表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
4部(狐の輪 教え授けし鬼遊び編)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

413/436

【狐の輪 教え授けし 鬼遊び】8

「え……?」


 薙刀が振り下ろされる瞬間、香取(かとり)の目の前に広がっていたのは、見知った廊下に、見知った玄関。そして、ほんの僅かに香る白檀。


 鬼道(きどう)家の中だ。


 鬼道家には、邪を祓う結界が張ってあると聞いたことがある。ただし、それは相手が妖怪ならばの話。人間には効果はない。


「この程度の転移では……時間稼ぎにも、ならないか……ぐぅッ……」


 古御門八雲(こみかどやくも)は、そう言って壁にもたれるように崩れ落ちてしまう。足元には、血の海が広がっていた。


「……っあ、あ……」


 香取は、目の前の惨状を見てすっかりパニックに陥っていた。

 そんな香取の肩口から、千代之介(ちよのすけ)が声をかける。


「香取センセ、止血用の布と氷嚢(ひょうのう)を用意してあげないと、この人死んじゃいます」


 動揺する香取とは真逆に、千代之介は冷静だった。このような血なまぐさい光景は見慣れているのかもしれない。


「──そ、そっか。だよね、待ってて……」


 その場で動けずにいた香取は、慌ててミュールを脱ごうとした。

 しかし、もたついた足は急ぐ体についていけず、段差に引っかかる。


「うあッ!」


 倒れ込むように膝を強打して、痛みに顔をしかめた。香取の目の前で、ハンドバッグの中身と、紙袋に包まれた菓子の箱が散乱する。


「香取センセ」


 千代之介が、頭上で言う。びくっと香取の肩が小さく震えた。


「あちきにゃ、何も出来やせんよ。ただの死人で、人間ですもの。香取センセを助けることも、あの辻斬りを倒すことも出来やせん」


 香取の思考を読んだかのように、千代之介が言う。それは緊張感のない、飄々とした──けれども、残酷な現実だった。

 彼は陰陽師でもなければ、式神ですらない。香取を救ってくれる力など、無いのだ。


「ですが──こんなところで死ぬはずもない」


 不意に、胡散臭い糸目が、弧を描いて確信めいた笑みを見せる。おずおずと顔を上げた香取を覗き込むように、千代之介が笑った。


「センセがここで死んだら──物語が未完のままでやんす。あちきは未完の物語なんて許せない性分でねェ。どうせ死ぬなら、あちきが満足するまで書ききってからにしてくださいよ」


 薙刀男とそっくりな顔をした、純度たっぷりの畜生。

 ほんの一瞬でも、何かを期待した自分を恥じたい。彼はどこまでも創作者なのだ。

 香取が舌打ちした時、壁にもたれたままの男が、何かを呟く声が聞こえた。


「キイ、チは……必ず……助け……る」


 八雲は、浅い呼吸をつきながらうわ言のように呟く。

 このまま放置しておけば、彼の命はない。

 香取は、足の痛みをこらえて体を起こした。

 まずは救急車を呼ぼう。それから、止血。千代之介の言う通り、布と氷を探して応急処置をする。


(じゃないと、アタシ……)


 香取の手が、床に転がったスマートフォンに手を伸ばした。

 そんな香取の背中で、楽しげな男の笑い声が聞こえる。


 それは、殺人鬼の冷酷な微笑。


「へぇ……それが最期の言葉でええのん? 痛いなぁ、怖いなぁ……かわいそうでボク、見てられへんわぁ」


 それは、耳にこびりついて離れない、不快な死神の声。

 はたまた、子守唄のように優しい天使の声。

 どちらも、香取たちを死に導く者の声であることは間違いない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ