表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
京都編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

332/434

【西瓜割り御霊鎮めし魂祭】4

「俺たちで、犯人を見つけませんか」


 藤之助(とうのすけ)は咄嗟に口にしていた。まるで正義の味方のような台詞だ、と内心思う。

 品行方正なお坊ちゃんでも、優等生でもないくせに。


「い、家の中に殺人犯が居るかもしれないのが気持ち悪いからですよ。楓さんも気になってるんでしょ」


 言い訳っぽく付け足した自分の発言を誤魔化すように、藤之助は怒ったような声色で言った。

 このままでは、あの無感情な父親の表情を変えることすらできやしない。


「藤之助殿、これは殺人事件なんだ。子供が首を突っ込む問題じゃ……」

「ええやないの、それ」


 藤之助を諌めようとする坊主の声に被る、おっとりとした声。

 一体いつから聞いていたのか、開いたままの襖に手をかけて柔和に微笑んでいたのは鬼道家四男、鬼道椋(きどうむく)だ。

 その気の抜けるような笑みが、藤之助の神経を逆撫でする。


「藤之助はしょー兄さんと(ちご)て賢い子やねぇ、ボクも殺人鬼と夜を過ごすなんて怖あて嫌やわぁ。それに……意外と犯人はすぐ近くに居てはるかも」


 彼の声は軽妙でありながらも、背筋に寒気が走る。それは怖気にも似ていた。つくづく藤之助は、彼が嫌いなのだ。


「まるで犯人が分かっているかのような口振りだな、椋殿は」


 坊主の声は僅かに強ばっている。藤之助には、それが不自然に聞こえた。まるで彼こそが犯人を知っているように感じたからだ。


「まさかぁ。ボクは探偵ちゃいます──あくまで()()()の一人。この事件はキミたちが解決せな、ねぇ?」


 口元を扇子で隠しながら、椋が糸目を細める。その扇子の下でどれほど不快な笑みを浮かべているのか、想像するのも嫌だった。


「僕たちが……」

「くふふ……(かえで)ちゃんほんま賢いわぁ」


 椋はにっこりと微笑んで楓の頭を撫でようとしたが、坊主に阻まれて『あら』と眉尻を下げて笑う。

 しかし、それも一瞬だった。


「夕飯は全員で取れるようにセッティングしとくなぁ。証拠見つけたら──ボクにもこっそり犯人教えてや」


 パチンと音を立てて閉じた扇子で、軽く藤之助の肩をつついた椋が悪戯っぽく告げる。百合の香りを纏わせたその麗人は、鬼鳴りの音を響かせながら廊下の先へと消えた。


「早く行きましょう。アイツに焚き付けられたみたいで嫌なんで」


 藤之助は、椋につつかれた肩をしっかり払いながら、困惑した様子の楓に向き直る。その勢いに負けた楓がおずおずと頷きを返す中、坊主の小さなため息が聞こえた。

 しかし、二人の探偵ごっこを咎めるつもりはないらしい。


「……無茶はしないでくれよ。(ひいらぎ)殿にも松蔭(しょういん)殿にも顔向けできなくなっちまうから」


 坊主の了承を得て、楓がホッとした様子で頭を下げる。

 藤之助は楓を急かすように袖を軽く引っ張り、足早に廊下を進んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ