【西瓜割り御霊鎮めし魂祭】4
「俺たちで、犯人を見つけませんか」
藤之助は咄嗟に口にしていた。まるで正義の味方のような台詞だ、と内心思う。
品行方正なお坊ちゃんでも、優等生でもないくせに。
「い、家の中に殺人犯が居るかもしれないのが気持ち悪いからですよ。楓さんも気になってるんでしょ」
言い訳っぽく付け足した自分の発言を誤魔化すように、藤之助は怒ったような声色で言った。
このままでは、あの無感情な父親の表情を変えることすらできやしない。
「藤之助殿、これは殺人事件なんだ。子供が首を突っ込む問題じゃ……」
「ええやないの、それ」
藤之助を諌めようとする坊主の声に被る、おっとりとした声。
一体いつから聞いていたのか、開いたままの襖に手をかけて柔和に微笑んでいたのは鬼道家四男、鬼道椋だ。
その気の抜けるような笑みが、藤之助の神経を逆撫でする。
「藤之助はしょー兄さんと違て賢い子やねぇ、ボクも殺人鬼と夜を過ごすなんて怖あて嫌やわぁ。それに……意外と犯人はすぐ近くに居てはるかも」
彼の声は軽妙でありながらも、背筋に寒気が走る。それは怖気にも似ていた。つくづく藤之助は、彼が嫌いなのだ。
「まるで犯人が分かっているかのような口振りだな、椋殿は」
坊主の声は僅かに強ばっている。藤之助には、それが不自然に聞こえた。まるで彼こそが犯人を知っているように感じたからだ。
「まさかぁ。ボクは探偵ちゃいます──あくまで容疑者の一人。この事件はキミたちが解決せな、ねぇ?」
口元を扇子で隠しながら、椋が糸目を細める。その扇子の下でどれほど不快な笑みを浮かべているのか、想像するのも嫌だった。
「僕たちが……」
「くふふ……楓ちゃんほんま賢いわぁ」
椋はにっこりと微笑んで楓の頭を撫でようとしたが、坊主に阻まれて『あら』と眉尻を下げて笑う。
しかし、それも一瞬だった。
「夕飯は全員で取れるようにセッティングしとくなぁ。証拠見つけたら──ボクにもこっそり犯人教えてや」
パチンと音を立てて閉じた扇子で、軽く藤之助の肩をつついた椋が悪戯っぽく告げる。百合の香りを纏わせたその麗人は、鬼鳴りの音を響かせながら廊下の先へと消えた。
「早く行きましょう。アイツに焚き付けられたみたいで嫌なんで」
藤之助は、椋につつかれた肩をしっかり払いながら、困惑した様子の楓に向き直る。その勢いに負けた楓がおずおずと頷きを返す中、坊主の小さなため息が聞こえた。
しかし、二人の探偵ごっこを咎めるつもりはないらしい。
「……無茶はしないでくれよ。柊殿にも松蔭殿にも顔向けできなくなっちまうから」
坊主の了承を得て、楓がホッとした様子で頭を下げる。
藤之助は楓を急かすように袖を軽く引っ張り、足早に廊下を進んでいった。




