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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
3部

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【春の風、桜さくらと転がして】3

「どーもォ〜。オカルト研究部の顔がいい方の顧問、尾崎九兵衛でっす☆ いやァ、一年生の女の子たちが離してくれなくてさァ……遅れてごめんね〜」


 整った顔で胡散臭さたっぷりの笑みを見せた尾崎に、楓は思わず席を立ってわなわなと肩を震わせた。


「な、な、な……」

「とりあえず座ったら? 鬼道楓クン」


 尾崎はそう言ってニタリと笑った。間違いなく、この胡散臭さたっぷりの笑顔は尾崎九兵衛そのものだ。けれど、生きているはずがない。彼はあの時、冥鬼の鬼斬丸に貫かれてその身を焼かれたのだから。楓の背中に人知れず冷や汗が流れる。


「ずいぶん部員が増えたッスね〜。そんじゃ早速──オカルト研究部最初の恒例行事をみんなにやってもらおうかな〜」

「こ、恒例行事って何だよ馬鹿教師」

「いい質問だね、ドラ猫ちゃん」


 その呼び方を聞いて、ゴウは目をぱちくりさせる。彼を『ドラ猫』と呼ぶのは一人しかいないからだ。


「聞いてないわよッ、恒例行事なんて!」

「高千穂ちゃんもヒートアップ禁止。まずは座って話聞いて欲しいッス」


 腕を組んで憤慨しているレンをなだめるように、あるいは異性の機嫌を取るように尾崎が悪戯っぽく笑う。何か言いたげなレンが大人しく席についたのを確認すると、改めて部員の増えたオカルト研究部一同を見た。


「えー、何だっけ。新一年生は入学おめでと。二年生は、あー……楓クンだけっぽくない? ウケるね。進級できたんだ。三年生に関してはー……今年で卒業だっけ? 残り少ない時間頑張って〜。ハイ終わり!」


 興味なさそうにサクサクと進行するその言動から、尾崎九兵衛がオカルト研究部にとってどういう顧問なのか新入生にも伝わったようだ。


「んで〜、みんなにとって貴重なこの一年をどう過ごしていくか、センセイなりに考えてみたんスけどォ……今日はたまたま居ないけど副顧問とも相談して決めたんで、そこんとこシクヨロ☆」


 キザっぽくウインクなどをして見せた尾崎は、室内の空気が冷えきっていることなどお構いなしでどんどん話を続ける。


「えーっとね、今日はオカルト研究部恒例、花壇の掃除をしてもらいます。雑草も伸び放題だし? 校舎ぐるっと一周ピッカピカにしてもらいたいんスよね。いわゆる奉仕活動ってやつ〜?」


 どこかで聞いたような話に二年生及び三年生の表情が曇る。即座に不満げな声を上げたのは一年生の琴三だった。


「え〜聞いてな〜い! てか、ウチ汚いの無理なんですけど〜」

「手を使いたくない人は買い出しね。奉仕活動を頑張る上級生に愛のこもったジュースの差し入れをしてもらうッス」


 尾崎がニマニマしながら琴三の頭を撫でた。琴三は猫耳を伏せて困ったように唇を尖らせる。


「お、重いのも無理だしぃ……」

「大丈夫大丈夫、女の子一人でやらせるわけないでしょ」


 尾崎はオカルト研究部の男子一同を順番に眺めた。新入生だが少女のように可憐なキイチ。子供そのものの体躯に力もなさそうなゴウ。そしてキイチ同様に細身の楓。消去法によって、その目は宿儺に向けられた。


「そこのタッパある新入生、一緒に買い出ししてもらえる?」

「いっすよ」


 宿儺は嫌な顔もせず即答で快諾する。


「ウン、いい返事。じゃあ残りのみんなはジャージに着替えて校庭集合! 遅れたら罰ゲームとして屋上から恥ずかしい秘密を告白してもらうッスよ〜」


 尾崎は悪戯っぽく笑うと、宿儺に部費として買い出し用の金を渡してから教室を出ていった。


「えーん、誰か代わってくださ〜い!」

「買い出しが無理なら雑草むしりだぞ。ミミズとか出るからな」

「イヤーッ! 絶対無理なんですけど!」


 ゴウに脅された琴三はキャーキャーと散々騒いだ挙句、ふてくされたように唇を尖らせた。そんな琴三を気遣ってハクが声をかける。


「琴三ちゃん、良かったら一緒に校庭まで行く?」

「行きますぅ!」

「じゃあ私の着替えが終わるまで待っててもらえるかしら?」

「ハク先輩だーい好き! いくらでも待ちますっ☆ 部室の外で待ってますね!」


 すっかり機嫌を良くした琴三は、えへへと笑ってしっぽを左右に振りながら身を翻した。


「じゃ、オレは校門で待ってるから……って聞いてねえし……」


 声掛けにも振り返ることなく、さっさと部室を出ていく琴三の後ろ姿を見て、宿儺が小さなため息をつく。しかし不機嫌な様子を見せるどころか、どこか気まずそうに毛先を弄んだ宿儺は楓に再び頭を下げて部室を出ていった。

 レンは何か考えていたようだったが、すぐに憮然とした様子で『さっさと外に出なさい』と男子一同を睨みつける。キイチは女子と男子のどちらにつこうかきょろきょろと視線をさまよわせていたが、彼の判断基準は楓だ。気難しい顔をしている兄の腕へ甘えるようにしがみついた。


「兄さん、ボクたちも行こうよ」


 見上げるようにして声をかけるが、当の楓は眉間に皺を寄せたまま険しい表情をしている。


「……あの尾崎先生、本物だと思うか?」

「ボクわかんない。九兵衛は九兵衛だよ」


 キイチは普段と同じテンションで首を傾げる。質問の相手を間違えた、と楓が肩を落とす。そんな楓の背中にゴウの小さい手が触れた。


「オマエらも早く来いよ」


 ゴウはそう言ってあくびをすると、何事もなかったかのように部室を出ていく。もはやこの場で狼狽えているのは楓だけだった。

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