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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
1部

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【魂喰蝶】3

 待ちに待った週末、朝一番に騒々しい声の部長が鬼道家へやってきた。

 しっかりと着替えを済ませたメイが先に玄関へ出ていき、礼儀正しく部長に挨拶をしている。


「おはよーございまーす! きょうは、メイとおにーちゃんをよろしくおねがいします!」

「ええ、もちろんよ。ところで鬼道くんはどこかしら!」


 玄関から部長の元気な声が聞こえて、僕は慌てながらキッチンから顔を覗かせた。


「す、すみません! もうすぐ親父が起きてくるんで、飯の支度をしてて……」

「……ふぅ。用意が出来たら来なさい」


 部長はわざとらしいため息をついてから相変わらず自分のペースで告げると、冥鬼を連れて外へと出ていった。

 僕も飯の仕込みをしたら早く出かけないといけないな……。

 僕は冷蔵庫の中身をチェックして昨夜の残りの唐揚げを皿ごと取り出した。テーブルに空の茶碗を伏せて炊き込みご飯の入った炊飯器の中身をチェックをしてから、小動物用のキャリーバッグを開いて豆狸に声をかける。


「僕達もそろそろ行こう」


 僕が声をかけると、テーブルの下で器用におにぎりを頬張っていた小さなタヌキが顔を覗かせた。

 豆狸は、すぐに駆け寄ってきてキャリーバッグの中に入る。このキャリーバッグは親父が近所からもらったものだ。ところどころ穴が開いて破けているのは、おそらく前の持ち主がうさぎか何かを飼っていたんだろう。


「へへ……パーティーなら当然顧問が居なきゃな!」

「……どうせなら正式に顧問になってからパーティーに出て欲しかったですけどね」


 僕がさりげなく意地悪を言って軽くキャリーバッグをつつくと、中で豆狸がしょぼくれたように小さな鳴き声を上げた。

 飯の支度を確認し、豆狸の入ったキャリーバッグを抱えた僕は一度親父に声をかけるために二階へ上がってから眠りこけている親父の代わりに魔鬼へ一言行ってきますの挨拶をして、再び一階へと降りた。

 玄関には、待ちくたびれたらしい部長が腰に手を当てて僕の持っているキャリーバッグを睨むように見つめる。


「鬼道くん、それは何かしら」

「ぺ、ペットです。まだ子犬なので……連れて行っても大丈夫ですか?」


 こわごわと尋ねると、キャリーバッグから顔を覗かせた豆狸と目が合った部長が眉を寄せる。


「犬にしては変な顔ね……。まあいいわ。さっさと乗りなさい」


 部長は特に怪しむ様子もなく、言うだけ言ってすぐに車へと向かう。後部座席には既に冥鬼が座って待っていた。


「冥鬼、待たせてごめんな。ほら……忘れ物だ」

「あ! くまちゃん!」


 キャリーバッグに入れられた豆狸の存在に気づいたのか、冥鬼は笑顔を浮かべてキャリーバッグのジッパーを開けると、コロンと転がってきた小さな豆狸を抱き上げて膝の上に乗せた。


「えへへ、いいこいいこ♡」

「きゅうん……」


 冥鬼は豆狸の背中を撫でながらお姉さんぶった口調で笑いかける。もうすっかり豆狸は冥鬼の『お気に入り』だ。

 僕達が車に乗り込んだことを確認した部長は、すぐに運転手に合図を出して車を発進させた。

 車の向かう先は当然、部長の家──高千穂邸だ。


「ハクと子猫ちゃんは先に到着しているところだと思うわ。カトリーヌが参加出来ないのは残念だけど」

「バイト……ですか」

「そうよ」


 部長は短く答える。

 やがて、車は大きな屋敷の前で停まった。

 って……待て待て、本当にこれが部長の家なのか?


「ご、豪邸じゃないですかッ!」


 車から降りた僕は、巨大な門の先にある屋敷を前にして思わず声を上げた。

 一緒に降りてきた冥鬼は口を大きく開けて豪邸を見つめている。


「ほあー……」


 目を丸くして豪邸を眺めていた冥鬼は、豆狸の体をその場に下ろすと僕の袖を引っ張って言った。


「おにーちゃんちよりおっきい……」

「あ、ああ……こんな豪邸、テレビでしか見たことがないぞ……」


 僕達は口々にそう言って部長の家の巨大さに圧倒されてしまう。

 その時、動揺しながら豪邸を眺めていた僕の後ろから聞きなれた声が聞こえた。


「鬼道、そっちも到着したんだな」


 振り返ると、ネコミミパーカーを着た小学生……もといゴウ先輩と、黒いワンピースを着たハク先輩の姿がある。

 いつもの制服姿ともメイド服とも違うハク先輩の雰囲気に、僕は胸の高鳴りが止まらない。かわいくて大人っぽくて……とても素敵だ。


「ふふ……メイちゃん、おめかししたの? とってもかわいいわ♡」


 ハク先輩がにっこりと微笑みかけると、冥鬼は恥ずかしそうにふにゃふにゃ言いながら頷きを返す。


「お、おねーちゃんも……かわいーよ」


 僕の後ろに隠れながら冥鬼がぼそぼそと呟くと、ハク先輩は楽しそうに微笑んで僕の傍でしゃがみこんだ。


「隠れないで、もっとよく見せて? メイちゃん、今日は髪を下ろしてるのね」


 ハク先輩は冥鬼の赤い髪を見つめて微笑みかける。僕は目の前にしゃがんだハク先輩を見下ろして、内心ドキドキしながら答えた。


「あ、いえ……今日はちょっと縛ってやる時間がなくて」

「そうなの?」


 ハク先輩はキョトンとした顔で僕を見上げると、隠れたままの冥鬼に微笑みかけた。


「じゃあ、お姉ちゃんが結んであげようか?」


 ハク先輩の心優しくてありがたい提案に、冥鬼は目を丸くすると僕とハク先輩を交互に見上げる。


「す、すみません……助かります。一応髪ゴムとリボンは持ってきたんですけど」


 そう言ってポケットからゴムとリボンを取り出した僕は、震える手でそれを差し出す。ハク先輩は微笑んでそれを受け取った。


「おいで、メイちゃん」


そう言って手招くハク先輩に引き寄せられるように、メイは遠慮がちに僕から離れると、ハク先輩に抱きつく。


「こら、冥鬼」

「はにゃ……」


 いきなり抱きつく奴があるか、と注意をしようとしたんだけど、冥鬼は何だか夢見心地と言った様子でハク先輩に抱きついている。どうやら、よっぽどハク先輩に弱いらしい。


「ハクに弱いのは鬼道だけじゃないってことだな」

「ご、ゴウ先輩……!」


 からかうようなゴウ先輩の言葉に慌てて振り返る。

 ゴウ先輩は黒いネコミミフードのついたパーカーと、サイズの合わない大きめのズボンを履いている。こうして見ると本当に小学生みたいだ……。


「や、やめてくださいよ。ハク先輩の前でそういうこと言うの……」

「何だよ? 別にいいじゃん。オレは応援するぜー? ハクの親戚としてな」


 ゴウ先輩は笑いをこらえながら僕の脇腹を肘でつついた。というか何で僕がハク先輩に弱いって分かるんだ? ま、まさかゴウ先輩はエスパー?

 そんなことを考えながら冷や汗を流していた僕の足の間から白い毛玉が駆け寄ってくる。


「みゅう」

「ぎゃにゃあ!?」


 下手くそな鳴き声を上げて豆狸がゴウ先輩の足元に擦り寄ってくると、ゴウ先輩はひっくり返ったような声を上げて飛び退いた。


「な、な、なんだよコイツぅ!」


 ゴウ先輩が半泣きで豆狸を指すと、騒ぎに気づいたらしいハク先輩が豆狸を見て少し驚いたように目を丸くした。


「何で、日熊先生がここに……?」


 ハク先輩が小さく呟いたその声は、僕にはよく聞き取れなかったが冥鬼には聞こえたらしい。


「おねーちゃん、くまちゃんのことしってるの?」


 冥鬼があどけない顔で尋ねると、ハク先輩は少し戸惑ったように冥鬼を見てから僕に視線を向けた。


「……う、ううん。くまちゃんって言うの? 楓くんちのペットかな」

「そんな感じです。冥鬼、目を離したらダメだろ」


 僕が軽くたしなめると、冥鬼は唇を尖らせながらも反省したように頷いて豆狸を呼び寄せる。

 豆狸は、すぐにトコトコと四つ足で駆けてきて冥鬼の肩に飛び乗った。


「みゅ……」


 豆狸は大人しく冥鬼の肩にしがみつくと、チラッとハク先輩を見てからすぐに冥鬼の髪の中に隠れた。


「お、オレはイヌが苦手なんだから近づけんなよな……」


 ゴウ先輩はフードを深く被って身震いしている。

 動物っぽい見た目をしている割にイヌ(本当はタヌキだが……)が苦手だなんて、ちょっと意外だ。


「くまちゃんはイヌじゃないよ? たぬ……」

「ふにゃあああっ!? 近づけんなってぇ!」


 豆狸を抱き上げて差し出そうとする冥鬼の余計なお世話に、ゴウ先輩が慌てて飛び退く。

 そんな僕達を他所に、部長は携帯電話で何かを話していた様子だったが、突然僕達へ声をかけた。


「人の家の前でいつまで騒いでるつもり? 早く中に入りなさい、パーティーの支度が出来たそうだから」




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