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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
4部(狐の輪 教え授けし鬼遊び編)

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【狐の輪 教え授けし 鬼遊び】11


「はあ……どうするー?」


 呆れたように、ため息をついた江都(えと)が向けた視線の先には、畳の上で横になった紅葉(くれは)がいる。紅葉は、先程から大の字で沈黙したまま。死んでいるのかと錯覚してしまうが、彼の胸は規則正しく上下していた。


「──」


 長い沈黙を遮るように、紅葉が何かを言いかけた時、玄関からチャイムが響く。

 このタイミングでの来訪者に、一同は自然と静まり返った。


「お嬢ちゃん、行ってこい」

「あ、アタシ!?」


 突然口を開いた紅葉に指名されて、香取の背筋にヒヤリと冷たいものが流れる。

 血まみれの八雲(やくも)に客の対応などできるはずもなく、紅葉や江都が出ていくのは不自然だ。


(だからって……!)


 どうしても先程の薙刀使いが脳裏に過ぎってしまい、香取は思わず身震いする。


「椋の気配じゃねえよ。いきなり刺し殺されることはねえから安心しな」


 香取の心配を察したのか、ゆっくりと上体を起こした紅葉は、鼻で笑う。さりげなく菓子を独り占めしようとしていた猿神(さるがみ)の手を木刀で叩き落として、バターサンドの包装を解いた。


「お嬢ちゃんに着いてってやりな」

「ぐぅ……」


 叩かれた手をさすりながら、敵対心剥き出しで紅葉を睨んでいた猿神は、江都の命令に唇を尖らせる。

 しかし、やがて小さなため息をついてから渋々体を起こした。白いしっぽが、彼女の後ろでゆらゆらと揺れている。


「怖がらなくてもいいよ。襲ってきたらボクが食べちゃうし。ケケッ」


 その神秘的な美少女の外見とは裏腹に、猿神は不気味に笑った。

 赤い瞳を細めて笑った彼女は、するりと香取の腕に絡みついてその背後に回る。


「でもヤバい相手だったら、お姉ちゃんがボクを守ってね♡」


 猿神は、香取を先頭に歩かせるよう両肩に手を置いて、茶目っ気たっぷりに笑った。


「アタシは陰陽師じゃないっつーの……」


 香取はため息混じりに毒づき、しぶしぶ廊下を進んでいく。

 軋む廊下を緊張した様子で歩く香取の首筋に、猿神が顔を近づけた。


「そう? こんなに()()()()なのに」


 長い白髪を靡かせながら、猿神はいたずらに笑う。その言葉が文字通りの意味なのか、褒め言葉なのかは分からなかった。

 こういう時に限って、姿すら見せない赤毛の幽霊を憎らしく思う。


──ピンポーン……


 もう一度チャイムの音が響く。

 香取(かとり)は、その音に急かされるように歩を速めた。


「は……はーい──」


 玄関に向けて返事をしてみるが、相手からの反応は無い。

 すりガラス越しに見えるシルエットは、長身の薙刀男ではなかった。どちらかといえば、香取よりも背の低い少年のようだ。

 そのシルエットに見覚えがあった香取は、急いで扉を開ける。


 そこには──。


「にゃあ」


 オカルト研究部の同胞であり、香取とも同年代の少年、鬼原(きはら)ゴウが立っている。その肩で鳴いたのは、鬼道(きどう)家で飼われている黒猫だった。


「……アンタ」


 ふと、香取は小さな違和感を覚える。その違和感の正体──特別な力を持たない彼女にも、すぐ分かった。

 この少年が、彼女のよく知る同級生ではないことを。


 彼女は、すぐに知ることになる。

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