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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
3部

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【桃源の春爛漫と百千鳥】3

「海斗ぉ、どうしたの? お部屋の前で」


 ゆったりと階段を登りながら母親の汐里が声をかけてくる。海斗は何が起きたのかわからないといった顔をして『うん』と言った。海斗の手にスマホがあることに気づいた汐里がはにかむ。


「ごめんねぇ、忙しいところ邪魔しちゃって」

「い、いいよ……何? 大事な用事?」


 汐里は両手の指を絡ませていた。やたらと薬指に嵌めた指輪を気にしているように指で触っている。『用事ってほどじゃないんだけどぉ……』と前置きした汐里は、やがてうっとりとした顔で言った。


「あのねぇ、海斗。良かったらお母さんと一緒にカウンセリングに行ってみない?」


 突然何を言われたのか分からず、海斗は怪訝そうな顔をしている。


「お友達にね、そういう悩みを持った人たちの集まりがあるの。お母さん、海斗と行きたいなぁ」

「──ッそれ……!」


 海斗は思わず声を上げようとした。


「小さい頃から女の子が苦手でしょ? お母さん以外の女の人と喋れないんじゃこの先絶対苦労するわうちの跡取りだっていつかは海斗や海斗の子供が継ぐことになるんだしそのためにはお嫁さんが必要じゃない女の子と喋れるようになるには」


 汐里は一方的に喋り続けている。海斗は、豹変した母親の様子よりも自分を拒絶されたような気持ちで唇を噛んだ。自分を理解してくれているはずの母がそんなふうに思っていたことが悲しかった。


「そんなの、自分が一番分かってるよ……治そうとしたよ……。だから共学にしたんだよ。家庭部にも入ったよッ……でも……」


 気持ちが高ぶってしまったのか、海斗は涙目だ。

 突然息子に泣き出された汐里は、我に返ったように半泣きになってしまう。これではどっちが悪者なのか分からない。


「え──あッ……ごめんね海斗! わ、私どうしたんだろう……ああッ、泣かないで!」

「ううッ……どっかいっちゃえ! お母さんの馬鹿ぁ……」


 二人の言い合う声に祖父や祖母も何事かと階段の下から心配そうな顔を向けている。父の隼人が階段を上がってこようとすると、入れ替わりに汐里が涙ぐんで階段を降りていく。彦右衛門が声をかけようとするが、汐里は真っ直ぐに玄関に向かって家から飛び出してしまうのだった。

 汐里の居なくなった橘家は、まるでお通夜のようにしんと静まり返っている。


「海斗、お母さんに謝ろう」

「お父さんも、お母さんの味方?」


 海斗が背中を向けてすすり泣きながら尋ねる。隼人は目尻を下げて微笑むのだった。


「お父さんは、お母さんと海斗の味方」


 人の良さそうな笑みを浮かべて、隼人が海斗の頭を優しく撫でる。


「お母さんが海斗のことを大好きなことも、海斗が悩んでることも知ってる。無理に治す必要は無いってお義父さんとお義母さんも言ってたよ」


 海斗はべそをかきながら頷いた。


「お母さんは今色々考えることが多くて、ちょっと焦っちゃっただけなんだ。許してあげられる?」


 海斗が泣きながら頷くと、隼人は海斗の頭を優しく撫でる。

 分かっていても、治したくても海斗の病は癒えない。それは彼の理解者である汐里なら一番わかってくれているとおもっていたし、家を飛び出した汐里も充分理解していた。


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