の中にパクパク運ぶ。

 僕は、よく噛んで食べるように冥鬼に注意してから、彼女の口元についたご飯粒を指ですくった。


「ご飯粒がついてる。行儀が悪いぞ」


 指に取ったご飯粒を口に含むと、一連の行動を見つめていた冥鬼が気恥ずかしげにもじもじと俯いてしまった。

 そんな僕たちを見ていたのか、魔鬼が微笑ましそうにくすくすと笑う。


「何だよ?」

「いいや、すっかり姫の教育係が板についてきたなと思っただけだ」


 含みのある言い方で魔鬼が応える。

 何が気に入らないのか、すかさず冥鬼が魔鬼のしっぽを掴んで抗議を始めた。

 どうやら、我が家の賑やかな朝食が終わるまではもう少し時間がかかりそうだ。

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