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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
4部(夏帽子 君の横顔 閉ざす窓編)

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【夏帽子 君の横顔 閉ざす窓】4★

簡単あらすじ

・鬼道楓は京都での修行中、叔父の椋に襲われて生死不明となる。

・しかし、鬼道家の地下で目覚めた楓の体には、傷ひとつ付いていなかった。鬼道家でたびたび現れる不思議な白狐と再び再会した楓は、謎に包まれた狐の正体が鬼道澄真であると指摘する。

 白狐は、腹を見せて背中を地面に擦り付けている。リラックスした様子でしっぽを振るその姿は、誰が見ても無邪気に喜ぶ犬猫にしか見えないだろう。

 しかし、(かえで)は知っている。この白狐の正体が鬼道澄真(きどうとうま)であることを。


「いつ気づいたのかな?」


 白狐が穏やかな口ぶりで問いかけた。

 その正体が鬼道澄真だと確信したのは、おそらく初対面の時だった──と思う。

 ずっと楓の傍にいなければ知りえなかったことを口にして、自由自在に自分の体を変化させる能力を持った狐。それだけでも、ただ者であるはずがないのだが。

 それに、もしこの白狐が敵だったら、いつでも楓を殺せる隙はあった。

 何よりその赤い瞳は、鬼道の血を継ぐ者に似ている。


「まあいいや、ねぇ、鬼道楓」


 不意に、白狐が体を起こした。体長と同じくらいの大きなしっぽをゆるく左右に振りながら、楓の傍に歩いてくる。

 白狐はそのまま楓に近づいてくると、無邪気に見上げて言った。


「君が(むく)に負けた要因は何だった?」


 その声に、責める様子は一切ない。まるで、世間話のように穏やかな口ぶり。

 楓の手が、不自然に穴の空いた服に触れ、傷のない肌をなぞる。椋に貫かれたばかりのそこは、何事もなかったようになめらかなまま。

 薙刀での手合わせをした時、楓は多少なりとも限界以上の動きを見せたつもりだった。しかし──。


『上手やったよ、楓ちゃん』


 花吹雪のように舞う鮮血の中で冷たく言い放った椋の声を思い出して、無意識に身震いしてしまう。


「……僕が、弱いからだ」


 椋は、全く本気を出していなかった。たった一撃で胸を貫かれ、おそらくあのまま死んでいただろう。

 なぜ、椋があのようなことをしたのか、なぜ自分が生きているのか、分からない事ばかりだ。


「君は本当に考え込むのが好きだねぇ」


 そんな楓の足元でおすわりをしていた白狐が、前足をぺろぺろと舐めながらしみじみと言った。否定はしない。


「ひとつ提案してもいいかなぁ?」


 眠くなってしまうような、緊張感のないゆったりとした口調で白狐が語りかけてくる。


「私と一緒に、十万億土を散歩しようよ」


 十万億土。

この世から常夜を繋ぐ、途方もない距離のこと。

 決して辿り着けるわけがない、御伽噺だ。


「……本気で言ってるのか?」


 いくら鬼道澄真からの提案とはいえ、楓が疑いの眼差しを向ける。

 そんな視線の先で、白狐が自分のしっぽを追いかけるようにくるくると回った。


「本気だよ〜」


 気が抜けそうな声で返事をするその白狐の姿が、徐々に人の姿へと変わっていく。

 それは初めて会った時と同じ、幼子の姿。ふくふくとした頬や眠そうな外見からはとても鬼道澄真と結びつかないが、彼の強さは楓がよく知っている。


「この辺りでいいかな」


 澄真はそう言って、小さな指先で地面を撫でていく。すると、今まで隠されていたかのように、足元に地下へと続く階段が出現した。階段の先はぼんやりとしていて視認できないが、立ちのぼる妖気がただの地下室ではないと示している。


「これが十万億土への道。思う存分、自分の呪いに向き合えるよ」


 澄真は穏やかに笑って、躊躇いもなく階段を降りていった。後に続くかどうかはともかくとして、階段を覗き込んだ楓は小さく喉を鳴らす。

 地下から立ちのぼる妖気は非常に濃く、これまでに感じてきたものの比ではない。一歩足を踏み入れたら最後、二度と生きて帰れないのではないか──そんな錯覚すらあった。


「どうかした?」


 数段ほど降りたところで澄真が振り返る。暗闇の中に、ぼんやりとふたつの赤い瞳が浮かんでいた。


「お、お前はいいかもしれないけど、こんな妖気を普通の人間が浴びたら……」


 底知れない闇が広がる地下への階段を見つめたまま、楓が小さく身震いする。そんな楓を見つめていた赤い光が、一瞬消えた。

 次いで、小さく笑う澄真の声が聞こえる。


「大丈夫だよ。だって君、普通じゃないもの」


 緊張感のないその声が、今は少し心強く感じてしまう。

 暗闇の中から小さな手が伸びた。


「それでも怖いなら、私が手を握ってあげる」

挿絵(By みてみん)


 まるで迷子を導く大人のように、澄真が手を伸ばしてくる。

 楓は躊躇うようにその手を見つめていたが、やがて緊張をほぐすように深いため息をついて、震える一歩を踏み出した。

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