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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
4部(ガットフェローチェ編)

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【土用凪 祓いの酒で 酔いし虎】5★

 特攻服姿の少年に連れられて、粟島(あわしま)宿儺(すくな)は抗争の場を離れる。辺りは酷い有様だった。せめて海斗(かいと)たちが無事に部長と合流したことを祈る。

 少年が癖のついた長い髪を靡かせて、およそ感情の読み取れない漆黒の瞳で振り返った。


「久しぶり、総長」


 ガットフェローチェの死神、タルタルーガ。愛称はタルだ。

宿儺は、こんな状況でもケロッとしているタルを見て頼もしさすら覚えた。あの化け物を躊躇いなく殺せる非情さは、宿儺には無い。

 しかしタルの兄であるヒースは青い顔をしたままだ。


「な、何やってんだこの馬鹿がッ! さっきの奴、死んじまったかもしんねーんだぞッ!」


 わなわなと震えながら、タルの胸ぐらをヒースが揺さぶる。しかし、彼の体は全く動じなかった。


「ヒースは──あれが人に見えたんだ?」


 顔を覗き込むように、ぽつりと尋ねられたヒースは『うっ』と言葉に詰まって俯く。あの化け物を殺らなければ、宿儺が殺されていた。そのくらい、ヒースにも分かっている。


「馬鹿……無茶してんじゃ、ねーよ……」


 それでも、兄として毒づかずにはいられなかったようで、ヒースは呻くように呟いた。やがて、その目は宿儺へと向けられる。


「オレたち、ずっと……イヴのこと探してたんだぜ」


 その声は、感情を押し殺したように暗かった。


「……ごめん。急にお前らの前から居なくなって」


 宿儺が深く頭を下げる。総長が無断でチームを抜けたのだ。歓迎されるとは思っていない。


「殴ってくれていい」


 宿儺はそう言って、どんな罰も受け入れるように体の力を抜いた。


「そーかよ……」


 ヒースは強く拳を握りしめて小さく身体を震わせると、やがて耐えきれなくなった様子で宿儺の胸に飛びつく。


「うわあぁん……会いたかったよぉ〜ッ!」


 ヒースは、リーゼントが乱れるのも構わず、泣きじゃくりながらしがみついている。宿儺は少し困った顔で、わんわん泣いているヒースを見下ろした。


「お、おいヒース……」

「わああぁんッ!」


 遠慮がちに引き離そうとするが、ヒースは一層大きな泣き声を上げながら、宿儺にしがみついてくる。同い年だというのに、泣き虫うさぎは健在らしい。

 宿儺は、対応に困ってタルへと視線を送った。


「た……タル、お前は怒って良いんだぜ。つーか怒ってくれ……」

「……ん」


 素知らぬ顔で棒付きキャンディを咥えていたタルは、泣いている兄を見てほんの少し考えた後、おもむろに宿儺の口へ色違いのキャンディを突っ込んだ。


「おかえり……総長」


 無感情な瞳が宿儺を見つめている。それは、兄のヒースとは正反対の歓迎。

 宿儺は力の抜けた顔でキャンディを咥え直すと、軽くタルを手招いて二人の仲間を強く抱き締めるのだった。


 やがて、泣き止んだヒースは、ぽつぽつとこの数ヶ月間を語り始める。


 宿儺の抜けたチームは、しばらく総長不在のまま活動を続けていたという。そんな中、チームに不穏な空気が漂い始めたのだ。


『タイガさんは、伏見会(ヤクザ)の子です』


 ロトの言葉が脳裏を過ぎった。

 信じたくない。信じられない。しかし、既にそれは()()()()だ。


「ガッチェはこんなことするチームじゃねえのにッ! ケーサツが勝手に目の敵にしてるだけじゃんかよ! 昔は、もっと……」


 赤くなってしまったヒースの目に、再び涙が浮かぶ。


「みんなでバイクに乗って、遊んでれば、それだけで楽しかったのにさ。なんでッ、こんなことになっちまったのかなぁッ……」


 悔しそうにしゃくりあげながら涙を拭うヒースの頭を、タルが黙って撫でていた。

 宿儺が総長の座に戻れば、少なくともチームは守れる。けれど、今まで通り学校に通うことは、もう出来ない。


「……」


 その時、RAIIN(レイン)が鳴った。発信者は(たちばな)海斗(かいと)。トークルームを開くと、そこには受信できていなかったメッセージと、数十秒ほどの動画が添付されている。


 嫌な、予感がした。


 再生ボタンをタップすると、薄暗い倉庫のような場所が映し出されて──すぐに海斗の体が地面に倒れ込む。


『ほら頑張れよ!』


 拍手と共に、野次る声が聞こえた。海斗が腕を震わせながら体を起こそうとするが、力なく地面に倒れ込みそうになってしまう。そんな海斗の前髪を何者かの手が掴んだ。前髪の下から血が伝っている。


『これちゃんと撮れてんの?』

『いいっすよぉ〜タイガさん』


 前髪を掴みあげられて夕焼け色をした海斗の瞳が覗く。海斗の目尻には涙の痕が残っていたが、その眼差しは焦点が合っていない。

 そんな海斗の顔にナイフが近づけられる。


『これ、橘総本家の坊ちゃんだろ。そんであっちは──鬼原(きはら)ハク』


 声の主が海斗の肩に手を置きながら後方を映す。猿轡を噛まされたハクが横たわっている。


『久しぶり、イヴローニュ』


 この場には似つかわしくない満面の笑みで、灰色の髪をした男が画面を覗き込んだ。その口には煙草が咥えられている。


『今からコイツ殺すからさ。止めたきゃ死ぬ気で探せよ、イヴ』


 正気を失ったような、琥珀色の目が楽しげに弧を描いた。


「こ、コイツッ……何てことしてんだよ! イヴ、今すぐ探しにッ……」


 ヒースが声を荒らげた。

 チームに戻れば、学校には戻れなくなる。友人や先輩と過ごした、楽しかった日々も戻ってこない。

 けれど、もうそんなことなど、どうでもいいと思えるほど。


 宿儺の中で、何かが切れる音がした。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


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