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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
1部

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【美化活動】3

 休み明けの月曜日。その日、早めに学校へ集合した僕達は眠そうな顔で登校してきた日熊先生を引っ張って花壇の前と連れてきた。


「な、何をする! 貴様ら! やめんか!」

「見てください、日熊センセイ。昨日、私たちで花壇の手入れをしたんですよ♡」


 ハク先輩が色とりどりの花壇を指し示す。なんと、朝一番に学校にやってきて水やりも済ませておいたのだという。さすがはハク先輩だ。


「…………」

「いやあ、素晴らしい花壇ですな」


 そう言いながら現れたのは校長先生だ。人の良さそうな白髪頭のおじいさんである。いいタイミングで来てくれた。

 いつの間にか、花壇の周りには他学年の先生や登校してきた生徒達の姿もあった。


「なんだなんだ?」

「オカ研の仕業らしいぜ」

「オカ研ってまだ活動してたのかよ。懲りねえなあ……」


 口々に話す生徒達の視線を背中に浴びながら、僕達は期待を込めた眼差しで日熊先生を見つめた。日熊先生はと言えば、黙ったまま何も答えない。それどころか、何か怒っているような……?


「おい日熊、こんなの学校に貢献したことにならねえ! とか抜かすんじゃねーだろうにゃー……」


 ゴウ先輩が日熊先生の顔を覗き込んでぎょっとした。目を丸くしたまま僕達に振り返ったゴウ先輩は、蚊の鳴くような声で「泣いてる」と囁く。

 泣いてる? あの日熊先生が?


「ひ、日熊センセイ? あの……」


 ハク先輩が遠慮がちに声をかける。日熊先生は涙でベチャベチャになった顔をゆっくり向けると、開口一番言った。


「全員……部室に、こい……」


 そう呟いた日熊先生は、涙を拭うと片手で着いてくるよう促した。

 大きい熊のような背中についていった先には、僕達オカルト研究部の部室がある。


「入れ」


 言われた通り、僕達は部長、ゴウ先輩、小鳥遊先輩、ハク先輩、僕の順で部室へと入っていき、最後に日熊先生が部室へと入る。さすがにもう涙は引っ込んでいるようだ。


「花壇を手入れし、学校の環境を美化させたことは素直に褒めてやろう。──よくやった。涙で前が見えなくなるくらいには感動した」

「あれって感動してたんだ……」


 日熊先生による賞賛の言葉に、ハク先輩が苦笑した。

 続いて顔を見合わせた僕達は、日熊先生からとびきりの高評価を得たことを確信する。

 泣くほど感動してくれたなら、いくら日熊先生でも認めざるを得ないだろう。オカルト研究部の顧問になることを。


「じゃあ、正式に私たちの顧問になってくれるんですね♡」


 ハク先輩が嬉しそうに両手を合わせる。

 しかし、その時だった。日熊先生が深く息を吸い込んで言い放った言葉に僕たちオカルト研究部一同は驚愕する。


「だが! 俺はオカルト研究部とかいう胡散臭い部活動の存続は認めん」

「な……何だよッ!約束が違うじゃねーか!教師が嘘つくのかにゃー!」


 ゴウ先輩がネコミミを立てて唇を尖らせながらブーイングをする。

 日熊先生は腕を組んだまま続けた。


「人の話は最後まで聞けドラ猫ッ! 妖怪研究とほざくからには、妖怪の一匹や二匹は当然見たことがあるんだろう? それが何か学校や地域のためになったのか? なってないだろ」


 日熊先生は僕達を一瞥した。妖怪を見たことがない部長は当然黙っている。


「妖怪なんて存在しないものを研究するくらいなら毎日花の手入れでもしていれば俺も喜んで顧問として──」

「妖怪は──居ます」


 突如発言したのは高千穂レン部長だった。

 肩にかかるツインテールを手で払った部長は、小柄な体に似合わない凛とした声で言い放つ。


「あたしの家、高千穂財閥は悪しき妖怪を人知れず討伐する陰陽師の存在を知ってるわ。実際に総連に資金援助もしてるし」

「ふん──あんなのは詐欺師だ。金持ちってのは無駄金をバラまくのが好きだな」


 鼻を鳴らした日熊先生の話に、僕は違和感を覚える。

 あんなの、だなんて……まるで総連を知っているかのような口振りだからだ。


「どうしてそんなこと言うの……? 先生だって──」


 ハク先輩が不思議そうな表情で何かを言いかけた。


「し、信じないとは言ってない! 最後まで聞け!」


 慌てたように、まるでハク先輩の台詞を遮るようにして不自然に声を荒らげた日熊先生が大きく咳払いをする。


「それでも、お前らがどうしても妖怪なんぞを信じてるって言うなら──椿女のかんざしを持ってこい」

「椿女……?」


ハク先輩が首を傾げる。僕と小鳥遊先輩は顔を合わせて、アイコンタクトを送る。まあ小鳥遊先輩の牛乳瓶底メガネの奥は見えないわけだが……椿女って、先日小鳥遊先輩に教えてもらった古椿のことじゃないか? と思ったからだ。


「古い七不思議だ。焼却炉の近くに椿の木があるだろ。あの木には椿女とかいう精霊が宿ってると言われてる。椿女が髪に差しているかんざしを持ってきて俺に見せろって言ってるんだ」


 日熊先生はそう言うと、おもむろに大きな背を向けた。


「七不思議の通りなら、椿女は……紅蓮の髪を持つ鬼神の娘が傍に来ると目覚めると言われている」


 その言葉に、ゴウ先輩とハク先輩がちらりと僕を見た。紅蓮の髪を持つ鬼神の娘って……間違いない。冥鬼のことだ。


「ま、椿女なんか居るわけないが──」

「わかりました」


 気づけば、僕は誰よりも早く即答していた。


「椿女のかんざし……取ってきます」


 そう答えると……何故だろう、日熊先生がニヤリと笑ったように見えたのは。

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